「怪物に出会った日」を読んで考えたこと。
面白いスポーツノンフィクションに出会うことが少なくなった。
インターネット、SNSの普及で速報的な記事で溢れているから。
チーム発信、選手発信の情報量に反比例してスポーツライターたちの情熱が萎えている気がしている。
選手の心情に迫り、勝負の綾を描く。
こんな時代だからこそ秀逸な作品に出会えたときは嬉しい。
熱心なボクシングファンではないけど、怪物と形容されるチャンピオンに敗れたボクサー、元ボクサー本人とその周辺を取材したということに興味をもって手にしたこの本、嬉しい出会いだった。
ノンフィクション作品の良し悪しは、文章力もさることながら、かけた手間と時間、取材対象となった人と人数、そして作家の執念やアイデア。
一度煮込んだあと、一度冷まして味見してまた、という手間のかかった煮込み料理のような作品がいい。
ところで、「怪物に出会った日」のエピローグで作家は、学生時代に読んだ「江夏の21球」(山際淳司著)でプロ野球選手の洞察力と記憶力に驚いたと書いていたが、僕も同じ体験をしている。だからスポーツノンフィクションを欲するときは今も「江夏の21球」を思い浮かべてしまう。
メジャーなスポーツほど鮮度重視の記事になりがちなのは仕方ないのだろうけど、ひいきのスポーツで熟成度の高い物語を読みたい。