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4月8日 最近、女性アニメーター増えてない? そもそもアニメーターは女性向けの仕事かも知れない

 『明日ちゃんのセーラー服』を見ていてふと気付いたのだけど……女性アニメーター多くない?

女性アニメーター10人。男性アニメーター4人。不明1人

 毎回スタッフクレジットを見ていたわけではないけど、ある時、原画マンの半数以上が女性アニメーターだったということに気付いた。
 最近のアニメ界隈の状況はどうなっているのだろう? 私はそこまでアニメの現状に詳しくないのでわからないけど、ひょっとして業界的に女性が増えているのだろうか?

女性アニメーター6人。男性アニメーター6人。不明4人。
女性アニメーター11人。男性アニメーター9人。不明1人



 数年前に、アニメ学校に関するある話を聞いた。
 それは男子生徒の学ぶ意欲の低さ。女性生徒は積極的に学ぼうという意思を見せるのだけど、男子生徒は最低限の課題だけを済ませると、後は遊んで過ごすだけ……という子が多くなった、という。
 これは「マインド」の問題で、「作り手マインド」と「消費者マインド」ははっきり別モノ。作り手の意識と消費者の意識との間には大きな隔たりがあって、作り手マインドになると、作品をただ消化するのではなく、「どういう技術で作られているのか?」「どうやったらより良くなるのか?」「どうやったら自分ならではの作品が作れるのか……」といった発想になっていく。どんな作品を見る時でも、いつもそのことを考え続ける。一方消費者マインドは、作品を手にしても「良い」か「悪い」かしか判定しない。極端に傾くと、その商品を「欲しいか」「欲しくないか」という基準でしか作品を見なくなっていく。その基準でしか作品の良し悪しを判定できない……という人も出てくる。
 どうやら男子生徒は、アニメ学校に通っているけれども、その先に「自分が作り手になる」というイメージは持っていないようだ。つまり「オタク感覚」のまま学校に通っている。

 という話は、実は私がアニメ学校に在籍していた頃からあった話。
 私なんかは最初から「作り手マインド」のタイプだったから、「私はこういう作品を作りたいんだ」という理想を常に語っていた。でもそれを聞いた周りの男子達は大抵ドン引きだった。「うわー……この人……」みたいな顔をする。
 アニメを見てDVDを買ってフィギュアを買うまでは良い。でも自分で作りたいって、こいつヤベーやつだ……そういうふうに思われていた。
 それがオタクにとって普遍的な思想なのかは知らないが、私たちの世代では「アニメの作り手」といえば「頭のおかしいやつ」「変な奴ら」という見なし方だった。「作品は消費するが、作り手は一切尊敬しません」……だいたいみんなそういう感覚だった。もしかしたら、その人達が作品を作っている(あるいは「作り手が人格を持っている」という感覚)……という意識が、つまり「作品」と「作り手」が頭の中で繋がっていなかったのかも知れない。
 私はそういうのが本当に嫌いだった。アニメは見るしDVDは買うし、漫画も買うし、グッズはキャラの絵さえ入っていればシャツでもパンツでも買いあさるけれども、作り手は軽蔑の目で見る。私はそういう人は最低だな、と思っていた。「何様だよ、お前」って(彼らは彼らで、私みたいなのは「不可解」と映っていたみたいだけど)。

 そういう子達は、学年末になって、いざ業界に就職! ……という段階になると慌てる。すごく慌てる。何も準備していない。学校で学んだことをきちんと技術として習得していない。というか、自分が作り手になるの? え? 本当に? 僕、どうしよう……。
 本当にそういう子が一杯いた。プロの世界に行くイメージができてなかったし、自分が差別的に見ていた「作り手になるのか」ということにも現実感が持てない。
 そういう子がどうするのかというと、テキトーなところに就職し、1ヶ月くらいで辞めちゃう。いや、そもそも就職活動すらせず、実家に帰るパターンも多かった。お前さんは高い学費払って、何しに来たんだ。

 要するに「オタク活動の延長」でアニメ学校に来ちゃってたんだよね。
 なにしにアニメ学校に来たのか……というと「アニメを語る友達が欲しかった」とか「もっとたくさんのアニメが見たかったから」とか。業界に行きたかったのではなく、上京して「最速でアニメが見たかった」という動機の子もいた(この子は就職せず田舎に帰った)。……と、まあ要するにみんな「消費者マインド」のままだった。プロになる気がなかった、というか、自分がアニメの生産者になるというイメージがまったくなかった。

