あなどれない読点!~「どういう意味に読まれるか?」を意識しよう~
こんにちは。翻訳者・レビューアの小島です。今回は、英日翻訳で訳文を作るうえで避けて通れない「読点」について考えてみます。皆さんは普段、どういうところで読点を打っているでしょうか。原文どおりの位置でしょうか。音読するときに一息置くところでしょうか。
読点の付け方は、究極的には書き手の判断にゆだねられるもので、好みによるとも言えます。ですが、原文の内容を正確に伝えなければならない実務翻訳では、「誤解を生まないための読点の使い方」を意識する必要があります。
いくつかの例を見ながら考えてみましょう。
読点がなくて困る例①
読点を打たなかったがために誤解を招くことがあります。次の例文を見てください。
訳文だけを見ると、「XToolを使用して外部コード内で定義されたデータ型」までがひとつながりに読めるのではないでしょうか。つまり、「XToolを使用して(外部コード内で)データ型を定義する」という関係に見えます。
ですが原文を見ると、実際には「XToolを使用してデータ型を操作する」という関係です。先ほどの訳文では誤解を招きかねないので、読点を打って意味の区切りを示した方がよいでしょう。たとえば、以下のようにします。
もしくは、語順を変えて以下のようにすることもできます。
もちろん、「XTool」は外部コード内で使えるようなものではないと知っている人は誤解しないかもしれません。ですが、誰が読んでも正しい意味が伝わる訳文がベストです。読点を打つだけで、誤解を防ぐことができます。
読点がなくて困る例②
もう一つ、例文を見てみましょう。
この訳文だけを誰かに見せて、「FunctionAでは何を計算するのでしょうか?」と質問したら、きっと2パターンの答えが返ってくると思います。パターン1は、「(構成行列に対応する)固有値」の1つだけで、パターン2は、「構成行列」と「(その構成行列に)対応する固有値」の2つです。原文を見ればわかりますが、正解はもちろんパターン2のほうです。以下のように読点を打つと、誤解のリスクを下げられます。
読点が多すぎて困る例
読点がないと誤解を招くことがあると言っても、むやみやたらに打てばよいわけでもありません。読点が多すぎてわかりにくくなる場合もあります。
次の例はどうでしょうか。
原文がわかりにくいという問題はありますが、これは明らかに読点の打ちすぎです。文がぶつ切れになっているせいで意味をとりにくいので、不要な読点を削る必要があります。さらに語順も変えれば明快な文になります。たとえば、以下のようにできます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。読点の打ち方によって違う意味に捉えられてしまったり、わかりにくくなったりすることが理解できたと思います。実際の案件ではクライアントの好みに合わせる必要がありますが、最低限、読み手の誤解のもとやストレスをなくすよう、読点を使いたいものです。
ちなみに、読点の打ち方について個人的にとても勉強になったのは、本田勝一著『<新版>日本語の作文技術』の第四章「句読点の打ち方」です。この本には西欧批判的な主義思想の記述があり、少し気になるのですが、すぐに使える実用的なコツが載っているのでおすすめです。興味のある方は読んでみてください。