「今は 積極財政一択」の理論(4.対GDP比国債残高推移の要因分解)
外国4か国の事例
「ブランシャール マクロ経済学(下)第2版:オリヴィエ・ブランシェール」の「第2次世界大戦後、債務比率はどのように低下したのか」というコラムで、4か国の戦後の債務比率の減少の事例がありました。
そこにあった数値(加工したものを含む)で解説します。
黒字のプライマリーバランスの効果
英国を例にとると、最初は270%とかなり大きな値ですが、1946年から1975年にかけての29年間に債務比率が低下しています。
その間、(47/270)^(1/29)-1=-5.9%と、年平均で5.9%ずつ低下したことになります。
その間のプライマリー収支(バランス)は2.1%の黒字で、
2.1%/5.9%=36%より、債務比率低下のうちプライマリーバランスで賄っているのは36%、およそ1/3ということになります。
高い成長率の効果
残りの要因の多くはこうです。
「GDP成長率-利子率」がプラスであれば、債務の伸びよりもGDPの伸びの方が大きいことになるので、債務比率は低下します。
債務比率が低下した期間では、各国とも実質利子率がマイナスで、実質GDP成長率との差は、英国であれば2.6-(-1.5)=4.1%と、年平均4.1%債務比率の低下をもたらしたことになります。(上で見たプライマリーバランス黒字(2.1%)の効果よりも大きかった!)
※日本も、ハイパーインフレ終息後は1964年頃にかけて、債務比率は約55%から約5%に大幅に低下しました。
日本の債務増加の要因分解
日本の推移
対GDP比国債残高増加量のうち、対GDP比プライマリーバランス(赤字)による部分を「プライマリーバランス要因」、”国債利率加重平均-名目GDP成長率”による部分を「金利・成長率差要因」と呼ぶことにすると、1981年以降の推移は下図のようになります。
バブル崩壊後プライマリーバランスが赤字になった1993年から、アベノミクス直前の2012年までは、プライマリーバランス要因:金利・成長率要因=2:1でした。
アベノミクス以降の2013年~2023年は、金利・成長率要因は減少効果となっており、コロナの影響が大きかった2020年を除くと、それぞれ、37.5%ポイント、-10.9%ポイントでした。
今後の日本
いざという時のためにプライマリーバランスを黒字化しておきたいということ自体はわかるものの、緊縮財政は金利・成長率要因がまた債務比率の増加要因になりかねません。
当面は、プライマリーバランス要因はプラス(対GDP比国債残高増加)を甘受しつつも、金利・成長率要因でマイナス(対GDP比国債残高減少)が生じるようにしていく必要があるでしょう。
財務省は、以前参照した「日本の財政関係資料」の中で「少なくとも名目成長率と名目金利が同程度であるという前提に立ち」の一言で、金利・成長率要因を無視しています。