 こういう子、本当にアニメ学校では一杯いる。アニメーターは就職して1ヶ月で辞めちゃう子が多い……という理由は、「本当は作り手になるつもりのない子」がわりと多いからだよ。ちゃんとアニメの作り手になりたい……と思ったら、そう簡単にやめるものか。「(遊びに来たつもりが)なんとなくそのレールに乗っちゃったから……」という感じだから、1ヶ月とか1週間で辞めちゃう。

 そんな感じなので、アニメ学校に行っていたけれども、友達作るの大変だったんだ。学年末になって就職活動すら始めない子ばかりで……。私もそういう時期になって、私の周囲にいた人のほとんどが就職活動すらしないで、実家に帰る準備を始めていて……(私も鈍感だったので自分の周囲の人が「遊びに来たグループ」だと気付かず、学年末になって「あれ??」ってなった)。私は実はアニメの業界にいたのだけど、ツテがまったくないのはそういう理由。ほとんどがアニメの業界に行かなかったし、行った子も1ヶ月くらいでみんな辞めちゃった。私がアニメ業界に戻れなかった理由って、そういうところにも少しはあるよ。いざという時に、頼れる友達がいなかった。

 私の時代にも、そういう「作り手マインド」になれない子は一杯いたんだけど……。いよいよそういう子が男の子の間で多数派になっちゃったわけだ。それは……教え甲斐ないだろうなぁ……。「アニメは好きだけど、技術は学ぶ気ゼロ」の相手にも教えなくちゃいけないんだから。アニメ学校の教師は嫌だろうなぁ。

 じゃあ、いっそ「アニメーター女子校」というものを作った方が良いかも知れないね。だって、男子生徒がほとんどが「プロになる気なし」「遊びに来た」というタイプばかりなら、業界的に男子生徒を集めて教える意味がないもの。

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 アニメ学校の男子生徒に学ぶ意欲があまりにも低い……という話を実際の講師がTwitterに書いているのをネットで見た、というのも数年前。原画マンが女性アニメーターで占められている現象、というのは、その数年後の今の現象なのだろう。

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 いきなりだけど「プログラム」の話。いきなり何の話だ、と思われるが、しばしお付き合いを。
 コンピュータープログラムの黎明期の頃、そこは「女性の職場」だった。「コンピュータープログラム」のコンセプトを作り出したのはイギリス人数学者エイダ・ラブレス。「コンパイラ」「バグ」といった言葉を生んだのはグレース・ホッパー。WifiやGPSの基礎となる技術を設計したのはヘディ・ラマー。意外に思われるかも知れないが、コンピュータープログラムのもともとの基盤を作ったのは女性達である。
 ではなぜプログラマーに女性が多かったのか? プログラムのお仕事なんてものは、えんえん机に座り、えんえん画面に向かってぽつぽつとキーを入力し続ける仕事である。非常に地味だし、忍耐力が必要とされる仕事だ。こういう仕事、実は女性向きなのである。

 という話をすると、フェミニズムから「性別による職業の固定化だ」という批判が出てくるが、こういうのは厳然たる事実だ。女性はもともと家庭での忍耐ある仕事を得意都市、男性は外に出る仕事を特異とする。
 もちろん女性でも外に出る仕事が得意という人はいるし、男性でも家にこもる仕事が得意というタイプの人はいる。「例外」はいくらでもある(私だって「例外」のほうだし)。だが、人間というものを大きく俯瞰して見ると、だいたいの女性が家にこもっての仕事が得意だし、だいたいの男性は家の外に出る仕事を得意とする。これは遺伝子的特徴でもある。
 そういう観点で言うと、よくよく考えたら「プログラマー」というお仕事は女性にこそ向いている仕事だといえる。コンピューター黎明期に女性が多かった、というのは、そもそも女性に向いている仕事だったから……といえる。

 それがなぜ逆転してしまったのか?
 それは「プログラマー」が職業として成立し、給料が上がってくると、男性がプログラマーを目指すようになっていく。
 今ではプログラマーのほとんどが男性中心の社会となり、昨今では「女にはプログラマーは無理」とか、ひどい例になると「女は数学が理解できないからプログラマーにはなれない」みたいな言い方をする人もいる。
 しかし実体は逆。男性が多くなってきたのは、単にプログラマーの給料が上がったから。もともとは女性が多かった職業で、プログラマーの基礎はみんな女性が作っていた(男性の中にも、「実は無理してやっている」という人はいるんじゃないか?)。「プログラマーは男性向けの職業」という考え方は、後になってから生まれてきた思想だ。いや、現代人の「刷り込み」ってやつかな。

