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甲本ヒロト&真島昌利の楽曲から連想する映画について語ろう!【THE BLUE HEARTS〜THE HIGH-LOWS編】
松重豊監督の映画、『劇映画 孤独のグルメ』が映画とザ・クロマニヨンズとの特別な関係を結んだ作品で、改めて感無量すぎた!
なのでその勢いで、今までずっと思っていた
「甲本ヒロト&真島昌利の楽曲には映画を連想させるものが数多く存在する」
ことについて、ここで一気にぶちまけてみたいのだ!
ブルーハーツ、ハイロウズ、そしてクロマニヨンズに至るまで、ヒロトとマーシーが生み出してきた楽曲には、歌詞やタイトルから、あるいはメロディや曲調やリズムなどから映画作品を連想させられるものがかなりあるのね。
例えばハイロウズの『映画』(作詞作曲・甲本ヒロト)という名曲がありまして。
映画
楽しみにしていた 映画がくるんだよ
人気はないけど 僕は好きなんだよ
あなたに会えたらなあ 毎日だったらなあ
偶然でもいいけど 約束できたらなあ
これ、ヒロトの幼少期のころの思い出を歌っているように聴こえるどストレートな映画愛に溢れた曲じゃない。でも一方でこの曲を聴いてると、どうしたって映画好きの少年トトと街の小さな映画館で働く映写技師のアルフレッドとの絆を描いた1989年公開の名作映画『ニュー・シネマ・パラダイス』も連想しちゃう…。
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トトはお母さんに「絶対に映画館には行くな!」って言われてんのに行っちゃうし、アルフレッドも「ウチの子を映写室に入れないと誓え」って言われて誓ってんのになし崩し的に招き入れちゃうw 2人は歳の離れた友だちのようでもあり、お父さんが戦死してしまったトトにとって親子のようでもある、映画を通じた特別な関係なのだ。ヒロトが『映画』で「あなたに会えたらなあ」って歌ってるのを聴いてると勝手にこの2人のことを連想しちゃうんだよね。
このように、映画愛に溢れたハイロウズの名曲と、映画愛に溢れた名作映画が自分の中で特別な関係を結んで融合しちゃう。
そんな気持ちや感慨を抱かせるヒロト&マーシーの曲がほかにもたくさんある。これって単に曲を聴くだけに留まらない豊かな音楽体験であり、彼らの曲を味わったり楽しんだりするひとつの視点だと思うのだ。
ということで他にも沢山ある具体的な映画作品を連想させられちゃうヒロト&マーシーの楽曲をリリース順の時系列に沿って挙げてみたい。
ちなみにブルーハーツからハイロウズ、ハイロウズからクロマニヨンズにバンドが変わっていくにつれて映画を連想させる楽曲が増えてきてて、全部を一つの記事でまとめるの正直しんどい。なのでブルーハーツ&ハイロウズ編と、クロマニヨンズ編とで分けることにします。今回はブルーハーツ&ハイロウズ編!
尚、最初に断っておきたいのは、この記事は映画の主題歌やタイアップの楽曲を羅列していくものではありません。また「ヒロトやマーシーがこの映画にインスパイアされてこの曲を作ったに違いない…」みたいな考察をしたいわけでもない。あくまでこっちが楽曲を聞いて連想した映画を挙げていくだけの妄想記事ですw。中には無理くり結び付けてるものや半ば言いがかりに近いようなものもある。なんなら楽曲よりも後に公開された映画を結びつけたりもしてる。もいっといえば未見の映画すら挙げたりしてる(いやそれはダメだろ)w
けど、そこはもうイチ個人の勝手な妄想なので悪しからずということでお願いしますね。
※タイトル横のカッコ内は作詞作曲
■ラインを超えて(真島昌利)
『ジョニーは戦場へ行った』
『7月4日に生まれて』
『関心領域』
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まずはこれ。マーシー作詞作曲のマーシーボーカル曲。今となってはもうお目にかかれなそうなシリアスな反戦歌で、一語一語が深々と突き刺してくるような鋭さと重たさをもってこちらに響く曲である。
僕がオモチャの戦車で 戦争ごっこをしてた頃
遠くベトナムの空で 涙も枯れていた
ジョニーは戦場へ行った 僕はどこへ行くんだろう?
