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「今は 積極財政一択」の理論(1.プライマリーバランスの基礎知識)

自民党総裁選において、積極財政緊縮財政かも争点の1つになっています。
緊縮財政派には悪気はなくとも自分が正しいと思っている人も多いので、積極財政派も上げ足を取られないように、理論を整理しておく必要があります。
この議論によく登場するプライマリーバランスの基礎知識についてまず整理します。
図表はいずれも「日本の財政関係資料 財務省 令和4年4月」によります。


プライマリーバランスとは

プライマリーバランスは利払費を除いた収支です。
プライマリーバランスが均衡の場合(図B)、国債残高は金利分ずつ増加していきます。
対GDP比では、
国債金利名目GDP成長率 ⇒対GDP比国債残高増加
国債金利名目GDP成長率 ⇒対GDP比国債残高不変
国債金利名目GDP成長率 ⇒対GDP比国債残高減少
となります。

プライマリーバランスの推移

バブル崩壊後はマイナスが続いており、1998年(金融危機)、2009年(リーマンショック、2020年(コロナ)に大きなマイナスとなっています。

プライマリーバランスは赤字ではいけないのか

対GDP比国債残高が増加し続け、発散してしまう事態は避けなければなりません。国債の借り換えができるのであれば、対GDP比国債残高を増やさないようにするのが肝要です。

ところで、財務省の資料には以下のように”黒字化が必要”とあります。

ここにあるように「金利=名目経済成長率」を前提とおいています。
これは長期的には言えるかもしれませんが、常に成り立っているわけではありません
また、プライマリーバランスを黒字化(あるいは赤字の縮小)するために財政支出を抑制すると、経済成長率の低下を引き起こし、却って対GDP比国債残高を増加させてしまう恐れがあります。
このように、プライマリーバランスの黒字を常に目指すのは危険です。

どの程度までの赤字が可能か

21世紀の財政政策 オリヴィエ・ブランシャール(日本経済新聞出版)」p224に、「日本は債務比率の上昇を抑えつつ、生産を維持するためにどの程度のプライマリーバランスの赤字を計上できるのか」が試算されています。2022年頃の値となりますが、
{-0.1%-(1.0%+0.8%)}×171%=-3.2%
  -0.1%:5年名目金利 
  1.0%:5年先のインフレ予測
  0.8%:(コロナからの回復による高成長を除いた)5年の経済成長率予測
  171%:純債務比率
より、-3.2%まではプライマリーバランス対GDP比が赤字でも、対GDP比純債務残高を増加させずに済むことになります。

国力研究 高市早苗編著(産経新聞出版)」p269で若田部教授が同様の試算をされており、「債務」については-4.5%、「純債務」については-2.5%だそうです。  

2024年1月の財務省主計局の資料によると、2023年の日本の対GDP比率は、「債務」255.2%と「純債務」158.5%でした。この比率が大きい「債務」で見た方が、プライマリーバランスの赤字幅も大きめに許容されます。

このように、「金利<名目GDP成長率」が見込まれる状態であれば、ある程度のプライマリーバランスの赤字は許容できることになります。
また、特殊な状況(過去の金融危機、リーマンショック、コロナなどのようなこと)では、経済収縮を招かないように、プライマリーバランスに関わらず大きな財政出動が必要となります。




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