読書感想文「裸の華」
桜木紫乃さん著の「裸の華」を読みました。
主人公は舞台で大きな怪我をしてそのままひっそり引退したストリッパー。
「私はもう踊れない」とステージをあきらめた彼女が生きる糧の為に選んだ新しい舞台は初めて踊り子として舞台を踏んだ北海道。
最初の場所を最後の場所と決めた、一人の女性の物語。
この物語には、私が今まで劇場で出会った全ての人がいると思った。
いつの間にかひっそりと舞台を去った踊り子さん、引退興行で「元気でね!」とお互い言いあってお別れした踊り子さん、踊り子を見守り、美しく彩ろうと心を砕く劇場のスタッフさん。若さと才能にあふれていて、未来へ向かっていこうとする、これから「何か」になろうとしている女の子たち。
タンバさんやリボンさん、初めて入ったストリップ劇場でステージの虜になる女性客はきっと私できっとあなた。
人生の斜陽に向かっているであろう中年女性の話のはずなのに、読み進めるにつれて主人公がどんどん眩しくなっていく。
自分を慕って委ねてくれるこれからの才能たち、不義理をして引退した自分を偶然と言えど探して出して会いにきてくれた昔からのファンとの再会と別れ、否定も肯定もせず日常を支えてくれる同志。
お話に出てくる誰もが、今その瞬間を「二度とない時間」として大切に生きている。
日常を惰性でしか生きていない自分を恥じた。
読み終わった時、不思議な爽快感があった。
私だって、今からでも何かになれるんじゃない?と思った。
同時に、言い訳ばかりで何もしてこなかった自分の情けない人生に気づいてしまった。
そして架空のあの場所から羽ばたいていく人達みんなを応援したい気持ちになった。
ストリップの物語として読み始めたけど、ストリッパーは最初から最後まで、一人しか登場しなかった。
なんならストリップ劇場だってほとんど登場しなかった。
たった一人のストリッパー以外に登場するのは「未来」と「青春」。
若くなくたって未来はあるし、青春なんて自分が感じれば人生いつだって青春だ。
彼女と彼女達は、きっと今もどこかで踊り続けている。