ということでまずは歌詞にもある、『ジョニーは戦場へ行った』を挙げる。けど、コレいきなりの未見wいや中学生ぐらいからずっと見なきゃって思ってるのに、とんでもない鬱映画だっていう触れ込みにビビッてかれこれ30年ぐらい経ってる…。いつか死ぬまでには見ます…。それから「ベトナムの空」というワードから、ベトナム戦争の帰還兵をトム・クルーズが演じている『7月4日に生まれて』も挙げたい。戦争で負った障害抱えて葛藤するトム・クルーズの姿が痛々しくて戦争の悲惨さや無情さを見せつけられる。そして「いま自分がのほほんと生きているこの瞬間にも世界のどこかで戦争が起きている…」という当時のマーシーの問題意識。それと同じような矛盾や欺瞞をつきつけてくる2024年公開作品『関心領域』も挙げておきたい。アウシュビッツ収容所の隣に住む一家の暮らしを見てるうちに、その壁一枚隔てた向こう側でどんなことが日々行われているのかを否応なしに想像させられる…。すぐそこで行われている惨状を感じてはいながらも見て見ぬ振りをして暮らせる人間の異常性を見せつけらるのだけど、いやいやこれは他人事ではないと思い至る。ウクライナやガザにつながってくる、まさしくいま現在の映画。つまり『ラインを超えて』もいま現在の曲なのだ。
■44口径:(甲本ヒロト)
『男たちの挽歌』
『ダーティハリー』
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夜が今 口を開けて
僕たちをのみ込んでいく
二丁拳銃 すべり込む
44口径(44マグナム)といえばクリント・イーストウッドが演じるキャラハン刑事の『ダーティハリー』。なんだけど、この曲は「二丁拳銃 はじけ飛ぶ」というワードが超強いので『男たちの挽歌』を挙げたい。1986年公開、ジョン・ウー監督の香港映画。これとにかくバカ面白い。血のつながった兄弟であるホーとキット。ホーを兄貴と慕う相棒役のマーク。この3人の男たちを中心に描く物語なんだが、この作品はとにかく劇団ひとり似のマークが主役のホーを完全に喰っている。お調子者なんだけど、やる時はたった1人できっちり落とし前をつける。しかもそれで重症負ったせいで落ちぶれてしまうのにホーへの忠誠は変わらないという完璧な漢の中の漢なの。で、このマークがとにかく二丁拳銃ではじけ飛ぶ。マークの二丁拳銃ガンアクションは後々のほかの作品にも大きな影響を与えている神シークエンスとなっている。あとストーリー上の細かい整合性がどうとかの揚げ足取ろうとするヤツらに「なんか文句あんのかぁ!?」ぐらいの勢いでお話をぶっ飛ばしていく推進力があるところも、お気楽なノリでぶっ飛んでるブルーハーツの『44口径』にすごくよく合ってると思う。
■1000のバイオリン(真島昌利)
『熱いトタン屋根の猫』
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後期ブルーハーツの名曲と言われている『1000のバイオリン』で特に印象的なフレーズ。
思い出は熱いトタン屋根の上 アイスクリームみたいに溶けていった
これに似たタイトルの映画『熱いトタン屋根の猫』を挙げたい。1958年公開のエリア・カザン監督作品。テネシー・ウィリアムズという戯曲作家の戯曲が原作で、綿花農場主の住居のみというほぼワンシチュエーションで話が完結する演劇的な映画。この記事全体でおそらく一番知られてない作品だと思うんだけど、それこそ「人気はないけど 僕は好きなんだよ」なやつ。若かりし頃のポールニューマンがニヒルな野郎なんだけど、いろいろあって最後のほうにようやく見せる笑顔が堪らんの。「熱いトタン屋根の猫」というワードは、一家の中で少し蚊帳の外に置かれているような存在のポールニューマンの妻であるエリザベステイラーがいうセリフの一つ。そして「思い出」というキーワードも非常に大事な場面で出てくる。現代の感覚からするとポリコレ的にアウトな言動もあったり悪役っぽいキャラが可哀想だったりするけど、作品自体は2階、1階、地下室という立体的な空間構造の中でそれぞれ誰がどこに動いて、どんなこと言うか…?とかが綿密に構成されてて今見てもめちゃくちゃ面白い。ちなみに『1000のバイオリン』には「ハックルベリーに会いに行く」というワードも出てくる。なので映画版の『ハックルベリーフィンの冒険』を挙げようかと思ったけど、やはりハックフィンはアメリカ文学の原点と言われたマーク・トゥエインの原作小説の印象が強いので、ここはもう『熱いトタン屋根の猫』推しで!
