敗北の先に、星を見上げて
アルバイト後、秋風が冷たく吹く中で見たスマホの通知は、岡田タイガースの無残な結末を告げるものだった。
「阪神、連敗でCSファースト敗退」
二年連続日本一への期待はこんなにも呆気なく、一瞬で終わるものなのか。
あの日から月日は流れ、気づけば12月31日。本当はもっと早く今シーズンのまとめや記憶に残った試合について書きたかった。しかし、書きたいのに筆を取れない日々が続いていた。
そんな中、思いがけないきっかけで、今日やっとペンを握ることができた(「できた」というよりは、書かねば年は越せない!という執念に近いものがあるが)。
きっかけは、ベイスターズを応援し始めて10年以上になる学友に誘われて観に行った、ドキュメンタリー映画『勝ち切る覚悟 〜日本一までの79日〜』だった。
上映終了直後、なんとも言えない気持ちになった。どこか、悔しくてケジメをつけられていなかったことに気づいてしまったからだ。
映画館を出た後の第一声は「そりゃ勝てんわ」。
阪神にないものが、今年のベイスターズにはあったように感じた。
岡田監督になってから阪神はキャプテン制を敷いていない。私自身チームスポーツの経験がないので憶測にすぎないが、キャプテンの存在は大きいと思う。チームが上手くいっている時も、上手くいかない時も、一番みんなのことを考えている人。
映画を観て、「キャプテンの牧選手がいたからこそ、あの下剋上は実現したのだ」と感じた。
(阪神ファンの私がネタバレすればハマスタを出禁になりそうなので、ここでは控えめにいく)
対戦相手としての牧選手は、恐ろしいバッターだ。外角捌きの天才だということは、にわかの私でもよくわかる。今季は4番のみならず、2番を打つことも多く、塁に出してしまえば佐野選手、オースティン選手、宮崎選手の強打者が待ち構えている(((思い出すだけで恐怖…)))。
だが、映画の中の牧選手の姿は、もがき苦しむ一人のキャプテンだった。特に印象に残ったのは、巨人と3勝3敗になったCSファイナルの第5戦後と、日本シリーズで2連敗した後に行われた選手ミーティングのシーンだ。どちらもベイスターズにとって重要なターニングポイントだった。
誤解のないように書いておくが、「キャプテンがいたからの下克上」と思っている訳では無い。チームが最後まで「日本一になる」という共通の目標を持ち続けられたのは、決して彼一人の力ではないからだ。
今年メジャーから復帰した筒香選手、前キャプテンの佐野選手、ブルペンの山崎康晃投手と森原投手、そしてコーチ陣の支えがあったからこそだ。野手と投手の垣根を越え、一つになっていくチームの姿、そして変わっていく牧選手の目つきに釘付けになっていた。
昨年の阪神は、金本監督が荒廃した土地に種を蒔き、矢野監督が水をやり、岡田監督のもとで日本一という花を咲かせたシーズンだったと思う。だが、今年はその花を枯らさないことに必死になるあまり、選手一人一人がいっぱいいっぱいになって大切なものを見失っていた気がする。
5月末と6月上旬に観に行った試合を今でもはっきりと覚えている。ベイスターズ戦ではないが、どちらも手も足も出ず完敗だった。ピッチャーがピンチを背負っても野手はマウンドに寄らず、ベンチに戻る選手全員の表情がどんよりしていた。案の定、若手投手陣やクリーンアップが相次いで二軍落ちした。その後も勢いを保とうと奮闘したが、最後の最後で力尽きた。
阪神にも、負の連鎖に陥りそうな時、チームを引き戻してくれる存在がいれば…。
そんなことを考えずにはいられなかった。
映画の話をもっとしたいところだが、このままではベイファンの沼に足を踏み入れてしまいそうなので話をCSファーストに戻そう。
シーズン序盤から野手陣が振るわない中、今季の希望だった才木投手、髙橋投手、そして鉄壁リリーバーコンビが打たれたら仕方がない。
真っ向勝負の相手はあの「令和のマシンガン打線」だったのだから…!
(赤い球団がずっこけたからの3位だ、とか言う人もいたが、今シーズンの結果は決して偶然なんかじゃなくて、必然だったと映画を観て痛感した)
CS敗退直後、第2戦で先発した髙橋投手は「求められてることをこういうところで発揮できない。弱いなと思いました、自分を」と振り返った。
「可哀想」という声もSNSで見かけたが、むしろ彼の覚悟が詰まった言葉に感じられて、頼もしいと思った。プロの世界の厳しさは、今季1025日ぶりに復活星を挙げた彼自身が一番よく知っているだろう。"ガラスのエース"は、確かに最後まで"スーパーエース"だった。
髙橋投手の言葉を思い返すと、今年の阪神は敗れたからこそ見えた課題も多かったのだと思う。日本一を目指す中で足りなかったもの、そして足していくべきものが明らかになったシーズンだった。
来年、藤川新監督率いる新生タイガースがどんなチームとして再び戦うのか。どのように生まれ変わるのか、今から楽しみで仕方がない。今年の悔しさを糧に、さらに強い阪神が見られることを信じている。もちろん、一番楽しみな対戦カードはベイスターズ戦だ。
実は筆者、阪神ファンではあるものの、高校時代はベイスターズの選手がラッピングされた電車に揺られて通学していた過去がありまして... (当時はまだ「ファン」ではなかったが)
あの鮮やかな青さと選手たちの姿が毎日の風景に溶け込んでいたせいか、気づけばベイスターズに対してちょっとした“謎の親近感”を抱いている自分がいる。
阪神ファンとしてのプライドに影響はない…はずだが、その複雑な感情も含めて来年の対戦が楽しみだ。
そんな期待を胸に、この文章を書き終えたことで、ようやく年を越せそうだ。ありがとう、2024年の阪神タイガース。
また来年、頼むで。