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「今は 積極財政一択」の理論(2.いつまで積極財政を維持するか)

序盤は前回との重複があります。


財務省が緊縮財政に持ち出す理屈

財務省としては、「金利=名目経済成長率」を前提に、プライマリーバランスの黒字化を目指しています。

「日本の財政関係資料 財務省 令和4年4月」より

関係式自体は正しいものの、見逃されていると思われるのは、
「金利=名目経済成長率」は常に成り立っているわけではないこと
名目経済成長率は財政支出の影響を受ける(名目経済成長率は財政支出の関数)こと
です。後者により、(国債比率を下げようとして行う)緊縮財政は名目経済成長率を落とし、国債比率を却って上げてしまうという逆効果をもたらしかねません。

前回見ましたように、「金利<名目経済成長率」であれば、ある程度のプライマリーバランスの赤字であっても、対GDP比国債残高が増えないことになります。

いつまで積極財政すべきか

今は積極財政を続けるべきと考えますが、それはいつまでと考えればよいでしょうか。私は以下の4条件を満たした時と考えます。

(1)長期金利3%

目標インフレ(2%)+実質GDP成長率(1%弱)」を長期的な名目GDP成長率の水準と考えると、長期的には金利水準も3%程度近辺を推移すると考えられます。新規発行国債の主な年限が10年と考えるならば、10年国債利回りが3%ほどになったら積極財政は控えた方がよいことになります。
国債利回りが3%に到達しても、国債残高全体の平均金利が高まるのは徐々にであって、すぐに3%になるわけではありませんので、時間的余裕はあります。

実質GDP成長率1%弱というのは低く感じるかもしれませんが、今後の人口減少を考えると、長期的にはその程度でしょう。潜在成長率と同等の水準です。

潜在成長率(日本銀行HP)

潜在成長率:景気循環の影響を除いた経済成長率を示す指標で、国や地域が  中長期的にどれだけの経済成長が達成できるかを表わす。
TFP(total factor productivity:全要素生産性):産出量のうち、資本・労働以外の要因によるもので、長期的には技術進歩を反映する。

なお、ここでの金利は引締め的でも緩和的でもない場合のものであることを前提としています。(強制的に引き上げてはダメ)

(2)賃金上昇率が継続的に2%超水準

目標インフレが2%ならば、賃金がそれ以上のペースで増加していく必要があります。そうでなければ安定した経済成長は望めません。

(3)部門別貸借で企業部門の借入が増加

バブル崩壊以降、企業部門が借入返済を進め、その分を一般政府が支出拡大により埋めていたという状況がありました。政府がこれを行っていなければ、日本経済は収縮のスパイラルに落ち込み、更に酷い状況になっていたことでしょう。
下図によれば、企業部門借入返済(純貸出:プラス)からの脱却の過程にあるように見えます。以前脱却の兆しが見えていた2007年頃は、その後リーマンショックにより脱却できませんでした。今回はどうなるでしょうか。
この状況変化(企業部門のグラフがマイナスへの変化)があれば、一般政府による借入を抑制することも可能になりますが、その変化を充分見極める必要があります。

「中長期の経済財政に関する試算(内閣府)」
プラスが純貸出・マイナスが純借入

(4)デフレギャップの解消

デフレギャップ(マイナスのGDPギャップ)は、需要不足であることを示しますので、その間は緊縮財政に移行してはいけません。

日本銀行HPより作成(四半期データ)

「GDPギャップ」(需給ギャップ)
経済全体の需要と供給の差を示す指標。具体的には、実際のGDP(国内総生産)と潜在GDP(経済がフル稼働した場合に達成できるGDP)の差を指す。このギャップがマイナスの場合は、供給が需要を上回っていることを示し、不景気を意味する。

これら4つの条件(少なくとも(2)~(3)の3つ)が揃ったら、プライマリーバランスは均衡させるべきでしょう。しかし、それは「今じゃない」ということです。

内閣府の試算によると

成長実現ケースであれば、名目経済成長率は3%超を維持し、長期金利は2031年度に3%に達します。その通りになったら、その後にプライマリーバランスの均衡を図ればよいのです。
それまでは、成長実現ケースが実現できるように、しっかりエンジンをかける必要があります。「金利<名目経済成長率」であれば、ある程度プライマリーバランスが赤字でも対GDP比国債残高は増加しないので。

「日本の財政関係資料 財務省 令和4年4月」より
※参照している内閣府試算は令和6年7月に更新されているが
基の財務省資料にあったものをそのまま表示している





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