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Vol.9 フィンランドで学んだ「Agreement」

このnoteでは、これまでにフィンランドのプレスクールから小中高/職業専門学校を訪れる中で、フィンランド教育の根底にある価値観のようなものを探る過程で発見したことをシェアしていきます。

▼ 学びの記録「フィンランドで見つけた…」
vol.1「信頼の文化とは」(リンク
vol.2「良い学習環境とは」(リンク
vol.3「多様性の考え方とは」(リンク
vol.4「Simpleな教員の生き方と子どもの学び方とは」(リンク
vol.5「良い困り感とは」(リンク
vol.6「異年齢での学ぶとは」(リンク
Vol.7「良い職員室文化とは」(リンク
vol.8「メディアについて考えたこと」(リンク
vol.9「Agreement(合意)について考えたこと」

今回のキーワードは「Agreement(合意)」「信頼」です。
ニュースで、フィンランドは国際連合による世界幸福度ランキングにより2018年から7年連続で幸福度が世界一の国として選ばれました。幸福度と密接に結びついている根底にある文化として「信頼」があり、信頼を生み出しているものの根底には「対話」と「Agreement」の文化があると感じました。Vol.1(リンク)の記事で信頼について取り上げたので、今回の記事では「Agreement」にフォーカスして取り上げていきます。


フィンランドでの校長先生との面接

私が一番に「Agreement」の文化を感じたのはフィンランドの学校現場で高校教員をしていた2019年に遡ります。思い返せば、面接はカフェで行われ、今でも校長先生から面接で聞かれたことを覚えています。

「あなたはフィンランドの高等学校でどんなことをやってみたい(Want)と考えていますか?あなたのやりたいことと私が考えていることを重ねることは良いアイデアだと思う。」

ちょうどこの面接を受ける半年前に日本で教員採用試験を受けており、日本の採用試験の面接と比較していたこともあり、面接のあり方にも大きな違いがあったので今でも覚えています。この時に面接官から面接開始後すぐに言われた言葉は今でも忘れません。

「あなたの自己申告書を読んで教員としての謙虚さを感じられませんでした」

もうかれこれ5年前なので、昔のこととして話題にあげてみます。ちなみにこちらが先程の言葉を言われた自己申告書の内容になります。確かに今思えば教育者としての謙虚さがなかった部分もあったと思うので、教員採用試験に受からなかったことが、その後の人生に影響を与えたことに今では感謝しています。

自己申告書の内容

この頃の教員採用試験の面接では「自分の考えていることや自分のやってみたいこと」というよりも「先輩の教員からまずは学ぶ」姿勢が求められているのを感じていました。日本の教育現場の考え方として、経験主義の考え方が強い(経験が立場をつくる組織構造)である印象があり、年功序列の文化が根付いている印象があります。その一方でフィンランドの教育現場では新人の先生について次のように考えている話をフィンランドの校長先生から聞いたのを今でも覚えています。

最新の教育の考え方を知っているのは新卒の教員である。なぜなら、大学では最新の研究に基づいた教員養成がされており、それを学んできた新卒先生から学べることは多くある。

教育の考え方は日々大学の研究によってアップデートされていることを現場の教員が認知し、それについては新卒の教員から学んでいく、同時に新卒の先生も働きやすいようにサポートしていく考え方があることが新卒の先生にとっても働きやすい環境の大きな要因であると思いました。

そして面接でも「あなたの考え」と「校長先生の考え」を混ぜながら合意形成をしていくプロセスからも自分自身の意見を1つの考え方として受け止めてくれているのを感じました。何より面接で「Want」を聞かれることが5年前には想定できなかったので、私という人間の考えを尊重していることが質問のあり方からも伝わってきました。

また、フィンランドの教育現場で働き始めた後も、働き方や授業の時間割、授業の教科書/カリキュラム/試験のあり方等、校長先生からトップダウンで言われるのではなく、1つ1つ丁寧に合意形成しながら決めていくことが大切にされていました。