こっからはハイロウズ。
■ツイスト(甲本ヒロト)
『パルプ・フィクション』
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たしなむていどにツイストを
ショックで眠れない
ロックで踊りたい
予測がつかない
何が起こるかわからない
ハイロウズの1stに収録されている『ツイスト』!ポップで楽しいダンスナンバー!毎回これ聴いて思い出すのはタランティーノ監督を広く世に知らしめた『パルプ・フィクション』!マフィアの親分の妻であるユマ・サーマンと、マフィアの一味であるジョン・トラボルタの2人が、たまたま入ったダイナーのツイストコンテストでなぜか踊ることになる。はじめは渋々だったトラボルタが、踊り始めると段々と往年のダンス魂くすぐられて熱が入ってくる。シュールな2人の動きがオフビートなコメディエッセンスに溢れていてこのシークエンスホント最高だから。ジョン・トラボルタといったら一世を風靡した77年公開のアメリカ映画『サタデーナイト・フィーバー』の主演であり、そうした文脈も踏まえたキャスティングと演出の妙も味わい深い。ちなみにこのツイストダンスシーンの後に、この2人がとんでもない展開になっていく。まさに「予測がつかない 何が起こるかわからない」という強烈な印象を残すツイスト映画なのだ!
■シェーン(甲本ヒロト)
『シェーン』
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大人になったらガンマンに
西部一の早撃ちに
学校や塾はガンマンに
関係ない 必要ない
シェーン
カムバック シェーン
冒頭でこの記事は「ヒロトやマーシーが映画に影響を受けて曲を作ったという分析や考察をするものではない」と断りを入れたものの、これは流石に映画からインスパイアされているやつで間違いなさそうw『シェーン』は、ながれのものの早撃ちガンマンのシェーンがジョーイという少年とその両親のもとに居候になりながら、ジョーイの父親と抗争している悪党と闘う物語。古い映画だから途中の戦闘シーンのアクションが全然洗練されてなくて、武骨な殴り合いの肉弾戦ってのがまた良くて、銃を最後の最後までぶっ放さないのでカタルシスがすごい。そしてラストシーン。待ってましたとばかりにジョーイが叫ぶ
「シェーン!カムバァァァック!」w
最高w
ハイロウズの『シェーン』はシェーンが去っていった後に、ジョーイがシェーンのようなガンマンになることを夢見て日々を過ごしている姿を想像させてくれる2次創作的な曲になってるのが超楽しい。ちなみに映画『シェーン』にはハーモニカ吹きが出てくるところもヒロト&マーシー信者には高ポイントなのだ!
■二匹のマシンガン(甲本ヒロト)
『俺たちに明日はない』
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アダムの罪がリンゴなら 僕らはレコード
二匹のマシンガン
ハイロウズのソリッドでスリリングな側面の結晶のような超絶名曲。この曲を聴いて連想するのがボニー&クライドというアメリカで1930年代に実在した男女の強盗バディを描いた1967年公開の『俺たちに明日はない』!基本バカしか出てこない映画なんだけどwアメリカ中をとっかえひっかえする盗難車であてもなく漂い続けるボニーとクライドが、終盤ボニーが書いた詩によって定点に刻まれる展開が胸を打つ。そしてあのラストの刹那、ボニーとクライドの顔が素早く交互にカットバックされてサブリミナル的に2人で1人のように見える演出にハッ…!と息を飲まされる。そして「二匹のマシンガン…」としか言いようがない終着点…。ちなみに「アダムとイブのリンゴ」を思わせる2人で同じリンゴを囓るシーンもあったりするよ。
■ハスキー(欲望という名の戦車) (甲本ヒロト)
『欲望という名の電車』
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振り返るな 欲のタンク
フルスピード 欲のタンク
『二匹のマシンガン』が収録されている4thアルバム『バームクーヘン』のシングル曲。タイトルでカッコにくくられている「欲望という名の戦車」で連想するのが1951年公開の『欲望という名の電車』という作品。すでに挙げた『熱いトタン屋根の猫』と同じくテネシー・ウィリアムズの戯曲が原作のエリア・カザン監督作品。別格なオーラをまとう若かりし頃の主演マーロン・ブランドは、まじで導火線に火が付いた爆発寸前の火薬のような演技を見せてくれる。そのモノが違うマーロン・ブランドを向こうに張って、何かが憑依してるような欲望に狂わされた人物演じるヴィヴィアン・リーがまたすごい。そして「死の対極は欲望」というパンチラインが炸裂するのだ。このキーワードを頭に入れて『ハスキー(欲望という名の戦車)』を改めて聴くと、欲望のままに「振り返らない」「もう二度と戻らない」と突き進む命の輝きを戦車の推進力に置き換えてるように聴こえる。それでいて曲そのものは戦車の重厚感のようなイメージではなく、軽やかで伸びやかやなリズムやメロディによって表現されるのが面白くて、一筋縄ではいかないハイロウズらしさを感じさせるのだ。
