「ミッドフット接地」の定義について考える
陸王でも話題になった、「足裏の中央部で接地する」とか、「足の裏全体で接地する」と言われているミッドフット走法ですが、私の知る範囲では、厳密に足の中央部や、足の裏全体で同時に接地して走る人を見たことがありません。
ですが、ミッドフット走法で走ると言われている、自称する人は数多くいるので、ミッドフット走法とは何だろう?ということを考えてみます。
あくまで私の主観に基づく内容でして、専門家の監修等は受けていません。「この話が正しい」ということではなく、「こういう考え方の変わり者がいる」くらいに思っていただければと思います。
私がひねくれ者のように考える理由
1998年から放送されているGet Sportsという番組の初期の頃だったかと思います。元ヤクルトスワローズの古田選手について「古田のキャッチング」というテーマ(古い話なので記憶が定かでないかもしれません)で、キャッチャーのキャッチングについての解説がされていました。
私は少年野球の経験があるのですが、その頃から、キャッチャーは脇を締めて、キャッチャーミットを扇の形のように左右に動かして捕球しなさい、というのがセオリーとされていました。
ところが、古田選手は脇を開けて捕球をすること、そのために他の選手ができない動作もできることを説明され、常識とされていたやり方よりも利点が多いということに衝撃を受けました。
それまでは私は指導者の教えは絶対で、教えられたことは忠実に守らなければならないと思っていましたが、言われたことを鵜呑みにせず、自分で考え抜いた人が結果を出すことを理解し、それまでの自分が間違っていたことを悟りました。
思えば当時、野茂投手のピッチングフォームやイチロー選手のバッティングフォームなど、それまでの常識を覆すような選手が活躍していたかと思います。
最近では、落合氏の理論などを聞いても、一流になる人は自分で考えに考え抜いてるんだなということがわかります。
この経験から、言われていることをそのまま受け取るのではなく、自分で色々と考えるようになりました。
接地方法が注目されるようになったきっかけ
話をランニングの接地方法に戻します。
接地方法、特にフォアフット接地がブームになったのは、2012年のNHKスペシャルからではないでしょうか。
パトリック・マカウ、ハイレ・ゲブレシラシエのランニングフォームを分析し、フォアフットであることが強さの秘訣とされた番組です。
それまでも接地についての議論はありましたが、市民ランナーにまで幅広く意識されたのは、このあたりからかと思います。
スロー映像の調査
まずは日本人のフォアフットの代名詞とも言える、大迫選手のスロー映像から。
次に、大迫選手関連含め、他の選手の接地を確認できる動画をいくつか。
最終的に足全体が地面につく選手は多いですが、地面に最初に触れる瞬間は、下の写真の2か所のどちらかになっています。
こちらの動画ではミッドフット接地と説明されているものがありますが、厳密には接地の瞬間はやや踵側の方が先に地面に触れているかと思います。
足裏全体で接地する選手がいない理由
走行時の膝下の軌道はこちらの図のようになっているはずです。
足が弧を描くような軌道になるので、地面と完全に平行になるタイミングはごく短時間となり、そのタイミングを正確に捉え続けることは困難です。仮に足裏全体で接地することができたとしても、一歩一歩タイミングが微妙にずれるので、全ての接地が足裏全体からにはならないはずです。
また、接点を小さくして足首関節で衝撃を逃がしているので、足裏全体で同時に地面につくと、足首で衝撃が吸収できずに良くなさそうな気がしています。
試しにその場でジャンプして膝を伸ばしたまま着地してみると、膝関節で衝撃が吸収できないのが分かるかと思います。
短距離選手が言う「フラット接地」
短距離選手の中では「ミッドフット走法」というより、「フラット接地」という言葉がよく使われます。こちらについては、踵は着かないけれども、足先で地面を押さずに地面反力をしっかり受けることと、アキレス腱の反射を狙っているのかと思います。
1991年東京世界陸上での日本陸連のバイオメカニクス研究班の解析により、膝関節、足首関節を積極的に使わない方が速いというデータが出ていることからです。
意識と実際の動作の違い
ランニングフォームについて、よく「体(or 重心)の真下に接地しなさい」と言われることがあります。
しかし、実際には重心の少し前に接地していることになります。これは多くの人の重心の真下に接地するという感覚は、実際の重心の真下よりやや前になっています。ですので、意識としては真下だけれども、厳密には真下より前ということが正しい言い方になります。
スポーツを教えられる時には、「事実としてそうある」ということと、「事実とは違うけれどもそういう意識を持つと正しい動作になる」ということがあるかと思います。私が言う「厳密な接地位置としてのミッドフットはない」というのは前者ですし、「ミッドフット走法を目指しなさい」というのは後者になるかと思います。
「ミッドフット走法」の定義
「ミッドフット走法」の定義としては、いくつかあるかと思います。厳密には若干の違いがありますが、どれも似たようなことになるので、こんな感じがミッドフット走法だよ、というところしょうか。
1. 前で接地するけれども踵が浮いたままにならず、足裏全体が地面につく
これは大迫選手のように踵が浮いたままになるのがフォアフット、前から接地しても踵が地面につくのがミッドフット、という分類になるかと思います。
2. 接地する瞬間の足の角度が地面と平行に近い
こちらはORPHEのセンサーで採用されている方法です。厳密には前か後ろで接地していても、地面と平行に近ければミッドフットとするルールです。皮肉にも、ミッドフット走法の定義がわからないと言った私は、この計測方法だとミッドフット走法に分類されることになります。
3. 接地する時の足首角度
弘山勉氏の見解です。説明が少し難しくなりますので、リンク先を参照してください。
市民ランナーには難しい技術なのか?
元々はヒールストライクであった私ですが、ここ一年程、接地方法の改善に挑戦してみました。きっかけは、高校時代まで陸上競技をやっていたのに、30秒とか1分であってもフォアフット走法ができなかったことです。
よく、フォアフットで走るのには筋力が必要と言われますが、長距離をフォアフットで走るのは難しいにしても、短時間でもできないのは、筋力的な問題ではなくて、技術の問題ではないかと思い、いろいろトライしてみました。結論としては、市民ランナーでも習得しやすい技術かと思います。
先程も出したこちらの画像のように、
膝下が伸び切ったところで接地すると、極端なヒールストライクになります。接地膝の真下に近づけることで、ミッドフットやフォアフットで接地するようになります。
意識する点は一つ。足の切替のタイミングだけで、こちらの動画が非常に参考になりました。
間違ってしまうといけないのは、足首を底屈させて、無理やり足先で接地することです。おそらくミッドフットやフラット接地ということが推奨されることの理由の一つに、足首関節を底屈させないことがあるのかと思われます。
よく、フォアフットやミッドフットには筋力が必要で、一般の市民ランナーには難しいと言われることがあります。おそらく、フォアフットにするとふくらはぎを痛めることが多いことから言われているようです。
ふくらはぎを痛める理由は主に2つ考えられ、1つは足先に力を入れすぎること。もう1つはオーバープロネーションです。前者は足先で地面を押そうとしないこと、後者はカーフレイズなどで、ふくらはぎの筋力を少しだけ補強してあげれば良いかと思います。
ずっと爪先立ちのようなイメージで筋力が必要かと思われていますが、スキップをすれば誰でもフォアフットやミッドフットになるはずで、正しく行えば自然の動作の一つかと思うので、興味がある方は挑戦してみたらいかがでしょうか。
この話についての天の声
その探求心を仕事に使ってくれると良いんだけど...