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「神様の言うとおり」よりも大事なこと。

小学校2年生の息子は、服のこだわりがすごく強い。

いろいろ服を買っても、けっきょくお気に入りのものしか着ないので、「こればっかり着ているなぁ」というものがあれば、同じものを数着買って、着回すようにしている。

この冬は、

①ベルメゾンの黒色のスパッツ
(全く同じ商品3着)

②トップス(同じ形の柄違いを4着)

を着回す感じで落ち着いていたのだけれど。


息子のトップスの柄は4つ。

① 宇宙柄
② ピザ柄
③ ワニ柄
④ ロゴ柄


私自身は「どの服も同じ回数着てあげたい」と思うので、毎日きっちりローテーションするタイプ。

洗濯した服は、左端のハンガーにかける。
今日着る服は、右端のハンガーからとる。

私はそれが心地いい。
でも息子はちがう。


ピザ→宇宙(ピザ洗濯中)→ピザ→ロゴ(ピザ洗濯中)→ピザ→ロゴ(ピザ洗濯中)→ピザ→ワニ(ピザ洗濯中)→ピザ・・・

ピザ柄を着る率が多すぎることが、私は気になって気になって仕方がなかった。


「母ちゃん、自動着替え機〜。」

息子は着替えるのがめんどくさい日、そう言って私に甘える。そして私はだいたい「自動着替え機」になってしまう。

もう小学校2年生なんだから自分で着替えさせなきゃ、という気持ちと、こういう日に自分で着替えさせるとめーっちゃ遅くてイライラするんだよなぁ、という気持ちと戦った結果、だいたいは「母ちゃん自動着替え機」を作動させてしまう。

まぁ大人になっても自分で着替えない人はいないんだから、今は「着せ替え息子」を楽しむかと、甘甘な自分を許す。


「自動着替え機」を作動させた日は、ここぞとばかりにピザ柄以外を手にとって、息子に着せようとする。すると息子はそれを拒む。そしてピザ柄を手にとって、私にわたす。


「なんでピザばっかりなんよ〜。どれも着心地はいっしょなんやからさ、同じ回数ずつ着てあげてよ。かわいそうやん、ピザ以外の服がさ。」

「だってピザがいいんやもん。じゃあさ、神様のいうとおりにしよ。母ちゃんも神様のいうとおりやったら文句言わないでよ!?」


「母ちゃんの言うとおり」は嫌でも、「神様の言うとおり」にはするのか。そうかそうか。わかったよ。

若干いじけながらも、ピザ以外になる確率が3分の2もあるのなら、折衷案としてはいいのかもしれないと思って受け入れてみる。


ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪
か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り♪

結果、ピザ柄。「いえいっ!」とガッツポーズする息子。

神様の言うことなら仕方がない。私もあきらめがついて、ピザ柄の服を息子に着せた。


そしてまた「自動着替え機」が作動したある日のこと。

ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪
か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・・・

り!


「り!」の瞬間を、私は見てしまった。息子の人指し指は、ピョンッとワニ柄を抜かし、ピザ柄を選んだのだ。

「よっしゃ!」とガッツポーズをする息子。ズルしたのをバレてないとでも思っているのだろうか。


「あー!ズルしたー!!!!」

と私が言うと、息子はギャハハハ〜と笑いながら、ピザ柄のトップスを丸めて胸に抱いて、リビングへと走り去っていった。


自分>神様>母ちゃん

小学校2年生の息子にとっては、母ちゃんよりも、神様よりも、「自分の心地よさ」の方が大切なようだ。

神様に逆らってまでピザ柄がいいなら、もういいさ。好きなだけピザ柄を着たらいい。


なんだか急に吹っ切れた。

その瞬間、「どの服も同じ回数着てあげたい」とか「同じ服ばっかり着たら早くボロボロになっちゃう」とか「せっかく買った服がもったいない」とか「服それしか持ってないの?って思われるよ」とか、私の左脳で鳴り止まないおしゃべりがピタッと止まった。

今日もお気に入りのピザ柄の服を着て、鼻歌が聞こえてきそうなくらいの軽い足取りで、お気に入りの学校へ行く。

そんな息子を見ていると、私も「自分の心地よさ」を1番大切に、いろいろ選びたくなってくる。


玄関でスニーカーに足を入れようとして、やっぱりやめた。そのかわりに、その隣にあった草履に足を入れる。

よく幼稚園の子供たちが履いている「ミサトっ子」の草履。私は着物用に、大人サイズを自分用に買った。思っていた以上に履き心地がよくて気に入っている。


「着物ならともかく、洋服に草履?」とか「冬なのに草履?」とか、やっぱり私の左脳はうるさくおしゃべりをはじめたけれど、今日はプイッと無視をして、息子と外へ出る。


ちょっぴりヨレッとしたピザ柄のトレーナーの息子と、冬なのに洋服✕草履の母。

なんだか冴えない親子だけれど、少なくとも「神様の言うとおり」な1日よりも、「だれかの言うとおり」な1日よりも、ごきげんな1日になりそうな気がしてならなかった。



そして自動着替え機が作動した、またある日。

「今日もピザ?」

私がピザ柄に手を伸ばしながらそう聞くと、息子はその質問を無視して、人さし指を立てた。


ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪
か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り♪

またどうせズルしてピザを選ぶんだろうと思っていたら、神様の言うとおりに「宇宙柄」を手にとったのだ。


「え、ピザじゃなくていいの?」

思わずそう聞いてしまった。すると「何か問題でも?」という顔で「うん」と答える。


あんなにこだわっていたピザ柄はもういいみたい。

この間まであんなにこだわっていたことが、突然どうでもよくなることもあるんだなぁと思った。

昨日好きだったものを、今日好きである必要もないのかもしれない。昨日好きじゃなかったものが、今日は好きになることだってあるのかもしれない。

昨日は自分の気持ちが1番大事!って思っていても、今日は神様の言うとおりにしてみようかな、なんて思ったりするのかもしれない。

今日は母ちゃんの言うとおりにしてみようかな、なんて思う日が来るのかはわからないけれど。


日々自分が選ぶものや、自分の好きな物や事が、「私らしさ」につながってはいるけれど、いつも「私らしく」いる必要もないのかもしれない。

それこそ「私らしさ」にこだわる必要もないのかもしれない。


物でも事でも場所でも人でも、今選びたいものを今選んで、ただ流れていけばいいのかもしれないなぁと、力が抜けた。


「うぅっ・・・今日は一段と寒い・・・」

草履に足を入れかけて、やっぱりやめた。今日は中がモコモコのスニーカーな気分。

モコモコに足を入れると、足がじんわりあったかい。今日は草履よりも絶対にコレだよなぁと「いつも一貫して私らしい私」をフワッと手放した。


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