ガンスリンガー(甲本ヒロト)
『許されざる者たち』
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誰もいない カラッポのベッド
傷口に眠る 無責任な弾丸
ガンスリンガー
夜明け前に 息を殺し
分け前さえ 数えもせずに
鉛の流線型
「ガンスリンガー」とはようするにガンマンのこと。なので特定の映画というよりは西部劇作品全般が連想できちゃう。だけど歌詞に「夜明け前に息を殺し」とあるので、夜明け前にたった一人で悪党どもたちの酒場に乗り込むガンマンをクリント・イーストウッドが演じる『許されざる者たち』を挙げたい。1960年代にマカロニ・ウエスタンに出まくっていたイーストウッドのフィルモグラフィーにおいて、ガンマン役としては最後期にあたる作品である。しかもイーストウッド自らが監督もしている。西部劇のアイコンである自らが、自らの作品によって西部劇という映画ジャンルを総括してる感じかガンマン映画全般を連想させる曲である『ガンスリンガー』っぽい。
■不死身の花(甲本ヒロト)
『シビル・ウォー』
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戦場に 咲いてしまった
銃声を 聞いてしまった
2024年公開の、いまをときめくA24スタジオ作品『シビル・ウォー』。もしアメリカが内紛を起こしたら?という本当になってしまいそうな架空の設定で、戦場カメラマンたちがNYからワシントンD.Cまで戦場を渡り歩くロードムービー。カメラマンが主人公なので、写真を撮るときのように一つのショットの中でピントがいろんなところへ移行する。1つのアメリカに多様なイデオロギーが存在していることのメタファーかな?とか思ったりする。尚、ほかの作品では軒並み好い人を演じることが多いジェシー・プレモンスが戦慄走る恐さでもう直視とかできなくなるやつ(褒めてます)w
でね、この作品の中盤に、もう「不死身の花」としか言えないシーンが出てくる。これはもう見た方が早いから見て!監督のアレックス・ガーランドは絶対ハイロウズの『不死身の花』聴いただろ!?絶対インスパイアされただろ!?って言いがかりつけたくなるやつw
◾️魔羅'77(もしくは魔羅’69) (甲本ヒロト)
『WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常』!
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ハイロウズのFUNKな側面がキラリと光る怪曲で、聴いてると段々病みつきになっちゃう魅力に溢れてるこの曲。ここは『WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常』を挙げたい!2014年公開の矢口史靖監督作品で主演が染谷翔太。年々担い手が減少してきている第一次産業の林業を描いた作品。しょうもないボンクラだった染谷翔太が山奥の神去村のカルチャーギャップを乗り越え山の漢として成長していく無茶苦茶面白い作品なんだけど、クライマックスにとんでもない展開が待っている。村のお祭り(儀式?)が執り行われる。そこでは男たちが山に登り、大木を削って作ったと思われるあり得ないぐらいバカでかい"シンボル魔羅"型のオブジェを山の頂上から力を合わせて押し出す。そして急斜面を滑走させて山のふもとにある凹型のオブジェにぶち込むという色んな意味で荒唐無稽かつ抱腹絶倒のシーンが待っているのだw 矢口監督、絶対『魔羅'77』からインスパイアしただろ(言いがかり)w このような長い年月にわたって行われてきたその土地特有の土俗的な意味のわからん奇祭って、FUNK(土着的・土俗的という意味がある)な楽曲とすこぶる相性がいい気がするとかしないとかw
◾️恋のダイナマイトダンス(甲本ヒロト)
『Shall weダンス?』
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ダンス Shall we dance?
