やさしく、ふかく、おもしろい組織開発新論 番外編#2 個の「ライフシフト」へ応用してみたら、凄かった!
英国の組織論学者リンダ・グラットン著『ライフシフト』は、日本でもベストセラーになりましたが、
従来の 学ぶ→働く→引退するという単線的なライフステージ観から、社会に出た後は会社勤め、フリーランス、学び直し、副業・兼業、起業、ボランティアなど
さまざまなステージを並行しながら生涯現役であり続けるという「マルチステージ」モデルが提唱されたものでした。
人生100年時代における新しい考え方として支持されたのでしょうが、実際に日本で会社員が実践するには少々無理がありました。
ところが、新型コロナウィルスの影響によるリモートワークの本格的導入などがきっかけになり、会社員の働き方・生き方の多様化が一気に進んだ感があります。
僕は組織開発のコンサルタントですが、この機会を活用して、会社員個々人のライフシフトへ、十数年活用してきた組織開発のメソッドを応用してみたら効果があるはずという仮説を実行、検証してみました。
すると、当初の想像以上にフィットしたのです!その取り組みからエッセンス部分を抽出して今回はお伝えしようと思います。
※今回の内容を一枚の図にするとこんな感じです。本文にて解説しますね!
■ミドルシニア会社員の悩み
僕は2022年春にオンラインで幸せ視点の経営学を学び合うコミュニティhintのイノベーションクラスに参加しました。
そのゼミで起案した事業が、40〜50代会社員の幸せ視点セカンドキャリアを支援するというものでした。
リーンスタートアップの手法に沿って、コミュニティの中から対象になる十数名の方にご協力いただき、CPFインタビュー(Customer Problem Fit:ある顧客が解決を熱望する課題を見つける)を実施しました。
まぁ、自己投資して学びに来るくらいの人たちですから、セカンドキャリアへの悩みはそんなにないと想像していましたが、真剣に考え、準備もしているからこその共通する悩みや願いが意外にも噴き出してきました。
会社に残るか/出るかの二択ではない気がする。
自分らしい想いや持ち味を生かしてセカキャリにはばたきたい。
思い切って一歩踏み出すため誰かに肩を押してほしい。
■彼らの悩みの背景には
しかし、このような真摯な問題意識とは裏腹に、彼らが所属する会社の同僚たちの現状の多くはこんな感じのようでした。
これまで蓄積してきたスキルや経験は、社内でしか通用しないものと思い込んでおり、環境変化に対応するため会社が勧めるリスキリングにも渋々取り組んでいる。
外に出たらこれまでの年収の半分以下になってしまうような事例をたくさん聞いていると、なんとかいられるかぎり会社にしがみつくしかない。
これまで会社の期待に応えるべくやってきた。やる気がないわけではなく、やりたいことを考えたり、やってみる方法を知らない。
■その真因と解決の方向性
このような状況がクローズアップされ、組織変革の阻害要因であり、微塵も変わる気のない岩盤層とか粘土層と揶揄される「働かないおじさん問題」となっているのでは。
でも、これはある意味、一面的な見方であって、上記のような思考・行動パターンの根っこには「会社のことを第一に考える習慣」が染み付いているのではないかと僕は見ています。
(それが、かつての日本企業の躍進を支えたとも言えるでしょう。)
もしそうだとすれば、この状況を変えていくには、仕事や人生の「主導権」をミドルシニア層の社員一人ひとりが握ることから始めることが不可欠でしょう。
言葉を変えれば、組織に忖度しての「やらなくちゃ」から自分自身の「やりたい」のウェートをだんだん高めていくこと。
そこを突き抜けていくイノベーターたちを心から支援したいと思いました!
