心の浄化週間〜DAY2-①〜
「お母さん、トイレ!」の声に浅い眠りから目が覚めた。ベッドからゆっくり起き上がり隣の部屋のドアを開けた。息子がロフトベッドの階段を降りてくる。二人で一緒にトイレへ行きキッチンでコップ1杯の麦茶を飲む。これが毎朝のルーティンである。
私はそのまま朝食を作り始め、息子は部屋に戻り、朝食ができて呼ばれるまで二度寝である。
今朝は寝覚めが悪い。明け方からグルグルと上司との面談のシーンやセリフが頭の中でリピートしている。
「私がいたらなかったんだと思います。」
「チームの皆に迷惑かけて申し訳ないです。」
気分を変える為にテレビをつけた。
今日も猛暑のようだ。
ランドセルを背負った息子が
「今日お母さん、仕事終わるの早い?」
「うん。今日も早く帰ってくるよ。」
「やった!じゃあ、宿題のタブレットドリル一緒にやろうね。行ってきまーす。」と元気に飛び出して行った。
最近、学校から帰ってくると私がいるので、少し変だなと思いながらも一緒に過ごせる時間が多くなり嬉しいようだ。
数週間前から毎日テレワーク、昨日から1週間の休暇なのだが、息子には仕事が早く終わって帰ってきていることにしてある。
夫には病院にかかるときに打ち明けてある。
「今日は白金にいくの?」と新聞を読みながら夫が聞く。
「北鎌倉行こうと思ってる。」
「え?北里さん縁の場所にするんじゃなかったの?」
昨日の土産話しに、新紙幣つながりで北里大学にでも行こうかな、なんて話していたのを思い出す。
「やっぱり、行ったことない鎌倉の洋館に行きたくなってさ、ついでに北鎌倉にちょっと小旅行してくるよ。」
昨晩は寝つきが悪く北里柴三郎と津田梅子をググりすぎて、その人生や人となりを調べ尽くして満足してしまったのだ。
またもや初心に戻り、洋館巡りを続行することにした。
北鎌倉駅に降り立った。ホームの幅が狭く昭和にタイムスリップしたかのような駅だ。学生が多い。試験中なのだろうか、11時頃だが帰宅の途につくようで駅にざわざわ入っていく。
今日もじりじりと日差しが容赦なく顔を刺す。
折り畳みの日傘をとりだしながら、グーグルマップで位置を確認する。
今日の1番の目的は旧華頂宮邸であるが、せっかく鎌倉に行くのだから、北鎌倉に立ち寄ってみたかった。最近ブラタモリの再放送で北鎌倉の回を見たからだ。
北鎌倉駅→円覚寺→明月院→建長寺→→→旧華頂宮邸→鎌倉駅
という行程を考えていた。北鎌倉からの移動はシェアサイクルを借りようと昨晩シェアアプリの登録も済ませていた。
しかしそんなに簡単にいかないのが旅の醍醐味である。
まずは、駅から近い円覚寺に歩いていった。入館料を支払い案内パンフレットを確認しようとベンチに腰掛けた。たくさんの風鈴がぶさらがっていて風が吹く度にちりんちりんと大合唱する。
禅宗のお寺であり、北条氏の家紋である三つ鱗(ミツウロコ)が入っているので間違いなく北条ゆかりのお寺である。
階段を上ると、大きな山門が現れた。山門の前に立て看板があった。
~山門は三解脱門(空・無相・無願)を象徴するといわれ、諸々の煩悩を取り払う門とされます。山門を通って娑婆世界を断ち切り、清浄な気持ちで佛殿の本尊さまをお参りしなければならないとされます~と書いてある。
「無願」という言葉に、健康になりますようにー、とか軽くお願いしようと思っていたその甘い心をガツンと小突かれてしまった。
山門をくぐるには清浄な気持ちで娑婆世界や煩悩を断ち切りー、ってどうやってやればよいの?
煩悩だらけで心が定まらない私は、その門の前で立ち止まってしまった。
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