もうあんな 気分はもう
もうたくさん
歌詞に「ミラーボール」とか昔のディスコ感もあるので『ツイスト』のところでも触れた『サタデーナイト・フィーバー』を挙げたいところだけど、正直この作品あんまり好きじゃなくてw ジョン・トラボルタのキレキレのダンスもBee Geesの『Stayin' Alive』がアガるオープニングも最高なんだけど、後半のアネットという女友達の扱いが酷すぎてドン引きするので、ここでは推さない。ギターの音色がタンゴっぽい曲だし、ここは歌詞に「Shall weダンス?」とある通りでド直球に『Shall weダンス?』を推したい!1996年公開の周防正行監督作品。日本アカデミー賞を総ナメにして社交ダンスブームを巻き起こした当時社会現象にまでなったやつ。主演の草刈民代はじめ、役所広司以外の役者がことごとく良い感じの棒読み台詞なのが堪らない(褒めてます)w ちょっと不純な動機で始めたダンスだけど、段々と純粋にダンスの魅力にのめり込んでいっていた役所広司に対して、前半はやたらツンツンしてる草刈民代が最高に冷や水ぶっかける一言をいうシーン。ここがまさに「もうあんな気分は もうたくさん」w 後半ちゃんと尖りがなくなっていく草刈民代のツンデレ具合が楽しい作品でもある。ラスト付近でテーマソングの『Shall We Dance?』がかかるタイミングが完璧すぎて超ブチ上がるから。
◾️俺たちに明日はない(甲本ヒロト)
『モリコーネ 映画が愛した音楽家』
『荒野の用心棒』
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曲のタイトルだけだと既に上記『二匹のマシンガン』のとこで挙げた映画『俺たちに明日はない』なんだけど、歌詞は完全に映画音楽作家のエンニオ・モリコーネのことを歌ってて。
ほら聞こえてきた 口笛のテーマ
モリコーネ 用心棒の復讐だ
モリコーネはそれこそ『ニュー・シネマ・パラダイス』も手がけてるし、マカロニウエスタンをはじめとする西部劇の名作の音楽は軒並み手がけてる映画音楽作家のゴッドオブゴッドなのね。2020年に惜しまれながらこの世を去った後に、自伝的映画の『モリコーネ 映画が愛した音楽家』が公開されている。ちなみにこの作品は『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレが監督。
あと歌詞にある「口笛のテーマ」でいえば『荒野の用心棒』!まさしく『さすらいの口笛』という曲がオープニングやエンドロールで使われており、一匹狼の哀愁を漂わせるクリント・イーストウッドの佇まいをより一層印象づける。稀代の映画音楽家とこれまた稀代の映画俳優のかけ合わせで、イーストウッドを一躍スターダムへと押し上げた作品である。
■荒野はるかに(真島昌利)
『続・夕陽のガンマン』
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どこで死ぬか果てるのか
わかるはずもない
ただ心の声だけが
道しるべだぜ
もう完全にタイトルも曲も歌詞もPVも西部劇をオマージュした曲としか思えないやつ。特に冒頭に挿入される口笛はいま上でも述べたとおりのモリコーネ印。わかりやすく西部劇の音楽を手掛けまくってきたモリコーネへのリスペクトを感じちゃう曲なのだ!ここではマカロニウエスタンの超名作『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』を挙げたい。イーストウッド主演、セルジオレオーネ監督作品。この作品にも口笛が挿入されたモリコーネの音楽が使われている。善玉役のイーストウッドに悪玉役イーライ・ウォラック、卑劣漢役リー・ヴァン・クリーフの緊張感ある三つ巴のガンアクションがたまらんやつ。加えて、だだっ広い荒野にこれでもかってぐらいのエキストラを配置したスケールがでかいスペクタクル感に溢れた画が見られる迫力満点の映画でもある。ちなみに私自身この映画見終わった後に余韻が凄くて、いてもたってもいられなくなって『荒野はるかに』を聴きまくったりしてたので、勝手に『荒野はるかに』は『続・夕陽のガンマン』の主題歌ということにしてるw
■サンダーロード(甲本ヒロト)
『狂い咲きサンダーロード』
『俺たちに明日はない』
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ハイロウズのラストシングルであり、爆走していくようなシンプルなロックンロールに切ないメロディで駆け抜けていく超好きな一曲。タイトルだけなら完全に『狂い咲きサンダーロード』。2024年に最新作『箱男』を公開したばかりの石井岳龍監督の1980年の作品。映画好きの間でカルト的な評価を得ている伝説的な作品だが、コレまさかの未見…。だから、というわけじゃないんだが、この曲を初めて聴いた時からずっと連想しちゃってた別の作品を挙げたい。ここまで何度も出てきてるボニー&クライド。『俺たちに明日はない』。
僕の果て サンダーロード
あなたの彼方 サンダーロード
そうなんだろ サンダーロード
他に道はないんだろう
三脚を立ててここに
二人並んで写真を撮ろう
眺めより景色よりも
二人並んで写真を撮ろう
歌詞この部分が、お互いにお互いだけしかいないバディ感と、2人で進む以外に選択肢のないボニー&クライドを連想させる。あと写真を撮るシーンもある映画なので。
ということでブルーハーツ&ハイロウズ編は以上。
と…言いたいところだけど、最後に未見の映画で終わるのもどうかと思い、「リリース順の基本時系列で挙げていく」というルールを無視してあともう一曲だけ挙げておく!