■【らしんばん】をライフシフトに応用してみる
そのとき閃いたのが、僕が組織開発で多用してきたメソッドを使ってみたらどうかでした。
もともと僕の組織開発論の生命線は、一人ひとりの想いや持ち味を起点にして組織の価値創造パターンを創っていくスタイルなので。
で、メンバー個々の想いをもとに、事業や組織をパーパス→戦略→アクション→カルチャーのサイクルで回していく【らしんばん】を、個のライフシフトにも応用してみることにしました。
※【らしんばん】の詳細についてはこちらで解説しています↓
2022年の後半にプロトタイプにてプログラムを試験的に運営し、いただいたフィードバックを入念に吟味し仕上げたものを、2023年1月から「hintセカキャリ・スタジオ」として立ち上げました。
対象者は、主に前述のような悩みや願いを持った40〜50代の会社員。全10回のワークショップを半年間でオンラインにて進めます。
定員は少人数制で6名。現在まで第1期から第3期を実施してきています。
余談ですが、3つの期ともすべて男性、女性3人ずつの構成でとてもいい感じです。先着順で何の調整も加えていないのですが・・・
また、「ライフシフト」の考えからすると「セカキャリ(セカンドキャリア)」は旧い考え方ではと感じる方もいらっしゃいますよね。
実は、われわれは、会社のこと第一に考えてきたファーストキャリアから、自分自身が主導権を握る「セカキャリ」へというような意味合いでとらえています。
さて、ではこのプログラムはどんな展開をするのかですが・・・
【らしんばん】に沿って、まず個の想いや持ち味を丁寧に掘り下げていき、「心の奥底にある個人的な信念や強い関心から追求される目標」を発見していきます。
これをセルフ・コンコーダント・ゴール(SCGと略しています)と言いますが、プログラムの主軸に据え、全行程の半分を費やすのが特色です。
パイロットのときに、時間的な制約もあってSCGを納得いくように見つけられなかったケースもあり、その場合、戦略やアクションを定めてもどこか薄っぺらさが残ってしまいました。
参加者も全員がここを重点的にやるべきだという意見でした。
納得いくSCGが定まった後は、それを実現する”為事”(仕える事でなく、為す事)を戦略的にひとつ定めて、周囲の人たちを巻き込みながら楽しく実験していくという流れになります。
後半のポイントは、一度定めたらそれを絶対に達成すべきものとして思い詰めないことですね。迷ったら原点のSCGに立ち返って、ナビゲーターや参加メンバーとの対話によって軌道修正や試行錯誤していきます。
この大きな流れを図にしてみた、いわば個のライフシフトのための【らしんばん】がこれです↓
また、全10回のプログラム概要はこんな感じです↓
■プログラム運営から見えてきたこと
やってみてどんなことが見えてきたか?まずは体験者の声をご紹介しますね。
第1期生の声より
SCGによる二択視点からの解放
上記の体験者の声からもなんとなく見えているかもしれませんが、セルフ・コンコーダント・ゴール(SCG)を徹底して軸にすると、会社に残るか/出るかの二択視点を超えてしまいますね。
SCGを実現するためのキャリア戦略を立てるとき、所属する組織で何か始めてみようという人と、いまの組織に依らず新しい選択を試してみようという人の割合は、実際のところ半々くらいです。
より大事なことは、SCGを実現するために何をするかにフォーカスされるので、残るか/出るかは二義的になるということでしょう。
beとdoのバランス
もう一つ重要な視点として、beとdoをうまくバランスさせることが挙げられます。
キャリアを考えるとき、スキルや資格の取得含め、すること(do)が中心のアクションプラン的なものになり、自らの深い欲求に根差すことを意識しづらかったり、
逆に、こうありたい(be)という抽象度の高いものに寄ってしまうと、現実に何をすればいいのかにつながりにくかったりすることも多いのでは。
僕は、SCGを「タネ」と捉えてみたらどうかと考えてます。
タネの中には、一時成長が止まった形での胚が眠っています。タネが水を吸うと、この胚が目を覚まして、まず幼根が現われ、次に幼芽が伸びてきます。
根っこが「こうありたい」(be)で、芽が「こうしたい」(do)です。つまり、beとdoに橋をかける存在としてSCGを見出せると、幸せ視点のキャリアに近づく絵が描きやすいということがわかってきています。
チームラーニング
組織開発の専門家でありながら、こんなことを言うのはちょっと恥ずかしいのですが・・・
【らしんばん】を使って、個のライフシフトを進めていくときに、チームの力がこんなにも効果的なんだという驚きがありました。
まず、環境はお互いに違っても、ほぼ同じ時代を生きてきた連帯感のようなものがお互いの関係性をより強めることになる。
他者の異なる状況や考え方を深い部分で聴き、そこに想いを馳せることで、その対比から自分自身の理解や言語化が促進される。
悩みや想いを共有した上で、お互いを応援し合うしくみなども入れることで参加者という枠組みを超えた同志や仲間になっていく。
■組織開発&ライフシフトの2本柱へ
ということで、組織開発新論の番外編#2として、個のライフシフトについてての取り組みをお伝えしてきました。
やってみて僕自身の”為事”にも大きな影響がありました。
自律分散チームがあちこちで蠢くような組織開発を支援していく前段で、個のライフシフトから入った方が本質に踏み込みやすいと認識したのです。
そして、個人事業でやっているとんがりチーム®︎研究所の事業も、組織開発と(個の)ライフシフトの2本柱にすることに決めました。
今後、このnoteでは、ライフシフトをテーマにしたコラムも投稿していこうと思いますので、ご期待ください。
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