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旅のわだち1

部活優先だった学生時代は、五木寛之や司馬遼太郎や沢木耕太郎にハマっていたのに海外へ出かけることはなかった。
ひとり海外は、社会人になってのインドから。
80年代後半は当然ネットもメールもスマホもないし、頼りは「地球の騙し方」と揶揄されていた、投稿で構成された情報誌「地球の歩き方」。マイナーの国々のはこれしかなかった。
宿は現地で「今晩泊まれますか?」と訪ね歩く。投稿を真に受けないように気を付けた。
エアコン付きの部屋だと書いてあって無かったことなど序の口。
航空券は、格安を扱う会社が出始めた頃で、エイチ・アイ・エスも胡散臭さ漂う一社。狭い事務所に買いに行った朧気な記憶がある。

二度の予防接種を受けてビザを取得して出かけたインド、デリーやバラナシは強烈だった。
空港に降り立った時の纏わりつくような湿った香辛料の匂いに不安が膨らんだ。翌朝ゲストハウス屋上から見た光景、行き交う人、バイク、自動車、牛といった目の当りにした”混沌”に「まいったな」と思った。懐かしい。
両替所で手にしたホチキスで留めたボロボロの札束。カースト制の現実を見、シバ神をアイドルのように語る人に会い、わずか数円の値引き交渉にリキシャを断った。
渡航前「オールドデリーでコレラ感染拡大」のニュース。沐浴場脇のゲストハウスの川から引いているというシャワーは頭からは浴びなかった。

とにかく安くってことで20代がアジアを目指すのは当時も変わらない。バンコクの安宿街には、欧米人に交じってドラックの匂い漂う日本人バックパッカーが入り浸っていた。

90年代半、憧れていたアメリカに向かえるようになったのは円高の恩恵もある。

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