■バームクーヘン(甲本ヒロト)
『君たちはどう生きるか』
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スタジオジブリの宮崎駿の最新作。『風立ちぬ』で引退を宣言していた宮崎駿がそれを撤回してまでして作り上げた作品『君たちはどう生きるか』。最初のほうにお婆ちゃん達がわさわさ出てきた時の、コイツらこの世のモンじゃねぇ…感がこれぞジブリって感じでマジ堪らん作品です。
映画館で鑑賞して最初にまず思ったのが、
コレ…『バームクーヘン』じゃん…
と。
『バームクーヘン』は同じタイトルであるハイロウズ4枚目のアルバムのラストを飾る曲ね。ぶっといベースとパーカッションが印象的なサラリとしたショートチューンでありながら、そこでヒロトが歌う歌詞がとても哲学的で。
鳥は飛べる形 空を飛べる形
僕らは空を飛べない形 ダラダラ歩く形
ダヴィンチのひらめきと
ライト兄弟の勇気で
僕らは空を飛ばないかわり
月にロケットを飛ばす
たとえでっち上げたような夢も
口から出まかせでもいい
現実に変えていく
僕らはそんな形
鳥は飛べる形をしていて大空を羽ばたいているけど、ぼくらは飛ぶことができない。ダラダラ歩くだけ。でも翼のかわりにこの両手を使って、鳥も飛んでいけないところまで行けるロケットを飛ばす。でっちあげたような夢でも口から出まかせでも、それを現実に変えることができるじゃないか。
そんなことを歌っている。
翻って映画『君たちはどう生きるか』はどうか。見た人ならわかると思うけどとにかく「鳥」「鳥」「鳥」!なんだよね。これまで「飛行機」や「空を飛ぶこと」を沢山描いてきた宮崎駿が、「飛ぶこと自体が生態である鳥」をモチーフにして、全力で空への憧れを託している作品なのね。
それに留まらず『君たちはどう生きるか』では、これまでに宮崎駿が手がけてきたフィルモグラフィ13作品をセルフオマージュしている。ジブリ作品には箒や飛行機や夢の中で空を飛ぶシーンがたくさん出てくるじゃない。それらが全て詰め込まれている。それはまるで宮崎駿が作品を通して「僕は空を飛べないけど、空を駆け巡ることを想像しながら、この両手でこうやって空を飛ぶことへの憧れを託した数々のアニメーション作品を創造してきたんだよ。君たちはその両手を使って、何を生み出すの?どう生きるの?」とド直球に問いかけてくるかのようで。
…。
いやそんなのもう『バームクーヘン』じゃん…!
宮崎駿、絶対『バームクーヘン』聴いてインスパイアされただろー!!!(何回それ言うんw)
宮崎駿は「君たちはどう生きる?」って生真面目かつド直球に問いかけてくるけど、『バームクーヘン』はあえてその哲学的問いをカモフラージュするように「バームクーヘン食べよ」で人間の何でもなさすらも肯定する…。このあたりがもうヒロトらしいというかなんというか…。いやぁ改めて『バームクーヘン』超好きだわぁ…。
「『君たちはどう生きるか』=『バームクーヘン』説」、意外となきにしもあらずでしょ?w
ということでここまでが「ヒロト&マーシーの楽曲から連想する映画/ブルーハーツ&ハイロウズ編」でした!
次回クロマニヨンズ編に続く。