「働き方」を決めるAgreement

まず、働き方/時間割については「どのような働き方を希望しますか?」と聞かれ自分の希望する働き方を伝えました。その上で、学校全体の時間割との調整をしながら100%希望通りにはならなくても、一人一人の先生の家庭環境や本人の働き方の希望のバランスをとりながら、丁寧に時間割を1 on 1(校長先生と教職員)で組んでいました。もちろん、全員の希望をそのまま聞くと組織として機能しなくなりますが、丁寧に情報をシェアしながら教員と管理職が対話を通して共に意思決定をしていくことで安心して働ける気持ち(=信頼)になりました。

「授業の全体設計」を決めるAgreement

次に、授業の教科書/カリキュラム/試験のあり方についてのエピソードです。ここでも共に意思決定をしていくプロセスが大切にされていました。

① 教員の考え方を聞く(1週間の準備期間)
② 教員の意見を校長先生にシェア
③ 教員の考えを生徒にもシェア
④ 教員と生徒の意見を踏まえて最終決定

ここで驚いたのは、教材やテストのあり方(小テストor最終試験)についても生徒に選択肢を示して共に意思決定をしていくスタンスでした。日本では、教材やテストのあり方は担任の意思だけでは決められないので、ここに生徒の意見も取り入れていく考え方が印象的でした。

管理職と教職員の関係性がフラットであることが、教職員と生徒がフラットな関係を築く循環を生み出しているように感じました。この関係性がフラットというのは、日常会話で見られるだけでなく、お互いにとって重要な意思決定の場面(教員では働き方、生徒は教材やテストのあり方)を対話を通して合意形成をしていくところに民主主義の考え方が浸透しているのを感じました。寧ろ民主主義の国を目指しているというより、目の前の人間を性別や年齢、立場等関係なく一人の人間としてリスペクトしている結果として民主的な国が形成されているのではないかと感じました。

「学級づくり」でのAgreement

ここで1つ重要になってくるのが、「共に意思決定」をするためには、自分自身の考えを常に持つ習慣が必要になります。先程の例は、大人と高校生の例でしたが、小学生からも合意形成の場面は学級活動の中に取り入れられていました。

小学生のクラス内のアグリーメント

・友達の物を借りるときは許可をとる
・静かな声で話をする
・室内は洞窟のように歩き、外では走ることができる
・友達を蹴ったり叩いたりしない
・意見が異なるときは話し合って解決するetc…

Agreementの内容の紹介(一部)

中学生のクラス内のアグリーメント

・授業中は余計な話をしない
・いじめない
・友達を責めてはいけない
・誰かを取り残してはいけない
・他の人のものを盗んではいけない
・他人のプライバシーを尊重する
・許可なしにお手洗いにいかない
・許可なしに携帯を使用しないetc…

Agreementの内容の紹介(一部)

このAgreementは納得したらサインを行い、合意ができない場合は無理に合意をするのではなく、合意ができないときは相談することができるというものでした。このように大人が一方的にルールを伝えるのではなく、1つ1つ丁寧に合意をとりながらAgreementを考えていくのは、民主的な学級、学校、コミュニティティ、社会を作っていく上で重要だと思いました。

今私が勤めている国際バカロレアの学校では、クラス開きは「Essential Agreement」を子ども主体で一緒に作っていくことを大切にしています。子ども主体で学級のルールをつくることに対して色々な不安を感じる人は多いのではないでしょうか。ここにどのように発達段階に応じて大人が足場かけ(スキャフォールディング)しながら、子どもが自立していくサポートをしていくことが重要だと感じます。また、この実践についても紹介できたらと思います。

今回のnoteでは「Agreement(合意)」「合意形成」「民主的な学級づくり」「お互いに信頼できるクラスづくり」についてフィンランドの学びをベースにまとめてみました。子どもに何かを任せることは最初は不安が多いかもしれないですが、最初から100%うまくいくことを期待するのではなく、失敗ありきで大人がどれくらいサポートしていくのかを試行錯誤しながらまずはやってみることが民主的に合意形成をしていくスキルを高めていくことにつながると思います。

いつも読んでいただきありがとうございます。

moimoi!!!

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