
35歳からのウソ日記61
2020年7月28日
人見知りが一目惚れ。
手の打ちようがない。
蕎麦やうどん。
手打ちにかぎる。
人見知りである友人がある女性に一目惚れをしたのだが、手の打ちようがないという相談を私が好きな手打ちの蕎麦屋で乗っているという手が打てないのと手で打っているところにいるというよく分からない状況だ。
私の意見とはもちろん食い違うので(同じかけ蕎麦を食べてはいる)、相談は徐々に議論に変わり、さらには言い合いにまで達しそうな勢いだ。
この話をどうにか手打ちにするのが私の目標だった。
やはり何にしても手は打った方が良さそうである。
蕎麦やうどんも手打ちと聞くだけで勝手にひとつ上のランクに上がる。
エレベーターが黙っていても2階に運んでくれるように。
和解するなどの意味で使われる言葉でもある、手打ちにするというのもやはり打つわけだ。
実際にケンカして殴り合った後の方が和解ができ、友情が深まる場合もある。
この和解の仕方は実際に自分の手で相手を打つわけだが。
よって何かしらの手は打つべきだという私の主張。
人見知りだからどうしてもその一手が打てないという友人の主張。
小池百合子は私たちの首長。
ふざけている場合ではない。
友人の真剣な相談なのだ。
彼が一目惚れした女性というのは、まさに食事をしている蕎麦屋で働いている人なのだ。
こんなにもそばにいるとはと言いながらかけ蕎麦をすする。
彼は食べるのが早く、知らない間に蕎麦は消え去り、知らない間に追加で注文をしていて、私には急に蕎麦が消えては現れるというマジックを目の当たりにしているかのようだ。
相談する場所間違っているだろと言うと、私がどうしてもこの蕎麦屋ではないと話は聞かないと言ったんだろと。
私は手のかかるやつらしい。
お店の人に一目惚れなどとうの昔にみんなが経験していることではないだろうか。
私の時は勢いに任せて自分の電話番号を箸袋などに書いて会計の時に渡すというのが普通だった。
なのでそうすればいいのではないかと提案。
これは別に言葉を発する必要もない。
となりのトトロでカンタがサツキに傘を無言で渡すシーンのように。
押し付ける結果になってはいたが、カンタの良さが存分に出ていたのではないだろうか。
今時そんなやり方あるかと聞いてくる。
今時そんな一目惚れしてる奴に言われたくはないと言う。
仕方ないだろ、僕はタネも仕掛けもない人見知りなんだぞと独特な言い回しで言ってくる。
私が渡してきてあげようと紙に彼の番号を書こうとしたら私の手をバシッと打ってきた。
その感じで彼女にバシッと渡せばいいのだ。
まず成功すると期待することが間違っていると伝える。
なるほど。
この確率はかなり低いわけだし、人見知りの人が自分の魅力を伝えられることは不可能に近いのだから、連絡先を交換できるかに賭けるしかないわけだ。
確かにそうだな。
ここは蕎麦屋だ。ゲレンデみたいにマジックがかかるわけではない。マジックが起こる可能性がないのだから。
ピンとはこないが、まぁ分かる。
万が一連絡先渡した後にメールが来たら、そこから自分の良さをアピールできるチャンスが人見知りの君にはくるのだ。
その通りだな。
賭けてみろ。蕎麦屋なだけに。
バシッ!
今度は頭を引っ叩かれた。
彼は違う意味で手が早い。
とりあえず彼に連絡先を書かせた。
その時からなぜか私までドキドキしてくる。
書くだけ書いた後にできるわけがないと頭を抱えている。
しかし会計をする時がきた。
レジまで二人で向かう。
お金を払う手が震えている。
お釣りを彼女が用意している間に彼は連絡先を書いた紙を準備している。
そしてまるで名刺交換のように彼女はお釣りを、彼は紙をお互いに差し出していた。
タイミング下手くそだなと思った瞬間、彼が持っていた紙がボッと燃えて消えた。
それと同じようにお釣りの千円札も燃えて消えてしまった。
よく状況が分からないにも関わらず、彼女はすいませんと答えている。
そこで彼は自分の胸ポケットからちゃんとお釣りの千円札を出す。
そして彼女にポケットを確認してくれと頼むように彼女のポケットを指差す。
彼女がポケットを確認すると、チケットが入っていた。
それは彼が今度やるマジックのショーのチケットだ。
そこに連絡先を書いてあるので、よければ連絡をくださいという意味のウインクをする。
そう彼はマジシャンなのである。
人見知りすぎて、マジックに没頭していたらプロになっていた。
マジックをする時だけは堂々としている。
車のハンドルを握ると性格が変わる人と同じようなものだ。
彼女の目はトランプのハートのようになっていた。
こいつは言葉を使わずに最善の手を打ちやがる。
だから私はいつもそばにいるのだ。
完
それでは また あした で終わる今日 ということで。