科学者に学ぶ正しい情報収集術
今回は、一般向けの科学雑誌Scientific Americanに、タメになる英文記事が載っていたので紹介します。
ワシントン大学の生物学者であるカール・バーグストロム教授が、どうすれば新型コロナウイルスについての正しい情報が得られるのか、インタビュー形式で解説。
バーグストロムさんは、SNSなどに出回る科学情報の見極め方についての本も書いています。
ここでは、いくつかポイントをかいつまんで紹介していきます。
SNSよりも報道機関を頼ろう
「TwitterやFacebook、WhatsAppではなく、信頼できる従来型メディアを頼った方がいいです。SNSでは、少しだけ新しい情報は手に入りますが、質という面では圧倒的に劣るからです。ネットに出回る噂に惑わされやすくなるのは、大きな問題です」
SNSにも素晴らしい情報はたくさんあります。新聞やテレビといった従来型メディアでは手に入りづらい情報や聞こえてこない声を得られるのも事実です。
しかし、問題は、それ以上にデマや広告、偽情報、怪しい情報であふれていることです。
前回の記事で、情報の信頼度を見極めるために自問すべき質問を説明しました。読めばお分かりいただけると思いますが、簡単な作業ではありません。
特にSNSでは、精査されていない「生」の情報がほとんどです。私のように、情報収集を生業にする者ならまだしも、ほとんどの人は情報の精査に時間を費やせる訳ではありません。
「情報の質というのは、どれだけ上手に検証され、提示されるかに全てがかかっています。(コロナのような)危機的状況では、ちょっと落ち着いて、感染症を何年も取材してきたプロの記者が書いた新聞記事を読むことをお勧めします」
優れた記者というのは、多様な視点を得るために何人もの専門家に話を聞き、それを一般人にも分かりやすい形で提示してくれます。そうした報道は、直接に専門家の話を聞いたり、論文を読んだりするよりも、多角的で分かりやすいです。
なので、「情報がありすぎて混乱する、不安が募る」という人は、信頼できる報道機関から精査された情報を得ることをお勧めします。SNSをチェックするかわりに、いくつかの新聞やニュース雑誌に目を通してみてください。
科学は変化するもの
「まず分かってもらいたいのは、科学は変わるものだから、医療の専門家のアドバイスも時を経て変わるということです。『(米国立アレルギー感染症研究所の所長)ファウチは、2月と7月で言っていたことが違うので信用できない」という人がいますが、むしろ逆です。新たな証拠が出てきても、見方やアドバイスを変えない人こそ信用すべきではありません」
科学は、あくまで真実を追求する最善の方法であり、万能ではありません。
これは報道も同じです。
記者は、「最善を尽くして得た情報をもとに、その時点で真実に最も近い形で事実を提供する」ことしかできません。新たな証拠が出てくれば、事実は変わるかもしれません。
重要なのは、間違いを認めて情報を訂正する発信側の誠実さ。そして、受け手が科学や報道の本質を理解することです。
極端な情報には注意しよう
「常識では考えづらいような主張を目にしたら、複数の媒体がそう言っているかどうかを確認してください。... 真実にしては出来すぎていると感じるような情報は、実際に嘘でしょう」
「薬やワクチンなんて必要ない」といった極端な主張、「お湯や緑茶がコロナに効く」といったあまりに都合のいい話には注意しましょう。世の中、そんなに単純ではありません。
また、一人の専門家が言ったからと言って、それが正しい、通説だとも限りません。
極端な情報を目にしたら、必ず検証しましょう。
「信じたい」ことほど慎重に
「あなたが信じていることや願っていることを否定する情報と同じくらい、肯定する情報も疑ってみてください。」
人間というのは、自分に都合のいいように物事を解釈します。
正しいと思うこと、そうであってほしいと願うことを支持するような情報ばかりを集め、それ以外は目にも入らない。これが確証バイアスです。
アメリカでは、コロナウイルスの見え方が、政治思想によって大きく異なります。「コロナは大したことない、経済を優先すべきだ」と主張する保守派と、「コロナは恐ろしい、一人でも多くの命を救うためには、経済封鎖もやむを得ない」と考えるリベラル派が真っ向から対立しました。
「(コロナに関する)論文が出るたびに、それを都合よく用いることのできる側が、反対側を攻撃するために使います。両サイドともに、自分たちの主張を支持する事例のみを選んで並べ立てるということがよくあります」
誰にでも偏見はあります。大切なのは、その偏見に気づいて、意識的に多様な視点に触れることです。