”1300年前”の濃い~い温泉、旅の触れ合い。①
江戸時代前期からヨーロッパにも知れ渡っていた石見銀山。その銀の輸出港として栄えていた温泉津(ゆのつ)。僕は、出雲方面から下関へ向かうドライブ途中の宿泊地として、前知識もなく寄った温泉津(ゆのつ)がこんなに印象に残る滞在になるとは思わなかった。
閉館しているところも多い200mぐらいの旅館通りは、不思議な温もりというか居心地良さを感じたのが第一印象だった。
夕方、予約してあった部屋で荷物を解いた僕は、1300年前に発見されたという「元湯」という外湯へ出かけた。
450円を支払い、脱衣所で裸になって引き戸を開けると先客は2人。タイルの上に胡坐をかいて体を冷ましている60代ぐらいと70代前半。そこに僕がそろりと入っていった。
お湯は緑っぽい黒。見ただけで効きそうで濃そうな温泉。
下半身を流してから「ぬるい湯」表示の浴槽に脚をつけようとしたら、
「初めての人はあっちに入った方がいいよ」と60代オジサン。
「あ、はい」
僕は言われるまま、反対の隅の方の小さな浴槽に移動して湯舟に浸かった。
なかなかの熱さ。濃い温泉が沁みる。
そして「ぬるい湯」表示の、オジサンが入って出てを繰り返す最初の浴槽へ戻った。
爪先を湯舟へ浸けた瞬間「熱っ!」と声を漏らした。なんだこりゃ、ぜんぜん「ぬるい湯」じゃないじゃないか。
するとオジサンが、
「はい、そこの桶に水を汲んで持ってくる。そうしたら両脚の膝から下に水をかけて直ぐ入るんだよ」
僕はまた言われた通りに桶に汲んだ冷水を両すねに流し、浴槽で一気に腰、肩と沈めた。
1分と持たず浴槽から上がって脚を伸ばした。
「だろ。次からはもう大丈夫だよ」
「それにしても熱いですね」
「2分以上入るなって書いてあるだろ」
「あ、ほんとだ」
1分ぐらいを数えて上がって身体を冷やす、というのを、何度も繰り返した。
この繰り返しがなかなか気持ちいいのだ。ここの正しい風呂の入り方か。
もうひとりの70代前半は、隣の「熱い湯」の方で出たり入ったり。
オジサンは、温泉の歴史や言い伝え、石見銀山のことなど、いろんな話を聞かせてくれた。所々で「熱い湯」の方の人も話しに加わった。
ふたりはどれだけの時間を風呂場で過ごすのだろうか。後から加わった僕は「お先に」で上がったのだった。