読書メモ 「THE BONZO BOOK」
「THE BONZO BOOK 徹底解析 ジョン・ボーナムの偉蹟」
株式会社シンコーミュージック・エンタテイメント 2021年
忘れもしない、私とレッド・ツェッペリンの出会いは、高校2年の時だった。当時、美大受験のため三鷹のとある美大専門予備校に通っていたが、その予備校のすぐそばに「パレード」という中古レコード屋があった。ていうか、今でもある。
土曜は午後から学科の授業があり、授業の前に立ち寄ったのだった。ABC順に並んだレコード棚の「L」のところをパタパタめくっていると「なんじゃこりゃ」というジャケットと目が合った。
髭面の帽子を被ったお爺さんが、束ねた枯れ枝を丸まった背中に背負い、野原に立っている。両手で杖に寄り掛かり、こちらをじっと見ている。そんな絵が額に収まっている。そしてその額が、壁紙もボロボロに剥げた壁に掛かっている。作品名もアーティスト名も、どこにもない。
何故か無性に気になった。高校生という身分ゆえ資金に限りはあったが、私はエイヤっとそのレコードを「ジャケ買い」したのだった(今の子はジャケ買いなんてしないんだろな。ていうかアルバム自体買わないか)。
家に帰り、ターンテーブルにのせて針を落とした。「なんじゃこりゃ」が「ぬわんっぢゃっ、こりゃぁぁっ…!!」に上書きされた瞬間だった。ボンゾ教の洗礼を受けた記念すべき日だった。
正直ハードロックに興味はなかったし、ツェッペリンの名はもちろん知ってはいたが、聴こうとは思わなかった。ジャケ買いしなければ、聴かないままだった可能性が高い。ジャケ買いの効用とは、思いもよらない運命の音楽と巡り合う奇跡が稀にでも起こることではないか。
しかも幸か不幸か『Ⅳ』なのである。いきなりの『Ⅳ』。そしてLPレコード。
当時持っていたのは、ミニコンポに付属の安っぽいレコードプレイヤーだったが、それでもあの独特の、空気を含んだような音が忘れられない。そのプレイヤーはじきに壊れてしまい、以来CDで音楽を聴くようになったが「パレード」で買ったLPは、いまだにとってある(他に買ったLPは、ニュー・オーダーの『Power, Corruption & Lies』、ダイアー・ストレイツの『Making Movies』、ザ・フーの『Who Are You』だった。もちろん全てとってある)。
前置きが長くなってしまった。本題に入ろう。
本書はボンゾ教の、ボンゾ信者による、ボンゾ信者のための、ボンゾ教典である。
ディスコグラフィー解説、機材解説、他のドラマーとの相関論考などが豊富な写真とともに掲載されているが、一番ページを割いているのは機材解説についてだろう。特にボンゾの特徴であるバスドラム分析が、かなりマニアックだ。
私はドラムを叩かないゆえ、この章にはついて行けないかと思いきや、詳しいことは全く分からないにせよ、案外楽しめた。とりあえずボンゾはワンバス・ワンタム・ツーフロアなんだぞと。で、バスドラは26インチなんだぞと。そんなことを知るだけでも、ツェッペリンを聴く楽しみが増えた気がする。素手で叩くボンゴやコンガも興味深い。変わったところでは、消耗品であるスネアヘッドに言及した箇所。素材の生産国・成形工場が変われば、プラスチックでさえ音質が変化すると。好事家と言われればそれまでだが、とにかくボンゾ・サウンドを正確に再現する、ここではそれだけが至上命題なのだ。
グリーン・スパークル・キットが美しい。ボンゾはこの色好きだったんだなあ。26インチバスドラは実際見たら相当大きく、迫力がありそうだ。
それにしても、世の中にはマニアがいるものである。ボンゾ史を検証するために「ジョン・ボーナム研究所」なるものまで作ってしまったそうだ。イギリス盤の初版アナログ・レコードをド根性でクリーニングし「チリパチ音」を解消、16kgの重量がある超弩級砲金製ターンテーブルをはじめとする拘り満載のオーディオ・システムを完備したオーディオ・ルームで再生すれば…。ってこの研究所、どこにあるん? 入館料いくらなん? ボンゾ信者ならこう思わぬ者はいないであろう。ほんと、どここれ? と思ったら、どうやらプライヴェート・スタジオだそうだ。
私的には楽曲解説ももっと欲しかった。唯一、24インチ(これまでの定説の22インチではない。独自の検証による新説とのこと)バスドラで録音された『Ⅰ』に、なぜか圧倒的な「音圧」を感じるのだ。個人的には『Ⅳ』『Ⅰ』『Presence』あたりがフェイヴァリットだ。バラバラに持っていたCDだが、何年か前に「パレード」でボックスセット(Ten Years Gone Collection)を衝動買いした。ところが『Physical Graffiti』の2枚目が何処かへ行ってしまった。ほんと、好きなものや気になるものほど紛失してしまう謎(『Ten Years Gone』聴き直したら、これがいいのだ)。ちなみに『黒い田舎の女』と訳されている『Black Country Woman』だが、これは誤訳で正しくは『ド田舎の女』だと何かで読んだ記憶がある。
一番面白かったのは他のドラマーとの相関論考の章だった。ボンゾは「ツーバスはうるさいから、ワンバスにしろ」とペイジに言われた(これ言ったの、ジョンジーじゃなかったっけ?)ラウドなだけのドラマーではないことは周知の通りだ。ジンジャー・ベイカー、マックス・ローチ、クリーム、ジーン・クルーパ、ヴァニラ・ファッジ…、次はこのあたりを聴いてみようと思う。