やさしく、ふかく、おもしろい組織開発新論 #2 複雑な世界を観るための【らしんばん】
■組織開発の「対象」と「視点」
前回のコラムでは、組織開発の対象は「人と人」、「人と仕事」、「人と組織」のつながりであり、これを再生するのが組織開発であると置いてみました。
この3つの対象は、それぞれに重なり合っていて、明確な区分がしにくいことはおわかりいただけるでしょう。
そんな複雑な状況を、解きほぐす道具として、今回は【らしんばん】というフレームによる4つの視点をご提示します。
4つの視点を導入することで、組織のパーパス(目的)や戦略、具体的なアクション、しくみやカルチャーなどを、俯瞰的かつ統合的に把握することができます。
■「視点」としての【らしんばん】
4つの象限をつくる
まず、縦と横の2つの軸を組み合わせて、マトリクスを作ります。縦軸を「リーダー(個的)」⇔「フォロワー(集合的)」、横軸を「内面的(目にみえにくい)」⇔「外面的(目に見えやすい)」と定めて、4つの象限をつくります。
すると、左上は創業者や経営者などのリーダーによる事業や組織をこうしたいという想いにあたり(パーパス)、右上はその想いを実現するため目に見える形に仕立てる基本方針(戦略)、右下はそれを具現化すべくより多くの人たちが担う打ち手(アクション)、左下がその結果生まれてくる組織全体の価値観や哲学(カルチャー)といったものになります。
そして、左上を起点にして、「パーパス」→「戦略」→「アクション」→「カルチャー」と、基本的には時計回りに進んでいくことになるのがおわかりでしょうか。
もちろん、現実的には行きつ戻りつがあるので、あくまでもモデルとして捉えていただければと思います。一番わかりやすいのは、起業のプロセスでしょう。改めて以下にご紹介しましょう。
1.パーパス
まず、創業者(およびその仲間たち)が、世の中の人々の悩みごとや願いごとをこんな風に解決したいという想いを持つことがすべてのはじまりです。
「自分たちって結局、何者だっけ?」「そもそも何をしたいのだっけ?」という問いへの答えとも言えます。
それが実行されたときの理想の絵姿が「ビジョン」ということになり、これもこの象限に含まれることになります。
存在意義たる「パーパス」は、「ミッション」と言ってもOKですが、最近では、内発的動機から自己選択するものという意味合いで「パーパス」を使おうという傾向が強くなっています。
ということで左上を「パーパス」の象限と呼びます。
2.戦略
次に、このパーパスを実現するには「誰に何を届けるのか」を戦略として定め、商品やサービスの形に仕立てて届ける必要 が あります。
お客様にこの商品やサービスが 届くことによって 、彼らの身の回りでどんな価値が生み出されるのかを描いていきます 。
かつ 自分たちがその価値を誰よりも高くつくり出せるという根拠 が必要になってきます。 それにはお客様を主役にした一連の物語りが、ロジックで裏付けされて展開することが必要です。
右上はこのような基本方針を定める「戦略」の象限と呼びます。
3.アクション/しくみ
さらに、戦略にもとづいた商品・サービスを効果的にお客様に届けるためには、組織やチームの目標を明確にし、業務のオペレーションや、それにかかわる人や組織の動きの設計と検証が必要になってきます。
サプライチェーンの設定や技術的なツール・システムの導入などです。人の 採用、育成、活用、評価 のしかたなども含まれます。
これらはまず「アクション」として実行され、徐々に体系的に「しくみ」化されていくという流れになるので、右下を「アクション/しくみ」の象限と呼びます。
4.カルチャー
こうしてパーパス、戦略、アクション/しくみが、左上から時計回りに一周 ぐるりと回って、結果として醸し出されるのが、その組織やチームに固有の「カルチャー」という こと に なり ます 。
左下を「カルチャー」の象限と呼びますが、指示命令的な色合いの強いマネジメントで回せば 、そのようなカルチャー ができますし 、メンバ ーの主体性を重視 するマネジメントで回せば、自律分散的なカルチャーになっていきます。
特にお伝えしたいのは、いきなり組織やチームのカルチャー をつくる、あるいは変えるということは難しく、カルチャーは事業や組織活動の動的なプロセスから生み出されるということです。
事業や組織が持続するということは、このサイクル がぐるぐる回っていることを意味します。ただ、同じようなところをぐるぐる回るより、回るたびにお客様や社会への価値提供が刷新され、スパイラル アップしていけたら、その分 自分たちの組織やチームも成長しており、持続可能性が増すと言えます。
ベンチャー企業でも、伝統的な大企業でも、あるいは個人事業的なものでも、あらゆる組織や事業が、このような流れで回っているはずです。
