詩* 待合室
車椅子の母の隣で
賢治の詩を読んでいた
ここの待合室は
車椅子に乗った親と
アラフィフを過ぎた子ども達が
よく目立つ
時おり
歩行器を押した元気な高齢者が
杖をついた友人と楽しそうに
おしゃべりしている
とても穏やかで美しい光景だ
ゆったり流れる時間の中で
大勢の人間が名前で呼ばれたり
番号で呼ばれたりしている
ふと
現実と詩が
か細い糸で繋がった
賢治の妹は林に行きたがり
私の母は施設に帰りたがる
家族の愛情や思い出よりも
欲しいものがそこにはある
誰もが我が家に帰りたいと
希うわけではないのだ
親孝行のカタチに囚われていた
小さな自分が霞んでゆく
世界は誰の思い通りにもならない
あと何度 母の車椅子を
押すことが出来るのだろう
あと何度 穏やかな母を
焼きつける事が出来るのだろう
今はただ
冷たくて優しい言葉たちが
静かに通り過ぎてゆくだけ