【翻訳のヒント】"continue"の訳し方いろいろ
こんにちは。レビューアーの佐藤です。今回は、"continue"という単語の訳し方のバリエーションについて考えてみます。
いつでも「し続ける」でいいのか?
ギリシャ神話のシシフォス(シーシュポス)のエピソードを知っていますか?神の怒りを買い、巨大な岩を山頂まで押し上げる苦役を永遠にし続けることになった人物の話です。今日の本題はギリシャ神話ではなく、"continue"という動詞の訳し方ですが、レビューをしていると、この動詞をひたすら「~し続ける」と訳すタイプの翻訳者に出会うことがあります。シシフォスのような、何かそうし続けなければならない理由でもあるのかと思ってしまいます。
"continue"=「し続ける」というセオリーが染みつきすぎているのかもしれませんが、実際のところ、そう訳すのがふさわしい場面もあれば、そうでない場面もあります。次の例を見てください。あるマーケティングソリューションの資料からの抜粋です。
【例A】は特に問題ありませんが、【例B】の訳し方には違和感を覚える人が多いのではないでしょうか?
【例B】については、言いたいことはわかるけれど、何かもどかしい感じがします。翻訳者はおそらく、"continue"と言えば「し続ける」だから……とシンプルに置き換え、そこで満足してしまったのでしょう。たしかに誤訳ではありませんが、読者から見ると消化不良は否めません。原文の意味を日本語で的確に表現するために、もっと他の表現を模索する必要があります。
別に動詞として訳さなくてもいい
先ほどの【例B】の違和感を解消するために考え出したのが、以下の【訳例2】と【訳例3】です。原文を読み返し、そこから受け取ったイメージをもとに、日本語として一番しっくりくる表現を考えました。
ポイントは「~し続ける」という動詞を使わず、「引き続き」「これからも」といった副詞的な表現に置き換えたことです。「~し続ける」という動詞に固執しなくても、原文の"continue"の意味を表現できることがわかります。この点に気づくと、表現の幅がぐっと広がります。
……ところで余談ですが、ときどき、このような原文を「~重点を置き続けるでしょう」と訳してくる人がいます。"will"という単語と中学英語の知識にひきずられた結果だと思いますが、上の訳例を見てもわかるように、この"will"には<推量>の意味はありません。この件についてはネット上にいろいろ解説記事があるので、気になった人はGoogleで検索してみてください。
もっと存在感を弱めていい場合も
"continue"の意味を副詞的に表現する方法を紹介しましたが、応用編として、もっと存在感を弱め、うっすらと意味を感じさせる手もあります。具体例を見てみましょう。これも同じく、マーケティングソリューションに関する資料からの抜粋です。
【訳例1】は、原文の言葉遣いを尊重しながら、違和感のないようにまとめた訳文です。もちろん、この訳し方で問題はありません。しかし、よくよく眺めてみると、「継続的な」の部分が過剰であるようです。そこでシンプルさを優先して手直ししたのが【訳例2】です。「長年かけて○○してきた」のなかに、「継続的に」の意味が吸収されています。一つひとつの英単語を訳出しなければ!と馬鹿真面目に取り組むのもよいですが、ときにはこうやって文全体のなかで表現する手法にも挑戦してみましょう。
いろいろな引き出しを作ろう
皆さんのヒントになるよう、"continue"を使ったシンプルな原文に対して、数パターンの訳文を考えてみました。細部の装飾を変えれば、バリエーションはいくらでも作成できます。「~し続ける」の呪縛にとらわれず、いろいろな引き出しを作ってください。