「漱石のことば」
新潮文庫で出てる漱石は全て読破したけど、漱石の小説から“名言”を紡ぎ出す内容。
著者も書いてるが、結局、文豪・漱石は、人間はなぜ生きるのか、なぜ生きなければならないのか、を終生問い続けた作家だということだ。
そして、その答えは“ない”“わからない”。
「人は人生の謎を解くために生まれて、わからないと悩みながら死んでいく」。
問いだけがあって、答えがない。だからこそ苦しむ。
ゆえに、小説の主人公は、恋愛においても、解決のない、無限ループのような思考に陥ってしまうことが多いのだ。
加えて、世相に疑問を呈し、時代を批判してはみるものの、結局、人は生きてる時代に背くことはできないということを体現した作家でもあると思う。
漱石の小説の醍醐味は、常に解決はないということに尽きる。
そんな漱石だからこそ、小説の一文に、真実も嘘もあり、世相に対する批判もあり、予見もあり、戒めもあり、納得いく深い言葉もあるのだ。
「死ぬか、気が違うか、宗教に入るか、僕の前途にはこの三つのものしかない。しかし、宗教には入れそうにない。死ぬのも未練がある。そうなれば気違いだ」
「我は我が咎(トガ)を知る。我が罪は常に我が前にあり」
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい」
「滑稽の裏には真面目がくっ付いている。大笑の奥には熱涙が潜んでいる。雑談の底には啾々たる鬼哭が聞こえる」
「父母未生以前本来の面目は何だか、それを一つ考えてみたらよかろう」
「およそ世の中に何が苦しいといって所在のない程の苦しみはない」
漱石は、自然描写も群を抜いてたが、彼が理想とする美は、常に静謐(セイヒツ)だった。そして、彼が求めた女性は、謎めいて淫らな、しかし、憐れが浮いてるような人だったという。
「死は生よりも尊い」というものの、人はギリギリまで生にこだわらねばならぬと漱石は説いた。
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