6月27日 アニメ『鬼武者』で三船敏郎復活!!
2023年11月に配信されていた『鬼武者』……やっと視聴!
主人公は今でも「世界一有名な侍俳優」として知られる三船敏郎! 1997年にこの世を去った三船敏郎をCGアニメとして復活。声を大塚明夫が吹き替える。
すでに故人である俳優を生き返らせるのか……と思われそうだけど、実は『鬼武者』シリーズはそれが売り。2002年に発売されたゲーム版『鬼武者2』では主人公が松田優作だった(当時の技術だったから、微妙に似てなかったんだけど……)。毎回故人が主演を演じる……というわけではなく、金城武やジャン・レノやといった当時世界的に名前が知られていて、それでいて一見してゲームとはなんら関わりがなさそうな人たちがキャスティングされていた。そういう「意外なキャスティング」こそが『鬼武者』シリーズの売り。
そこで今回は、今でももっとも名前の知られる日本人である名優・三船敏郎が抜擢された。非常に『鬼武者』らしいキャスティングだし、Netflixでの世界展開を考えると納得の選択だ。
アニメスタイルで描かれているけれども、その姿はバッチリ三船敏郎! これは嬉しい。「宮本武蔵」という役名で、三船敏郎は実際に宮本武蔵を演じたことはあるが、今回のアニメで描かれるのはどう見ても黒澤明監督『用心棒』『椿三十郎』の三船敏郎。まあどっちの三船が有名か……というとね。
画像を並べてみても、本作のイメージは『用心棒』『椿三十郎』の三船敏郎。
その三船敏郎の声を演じるのが大塚明夫。確かに声質が似ている! ただ、三船敏郎はあんなに滑舌はよくなかった……(三船は滑舌が悪い俳優だった)。
総監督に三池崇史。『13人の刺客』『愛と誠』『藁の楯』などで日本のアクション映画界を支える名監督。アニメーション業界とは一見して関わりのなさそうなところからの採用だ。こういうところも『鬼武者』らしい。アニメーション監督として補佐に回ったのが須貝真也。本作のアニメーション制作を担当したサブリメイションの創立者であり、2020年には『ドラゴンズドグマ』の監督を務めた。
主演が三船敏郎! そこで三船敏郎らしさを引き立てるシナリオ作りになっている。三船敏郎といったら一見してぶっきらぼうで悪ぶった雰囲気だが、実は情に厚く、しかも頭がいい……。三船と言えば……でみんなが思い描くキャラクター像を作品の中で描いている(それもだいたい『用心棒』や『椿三十郎』のイメージだけど)。三船敏郎が好きだった人が見たら嬉しくなる描き方だ。
ただし……はい、ここから苦言です。
問題なのがシナリオ。いや、シナリオというか「構想」。
お話しは農民同士の諍いから始まった。藩はこれを鎮めるために、藩きっての秀才で知られる伊右衛門を派遣したが、ところが伊右衛門は村人達を自身の配下に加え、反乱。そこでたまたま城下に逗留していた宮本武蔵に依頼がいく。伊右衛門の反乱を阻止せよ――それが藩の依頼だったが、宮本武蔵はこの依頼そのものに疑問を持ち、旅をしながら探りを入れるのだった……。
お話しはすでに旅が始まり、伊右衛門が潜伏する山の中から始まる。このままずっと山の中のみで物語が進行する。山の中でお話しが始まり、最後には伊右衛門討伐する……最初から目的が明確で、クライマックスへ向けて一本道で物語が展開していくように作られている。
この構成、実はシリーズアニメを作る上で「悪手」。あまりオススメできない手法だ。
というのも、お話しを広げづらい。登場人物の内面を掘り下げにくく、ドラマが深まらない。映画であれば、こういうワンシチュエーションものでうまく作られた名作はたくさんある。しかし10話前後で展開するシリーズものになると、かえって物語の広がりが収縮して、ドラマも深まらない。エピソードごとの個性も出しづらい。絵面も似たようなものになりがちで、後で思い返した時、あのエピソードが何話だったか、パッと思い出せなかったりする。
