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【翻訳のヒント】“include”はいつも「含む」でいい?
こんにちは。翻訳者・レビューアの小島です。昨年11月の記事「【翻訳のヒント】"use"はいつも「使用する」でいい?」をお読みいただけたでしょうか。「この単語はこう訳す」という決まり手にとらわれず、原文のメッセージを的確に伝える表現を探そう、という話でした。今回はその”include”バージョンです。
”include”の意味を聞かれたら、ほとんどの人が真っ先に「含む」と答えるでしょう。つい反射的に「含む」と訳しがちですが、文脈によってはしっくりこないこともあります。ここでは、いくつか例を挙げながら考えてみましょう。
例示の”include”
まずは以下の文を考えてみましょう。”include”をひとまず「含む」と解釈し、無生物主語文の主体を変えて訳してあります。
Symptoms include headaches, vomiting and fever.
症状には頭痛、嘔吐、発熱が含まれます。
これでも間違いとは言えませんが、少しぎこちない感じがするのではないでしょうか。
この文が表しているのは、「“Symptoms”という枠(カテゴリ)の中に、”headaches”、”vomiting”、”fever”が含まれている」ということであり、つまり「例示」です。日本語で例を挙げるときはどう言うでしょうか。以下のような表現が考えられます。
症状としては頭痛、嘔吐、発熱などがあります。
症状の例としては頭痛、嘔吐、発熱が挙げられます。
症状には頭痛、嘔吐、発熱などがあります。
このように、主語(S)が<カテゴリ>で、目的語(O)がその<例>を示す場合の”S include O”は、
S(の例)としては O がある[挙げられる]
S には O などがある
のように訳すと自然になる場合があります。
参考までに、『ビジネス技術実用英語大辞典V6』には以下の例文が載っています。
Typical functions include image enhancement, measurement, feature extraction and character recognition.
代表的機能として, 画像強調, 測定, 特徴抽出, および文字認識(など)がある.
構成要素を示す”include”
次はこの文について考えてみます。まずは直訳です。
This team includes a product owner, scrum master, and developers.
このチームには、プロダクトオーナー、スクラムマスター、デベロッパーが含まれている。
言わんとしていることはわかりますが、普通、こういう表現はしないでしょう。
この文が表しているのは、「”This team”という集合に、構成メンバーとして”a product owner”、”(a) scrum master”、”developers”が含まれている」ということであり、つまり、集合と構成要素の関係を示しています。
それを踏まえて、以下の訳文が考えられます。
このチームは、プロダクトオーナー、スクラムマスター、デベロッパーで構成されている。
このチームには、プロダクトオーナー、スクラムマスター、デベロッパーがいる。
このように、主語(S)が<集合>で、目的語(O)がその<構成要素>を示す場合の”S include O”は、
S は O で構成されている
S には O がある[いる]
のように訳すと自然になる場合があります。
参考までに、『ビジネス技術実用英語大辞典V6』には以下の例文が載っています。
This chapter includes [contains] the following sections:
この章は, 次の節で構成されています.; この章は, 以下の節に分かれる.
まだまだある!「含む」以外の訳がよい例
その他にも、「含む」という定番表現ではしっくりこない"include"の用例はいろいろあります。いくつか具体例を見てみましょう。
Special instructions must include the following legal language:
【直訳】
特記事項は、以下の法的文言を含まなければならない。
【言い換えのポイント】
・特記事項は人が書くもの→人を主体とした文にする
・「特記事項に<何らかの内容>を含める」→「特記事項に<何らかの内容>を記載する」ということ
【修正訳案】
特記事項に以下の法的文言を記載しなければならない。
特記事項として、以下の法的文言を記載しなければならない。
To get a discount, you are required to prove the existence of a contract with AAA company. This includes providing a written statement listing the start and end date of your existing agreement.
【直訳】
割引を受けるためには、AAA社と契約を締結していることの証明が必要です。これには、履行中の契約の開始日と終了日が記載された書面を提出することが含まれます。
【言い換えのポイント】
・ここの”This”は前文内容を指す
・「AAA社と契約を締結していることの証明」という作業に、”includes”以降の作業が含まれるということ
【修正訳案】
割引を受けるためには、AAA社と契約を締結していることの証明が必要です。その際、履行中の契約の開始日と終了日が記載された書面を提出していただきます。
New!: WebMeetingTool includes a Virtual Background.
【直訳】
新機能:WebMeetingToolに「バーチャル背景」が含まれています。
【言い換えのポイント】
・”New!”とあるので、”Virtual Background”が”WebMeetingTool”に新たに含まれるようになったということ。これを自然な表現にする。
【修正訳案】
新機能:WebMeetingToolに「バーチャル背景」が追加されました。
主語と目的語の関係に応じて、適切な表現に言い換えよう
いろいろ書きましたが、大切なのは、「主語と目的語の関係などに応じて、より適切な表現に言い換える」ことです。文脈に応じて最適な表現を選べるのが、機械にはない人間の強みだと思います。表現の幅を広げるための参考になれば幸いです!