![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/71365610/rectangle_large_type_2_0793763bc3e35082baf977614683e632.png?width=1200)
【翻訳のヒント】文字数を減らしてみよう
こんにちは。レビューアーの佐藤です。一般的によく言われる「良い翻訳」の条件の1つは、一文が適度に短く、シンプルであることです。あまりに長い訳文は、どんなに正確であったとしても、読者の気持ちを萎えさせます。単純に短ければいいという話ではありませんが、削れるところは削った方が読者フレンドリーです。
というわけで今回は、「文字を減らす」ことにフォーカスして、明日からすぐに使えるヒントをご紹介します。いわば、文字の断捨離です!
ヒント1:「こと」をなくす
手っ取り早く文字を減らすには、「こと」という表現に注目します。無意識に使ってしまいがちですが、よくよく考えると、別になくてもかまいません。シンプルな例を見てみましょう。
You can search and copy text directly in ToolA.
ToolA で直接テキストを検索したり、コピーしたりすることができます。
↓
ToolAで直接テキストを検索したり、コピーしたりできます。
いろいろ頭を悩ませなくても、一瞬で5文字を削減できますね。
これほど簡単な例でなくても、「こと」に注目すると、文字を減らすための新たな道筋が見えてきます。
Tom remembers that she hasn't prepare her application.
トムは願書の準備ができていないことを思い出します。
↓
トムは願書の準備ができていないと気づきます。
↓
トムは願書の準備がまだであると気づきます。
これは少し応用編ですが、「こと」を使わないで書くにはどうするか?と考えた結果、「思い出す」ではなく「気づく」という表現を思いつきました。その後、少しずつ文字数を削り、最初の訳文から4文字短くできました。地味な成果ですが、こういう工夫は字幕翻訳のときに威力を発揮します(字幕翻訳については、またいつか書きたいと思っています)。
ヒント2:「たり」をなくす
「○○したり、○○したり」も使いたくなる表現ですが、文字数が増えてしまうのが問題です。これを回避するコツは、「○○する」という動詞をどうにかして名詞化することです。
If you find a damaged or expired item select the question mark on your screen in the upper right.
損傷したり有効期限が切れていたりする品目を見つけたら、画面右上にある疑問符を選択します。
↓
損傷または有効期限切れの品目を見つけたら、画面右上にある疑問符を選択します。
↓
損傷または有効期限切れの品目を見つけたら、画面右上の疑問符を選択します。
厳密に言えば、「損傷または有効期限切れの品目」という書き方は少し不自然なのですが、「損傷したり有効期限が切れていたり」という冗長な表現(と若干の違和感)に比べれば、許容できる範囲かと思います。
最終段階ではさらに削って、「画面右上にある」→「画面右上の」としました。こういう地味な削りテクニックが役に立つ場合もあるので、覚えておきましょう。
ヒント3:言わずもがなの言葉を省く
この辺から少し慣れと思い切りが必要になってきます。シンプルでわかりやすく、文字数の少ない訳文を作成するための基本は、「余分な言葉を省く」ことです。重ね言葉や同じ言葉の繰り返しを避けるのはもちろんですが、ここで提案したいのは、たいして意味のない副詞や、文脈でわかる名詞はあえて訳出しないという手法です。
例を見てみましょう。
To get the most out of this article, you will need the following technologies in addition to Rails and your Linux server:
この記事を最大限に活用するためには、RailsおよびLinuxサーバーの他に以下のテクノロジを導入することが必要となります。
↓
この記事を最大限に活用するには、RailsおよびLinuxサーバーの他に以下のテクノロジを導入する必要があります。
↓
この記事を最大限に活用するには、RailsおよびLinuxサーバーの他に以下を導入する必要があります。
まず小手先のテクニックとして「ため」と「すること」を削除し、さらに「テクノロジ」をカットしました。直後に箇条書きがあり、それを見れば具体的なことが書かれているため、あえて「テクノロジ」という無骨な言葉を置く必要はないと判断したわけです。訳抜けを指摘されることに恐怖感がある人はここまで思い切れないかもしれませんが、何が何でもすべての単語を訳出する必要はない、という考え方もあることを覚えておいてください。
なお、第一段階の訳に見られる「必要となります」は、産業翻訳ではあまり好まれない表現です。ぼやけた感じがするのと、無駄に文字数が多い印象があるためです。内容を正しく伝えるためにどうしても必要な場合以外は、避けることをお勧めします。
ヒント4:英単語にひきずられない
「意味は合っているが、キレが悪い表現」というものもあります。これまでの私の経験から言うと、こういう「キレの悪さ」は、英単語や英語のフレーズをそのままストレートに訳している場合によく発生します。原文の書き方にぴったり寄り添うことが常に正しいとは限りません。同じ意味を表現する、文字数の少ない言葉を探すことも必要です。
具体例を見てみましょう。
The root cause of the incorrect price has been identified, and the resulting incorrect payment will be corrected in the following month’s report.
価格が正しくなかった根本原因を特定しました。翌月のレポートでは、正しくなかった支払い金額が修正されます。
↓
価格が誤っていた根本原因が特定されました。翌月のレポートで、支払い金額の誤りを修正いたします。
↓
価格の誤りの根本原因が特定されました。翌月のレポートで、支払い金額の誤りを修正いたします。
ポイントは"incorrect"です。「正しくない」は辞書の先頭に載っている訳語であり、多くの翻訳者がまずこれを思い浮かべるでしょう。しかし実際の訳文に当てはめてみると、「〇〇ない」という否定の形が、少々まどろっこしい印象を与えます。「誤っている」と直接書いた方がシンプルではないでしょうか?
さらに最終段階では、文字数を減らすことを重視して、「誤っていた」という表現を名詞化してみました。名詞化を連発すると固い印象になるので、この手法はケースバイケースで使ってください。
「引き」で見てみよう
今回は「文字数を減らす」ことにフォーカスしましたが、文字数を減らしすぎて意味が伝わりにくくなるのでは本末転倒です。そのため、上記のヒントは適度に使うようにしてください。
1つの文を訳したら、その訳文を一度「引き」で見る癖をつけましょう。一つひとつの単語を追うのではなく、文字どおり少し離れた距離から、文全体を眺めてみます。そうすると、無意識に使ってしまった単語や表現の繰り返しを見つけやすくなります。