第1話を見た時、「これはまずいな……」と思ったが……案の定だった。この手の作品でありがちな、いまいち物語が広がらない、ドラマが深まらない……シリーズアニメの悪手にはまり込んじゃってる。
旅が進んでいく最中で、やはりというか、旅の仲間達が1人、また1人と命を落としていく。しかし……残念なくらい、情緒を感じない。ドラマの掘り下げがないなかで、登場人物の死を描いても、なんの感情も湧かない。それはただの描写であって、ドラマではない。意外性も示せていない。
でもこういう構成にした時点で、そうなるのは仕方ないよな……。作り手としての茨の道を選んでしまっている。
構想自体がまずい。そのうえにシナリオもよくない。主演が三船敏郎で、主人公が宮本武蔵。シナリオがそっちのほうに傾きすぎで、間もなく宮本武蔵のかつての宿敵である吉岡三兄弟や、最後には“あの人”も登場するのだけど、するとメインストーリーであるはずの「伊右衛門の反乱」の話がどうでもよくなってしまう。
最後には伊右衛門が拠点にしている砦に到達し、対決になるのだけど……そこまでの物語で、伊右衛門は比類なき剣の腕と知性の持ち主……と説明されてきたはずだったのだけど……。実際に出てきたのはただの“噛ませ犬”。そこに至るまで、さんざん「伊右衛門は凄いぞ!」「伊右衛門は凄まじい剣の腕前だぞ!」「伊右衛門に気をつけろ!」と盛り上げてきたのはなんだったのか……。
伊右衛門の過去についても描写される。もともとは遊郭での生まれだったが、しかし火事に見舞われて天涯孤独となってしまい、そこで藩の剣術指南だった松木兼介にひろわれ、そこでメキメキと剣術の才能を目覚めさせる。伊右衛門は侍として目覚めていく中で、平和になった時代に疑問を抱き、ある理想を語るようになるが……。
という伊右衛門にまつわるバックストーリーがかなりしっかり描かれてきたのだけど、クライマックスは宮本武蔵とあの人との決闘がメインになったために、伊右衛門は噛ませ犬扱い。伊右衛門の反乱のストーリーはどうでもよくなっていき、三船敏郎=宮本武蔵の物語が全部持っていってしまう。
せめて伊右衛門の反乱のストーリーはきちんと決着を付けようよ……。
キャラクターも引っかかりどころで、第2話、ヒロインであるさよちゃんが登場する。他のキャラクター達が劇画タッチで描かれているのに、さよちゃんだけアニメスタイル……。オッサンばかりで絵面が濃すぎる……という判断だったのだろう。でももうちょっと劇画タッチに寄せてもよかったんじゃないかな……。可愛いけどさ。
キャラクターデザインは凄く上手い。一流の腕前なのは見ればわかるけども、やはり実在人物である三船敏郎の存在感に負けている。それぞれのキャラクターにクセを付けようとしたのはわかるけども、なかなか感情移入しづらいキャラクター作りで……。
ここまできたら志村喬や宮口精二や千秋実といった実在俳優を起用してもよかったのでは……?
全体として見ると、やはり「三船敏郎主演!」というここに引っ張られすぎてるかな……。三船を立たせすぎて、周りの物語の扱いが雑になっちゃってる。確かに三船敏郎は今でも世界一有名な侍俳優で、みんな三船の活躍が見たいだろう……という読みは正しいけども。
それにやはり「構成」の問題。なぜこんな構成にしたのか、それはたぶん「予算」「期間」の問題じゃないかと……。舞台を限定すると、予算と期間も少なく納められる。企画がNetflixかカプコンのどちらが主導だったかわからないが、予算・期間ともにわりと厳しかったんじゃなかろうか……。その予算枠でクオリティを担保して作れるもの……そこで出てきたアンサーがこの作品なのではないかと。
この辺りは実際はどうかわからないけど。
と、苦言は書いたものの、面白くないわけじゃない。この制約の中ではしっかり作れている。アニメーションのクオリティ自体は一定水準以上。誰が見てもちゃんと楽しめる作品として作られている。これで「引っ掛かる」とかいうのは、私みたいな面倒くさい人だけでしょう。
三船敏郎の活躍を今の時代に見たい……という人は見て損はない。むしろ見るべき作品でしょう。