「WHIPLASH」
小学生の時、個人の自宅でやっている算数塾に通っていたことがあった。
近所の子供たち数人がダイニングテーブルを囲んで、ガリ版で刷った学校の予習復習のプリントをやった。そんな風な塾は昭和40年代、当時各地にたくさんあったと思う。
先生はスキンヘッド男性。60㎝ぐらいの木の棒切れを持って生徒たちの背後を行き来し、生徒たちは張り詰めた緊張の中で鉛筆を動かしていた。
どんなミスで叱られたのか覚えていないけど、叱られる時は必ず立たされて、棒切れで尻を叩かれる。
着席すると先生は必ず「人間は考える葦(あし)である」と大声で言う。
そしてそれに続いて子供たちが揃って「人間は考える葦(あし)である」と復唱する決まりだった。
あれはなんだったのだろう。怖かった。
勉強に役立ったとは思えない。
先生の名前は思い出せないけど、血管を盛り上げて叱るスキンヘッドは忘れられない。
エンドロールに切り替わったら、2時間ずっと呼吸を止めて見入っていたような気分にはたと気づく。
激しい打ち合いのボクシングを見終えた感じだった。
プロジャズドラマーを目指し全米屈指の音楽大学に入学した19歳のニーマンは、フレッチャー教授率いるバンドメンバーに大抜擢される。最年少参加となる初練習、カメラは譜面台に置かれた「WHPLASH」の譜面を映す。<鞭打ち><折檻>といったニュアンスの曲名。
フレッチャーの狂気に満ちた指導が始まる。師弟関係を超えたニーマンとフレッチャーの物語が動き出す。
指から血を流し、激しくドラムを叩き続けるニーマン。苦痛に歪んだ顔と時に見せるうっすらとした笑み、KOを狙うボクサーの表情だ。そして深い皺に真意を隠したスキンヘッドのフレッチャー。
フェイクなのか情熱なのか。二人の表情が見終わったあとも脳裏に残る。