【古典邦画】「日本橋」

三島由紀夫も好きだという市川崑監督の、1956(昭和31)年の大映作品「日本橋」。原作は泉鏡花。

男を巡る2人の芸者の愛情や確執、妬み嫉みなどの情念を哀しく美しく描いた佳作。

コレも前に溝口健二監督の作品があった。

淡島千景演じる「お孝」と山本富士子演じる「清葉」が、意地による張り合い(特にお孝)で、好みの客の男を巡って、ドロドロとした感情をぶつけ合うことをしながらも、同じ花柳界の同志としてお互いに一目置くことも。

清葉が捨てた後でお孝と出来た客も多数。

客となる若い医学博士の男が、行方不明の姉にソックリの清葉に心を奪われ告白するも、清葉は既に旦那も子供もいる身。男は、別れの盃を交わして泣く泣く別れるが、帰る途中、橋の上で巡査に尋問されていたところをお孝に救われる。その後、2人は結ばれる。今度はお孝にとって彼は大事な人となるが…。

お孝が捨てた男や子供も絡んで来て、男が「殺してやる!」と短刀を持ち出したり、医学博士の男に「頼む、別れてくれ」と懇願するほど、もうグチャドロの世界が繰り広げられる。

一方で、情けないのは、やはり男の方で、前の男に懇願されたからと、坊主となって巡礼の旅へ。

お孝は男恋しさについに狂ってしまう。だが、男と再会すると正気に戻る。しかし、お孝は毒を飲んで死ぬのだ。芸者の身を滅ぼす程の激しい情念が描かれるのだ。

お孝の抱妓の1人が若尾文子演じるお千世だが、お孝や清葉と比べると、まだまだ若い経験の浅い芸妓で、俺にはその初々しさがカワイイ。

お孝のきっぷの良い粋な気性と、清葉の奥ゆかしい美しさ、お千世の初々しい危うさ、それぞれ三者三様に素晴らしい。

男を巡る妖しくも美しい花柳界の恋模様を書かせたら泉鏡花に並ぶ作家はいないと思わせる。


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TOMOKI
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。

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