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新たなファン層の開拓で、コンテンツのギアを再び上げることに成功した「ONE PIECE FILM RED」

昨年から引き続き話題となっていた「ONE PIECE FILM RED」の上映が、先週末でついに終映し、最終興収は197億円を突破し、「ハウルの動く城」を上回り、「千と千尋の神隠し」「君の名は。」 「もののけ姫」に次ぐ邦画歴代5位となったそうです。

当初、賛否両論で評価が定まっていなかったことや、シリーズのこれまでの最高成績が70億程度だったことから初速が良くてもリピーターが望めず、100億程度に落ち着くのではという論調が多かったように思います。

ところが実際は、驚異的な粘りを見せ、最終的には最初に述べたように、当初の見通しの倍となる200億に迫るところまで辿りつきました。

これを歌姫ウタの歌唱を担当したAdoの話題性や、楽曲を提供した豪華アーティストによる夢の共演、人気キャラシャンクスの登場、さらに来場者向けの特典商法を引き合いに出して、電通案件として片付けるのは簡単です。

ですがそれを踏まえても、割れた評価からくる「(宣伝で騙せても)中身が伴っていないから伸びないだろう」を覆して、ここまでこれたのには何か理由があるはずです。

というわけで、今回も個人的な「作り手目線」で、”ワンピ200億円の理由”を紐解いていきたいと思います。


1.自分の感想

まず、自分は普段はワンピの映画は積極的には見に行かない方です(TVや配信でやれば一応見るかなくらいの感じです)。

今回は前段で述べたような話題性があり、少し気になっていたところで公開後の評価が割れているのを知り、逆に興味が湧いたことで、自分の目で確かめたいと思い見に行くことにしました(わざわざ、Dolby Atomosの会場に足を運びました)。

それで、実際の感想ですが、個人的な評価としては賛否の否の方でよく言われているような「中身が無い」とか、「敵が抽象的ですっきりしない」など、後半絵的には盛り上がるんだけど、今一つ入り込めなかったな、みたいな印象でした。

2.周囲の感想

自分の感覚と、周辺の盛り上がりにギャップがあったため、自分も最初は特典商法を疑ったのですが、自分で上映館やネットの書き込みとかを見ても、「チケットは売れてるけど席はガラガラ」みたいな情報は見つからなかったので、本当に受け入れられているんだなと感じました。

そこで、何が受け入れられているのか、改めてこんどは賛の方の意見を見てみると、ウタに感情移入して、その運命に共感されていることで感動を呼び起こしているということが理解できました。

3.歌唱パートのウタウタ効果

では、その共感はどこから来ているのかという部分ですが、これはもちろん今作で重要なパートを担う、歌唱によるものだと考えられます。

単純に楽曲の良さということではなく、ウタの感情に寄り添った歌詞と歌唱が物語に溶け込んで、感情を揺さぶる作りになっているということです。

実際、制作陣のインタビューを見ると、ストーリーの展開に合わせて曲も歌詞も振り付けも適切に表現されるよう気を配ったと述べています。

4.意図的な繰り返し視聴

本作でウタの抱える悩みや葛藤は頭では理解はできますが、自分も年齢も重ねて経験としてそうした感情は整理できているため、そこまで入り込むことはなかったのですが、そこがスッと入ってくる層の人にとっては、”自分事”として強い感情が呼び起こされているのだと思います。

こうなると、作品を離れて自分の一部として機能するようになるので、繰り返しの視聴に抵抗がなくなるのだと考えられます。

こちらを見ると、作者も意識的に応援上映を狙っていたことが触れられていますが、狙っても実際に当てるのは難しいので、これはすごいです。

5.新時代の幕開け

そして、歌姫ウタのキャラクター。

彼女の造形は劇中のウタワールドや、プロモーションのvtuber的な動画など、現実世界と映画の物語世界を繋ぐ、精神的な接点としての立ち位置を感じさせるものとなっていました。

つまり、これまでのワンピースの物語から外に繋がる、新たなファン層を取り込む入り口として機能していたように思います。

往年のファンからすると「シャンクスをダシにして若者に媚を売るな」みたいな感じで嫌われていた要素が、結果的にはこうした様々な仕掛けにより、これまで”自分事”でなかった人たちに「ワンピース」という世界を伝える呼び水となったわけです。

この辺りの流れは、今話題になっている「THE FIRST SLUM DUNK」にもつながる話で、非常に興味深く感じます。

6.常にギアを上げ続ける誠実さの証明

自分は原作も最初から読んでいましたが、グランドラインに出たくらいで一度離脱していました。

それが、インペルダウン編辺りで当時の同僚に「今マジ面白いんで見て下さい」みたいなこと言われてみたらマジ面白くて、その後は引き続き見ています。

実際、このインペルダウン~頂上戦争辺りは、アメトークやスマスマ等で特集が組まれたりと大分盛り上がっていたので、復帰勢新規参入がかなりあったんじゃないかと思います。

その後、新世界編に入り、また物語が長くなったので、その間に離脱した人や入りづらく感じている人がいる中で、編集がワの国編に入って「今が一番面白い」とか「今から見ても大丈夫」みたいなアナウンスを積極的にするようになっているのを見て、ファン層をもう一段広げたいんだなという意思は伝わっていましたが、今回、鮮やかにそれが達成されたということは、原作のポテンシャルを改めて証明できたということではないでしょうか。

(実際、一緒に映画を見たミリしらの娘ももう一度見たいと言っていましたし、同僚の子供も一緒に見に行った後、すっかりハマってアニメをずっと見ているそうです)

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