このフレームはもう十数年使い続けていますが「ウチの組織にはあてはまらない」と言われたことは一度もありません。
問題は、組織や事業の多くが、この4象限を一連のつながりとして効果的に回せていないところにあるのではないかと考えています。
実際に、日本企業の各社で【らしんばん】に照らしたとき、どのあたりに滞りのパターンが見られるのかは、次回のコラムでお伝えしますが、
まず、あなたの事業や組織で、いま、どうなっているかを考えてみてください。あなたのチームでも、事業部でも、会社でも、どの範囲でも結構です。
シンプルな切り口なので、ご自身で十分やっていただけると思います。そして、次回、典型的な日本企業のパターンと比べてみてください。
たとえば、第1回コラムで書いた適応を要する諸課題を【らしんばん】にプロットしてみるとこんな感じでしょうか。
大事なのは「このプロットは果たして正しいのか?」ではありません。諸課題がどんな連鎖をしているかの全体像を仮説としてつかむことです。
★なお、いまお伝えした【らしんばん】を5分動画で解説したものも掲示しておきますので、復習としてご覧ください。
■3つの対象と4つの視点
さて、ここまで、組織開発の3つの対象として「人と人」「人と仕事」「人と組織」のつながりがあり、
これらが複雑に絡み合った事象を解きほぐしていくための4つの視点「パーパス」「戦略」「アクション/しくみ」「カルチャー」まで解説を加えてきました。
では、3つの対象と4つの視点はどのような関係になるのかを見ておきましょう。
1.「人と人」のつながりを再生するためのロジック:
「人と人」は、「カルチャー」および「パーパス」との関係が深そうです。
「カルチャー」の視点: 良好なコミュニケーション、信頼、尊重、協力などの価値観を組織内に浸透させることで、人々のつながりを促進します。オープンで透明性のある環境を作り、情報共有や意見交換を奨励することも重要です。
「パーパス」の視点: 組織の目的や使命を明確に定義し、それを共有することによって、人々のつながりを形成します。共通の目標に向かって協力することで、チームや組織内の人々の相互作用が強化されます。
2.「人と仕事」のつながりを再生するためのロジック:
「人と仕事」は、「パーパス」および「戦略」との関係が深そうです。
「パーパス」の視点: 個々の役割や責任が組織の目的と一致していることを明確にし、それぞれの仕事が組織の大局に寄与していることを示すことで、人々の仕事への関与を高めます。
「戦略」の視点: 効果的な目標設定や業務プロセスの最適化など、組織の戦略的なアプローチに基づいて仕事をデザインすることで、人々が仕事に取り組みやすくなります。
3.「人と組織」のつながりを再生するためのロジック:
「人と組織」は、「戦略」および「アクション/しくみ」との関係が深そうです。
「戦略」の視点: 組織のビジョンや目標に基づいた戦略的な組織設計を行い、役割や責任、報酬体系などを明確化することで、人々と組織のつながりを強化します。
「アクション/しくみ」の視点: パフォーマンス評価やフィードバック、報酬体系の適切な運用を通じて、組織と個人の関係を形成し、成果に基づいた報酬や成長の機会を提供することで、人々が組織に参加しやすい環境になっていきます。
■ケン・ウィルバーの『4象限』が下敷き
第2回はこのあたりで区切りたいと思いますが、【らしんばん】はオリジナルなフレームなのかという疑問を持たれた方もいるでしょう。
答えはまったくそうではありません。
現代で最も包括的な思想家とされるケン・ウィルバーが提唱した世界観である「4つの象限(The Four Quadrants)」(縦軸を「個的」/「集合的」、横軸を「内面的」/「外面的」とする2つの軸で形成する4象限)をもとにしています。
これを、僕の師匠であり、とんがりチーム®︎研究所のアドバイザーでもあるK先生(青木孝一さん)が、組織や事業の運営に応用して構築したフレームが【らしんばん】なのです。
巨人の肩の上に立っているということですね!
いかがでしたか?
『やさしく、ふかく、おもしろい組織開発新論』は、5回シリーズでお伝えしております。
おもしろいな、なんか気になるなと感じた方、「スキ」や「ブックマーク」いただけるととても嬉しいです。また、お読みになったご感想などコメントいただけたら泣いて喜びます。
※他の回のコラム(連続5回シリーズ)
第1回 組織開発の謎を解き明かせ!
第3回 日本企業の問題構造を【らしんばん】が明かす
第4回【四季のリズム】がもたらす成長と発展
第5回 新しき地図“あすbe”が描く未来
最後に、他で僕が発信しているもろもろのメディア情報もお載せしますので、つながっていただけるとうれしいです!!それでは、また次回お会いしましょう。
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