 「女性は数学が苦手」「男性は数学が得意」というのは、広く信じられている話のようだ。
 2016年の映画『ドリーム』は1960年代のNASAを舞台に、女性がロケット打ち上げでいかに功績を残したか。特に、複雑な“計算”を女性達が解き、いかにスペースシャトルを安全に打ち上げまで導いたか……という話が描かれている。私は未見だけど。
 という話からわかるように、数学の得意苦手に男女差はおそらく存在しない。多分、“何となくそう思う”という“気分”の集積で、そう思い込んでいるというだけじゃないだろうか。

 この件について、一応、検索をかけてみた。すると「理数系高校生の数学学力の男女差」というズバリなPDFが出てきた。
 これによると、男女の「数学得点差」のデータを見ると、男子生徒のほうが全体平均で見て少し高い(テストの平均点からデータを導き出している)。どれくらい高いかというと平均1点前後だ。年によっては女子生徒のほうが勝るというケースもあった。平均で見ると、確かに「男性のほうが数学が得意」と言えそうだが、しかし、せいぜい1点から2点程度の差だ。
 読み進めているとちょっと興味深いデータもあって、「共学」「男子校」「女子校」の比較があり、「共学」であると男子生徒のほうが成績が上になる傾向が多いが、しかし「男子校」「女子校」と別れた場合、女子生徒のほうが成績が上になるケースが多いようだ。
 これがなぜなのか私にはわからないが、とにかくも男子女子と環境を分けた場合、女子のほうが概ね成績が高くなるようだ。
 確かに男女間で数学理解度には差はあるらしいが、あったとしてもせいぜい平均1点前後くらいでしかない。しかも年によっては覆ることもある。体力差・筋力差において、男女間に格差というものは間違いなくあるが、頭脳労働に関する話での男女格差は存在しない……といってもいいはずだ。

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 さて「アニメーター」の仕事を見てみよう。アニメーターもよくよく考えたら、ひたすら机に向かって、地味な作業をやり続ける仕事だ。どう考えても女性向けの仕事だ。女性アニメーターが今の時代増えてきた、というのは実はある意味で自然なことだったのかも知れない。
 アニメ学校の男子生徒に学ぶ意欲が低く、女子生徒こそ学ぶ意欲が強い……という理由はわからない。男子生徒に「消費者マインド」を脱しきれない精神的事情があるのだろうとは察する。だが今時の若者の実体を知らない私には、よくわからない。
 ただ、どうせ現場に来ても1週間とか1ヶ月とかで辞めるような男性ばかりなら、意欲の高い女性が目指してきてくれたほうが良い。
 業界を見回してみると、最近のアニメは可愛い女の子が主人公のアニメばかり。だったら、女の子が女の子を描いたほうがいいに決まっている。

 例えば『明日ちゃんのセーラー服』6話のこのカット。何気ないカットだけど、「ほう」と感心した。肩に掛かった髪の毛をさらっと払って、肩紐を腕に通す、という演技が描かれていた。このカットを見て、「あ、女性アニメーターだな」っていう気がした。正解かどうか知らないけど。
 男は女が普段どうしているか、って案外知らないものなんだ。例えばお風呂に入る時、長い髪はお湯につけない……とか。知らないところだらけ。知らないで描くと、どこかしらおかしくなる。女性目線で「いや、それはない」ってなる。どうせだったら、美少女キャラクターは女性が描く。女性目線で、「理想の美少女を描く」。そちらのほうが、男性が考えるよりより濃いものが生まれるはずだろう。
(ちなみに『バキ』のアニメ制作者はめちゃくちゃマッチョ。格闘家みたいな人が『バキ』のアニメを描いている。『バキ』のようなアニメを作るにあたり、普段から格闘技やっている人が描くというのは非常に理にかなっている)

 それで、私が視聴している範囲で原画マンの男女比率を数えてみた。といっても、人数をきちんとカウントしなかったし、そもそも見ているアニメも多くないしで。だいたいの印象で、アニメーターの男女比は5:5ってところだろうか。もっと広い範囲で調査すれば、もしかすると女性アニメーターのほうが多くなっているかも……という気はした。「統計」というほど検証していないから、なんともいえないんだけど。

 まあ、ネットでアニメ評論家やっているおじさん達は、『明日ちゃんのセーラー服』みたいなアニメを指して、「こういうのを作っているはみんなオッサンだ」と言い続けるのだろうけどね。


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