【邦画】「娘・妻・母」
文藝メロドラマの達人、成瀬巳喜男監督の1960年公開の「娘・妻・母」。
デコちゃんこと高峰秀子と、原節子の二大女優が共演だ。
コレは、小津安二郎監督の「東京物語」の成瀬版だなぁ。多分、成瀬監督は小津をかなり意識してたんじゃないか。
夫に先立たれ、残った母を最後まで大事に思うのが未亡人となった原節子演じる早苗で、勝手に家を抵当に入れて親類に金を工面して失敗した長男と、デコちゃん演じる妻和子、現代風のドライな次男、次女の薫、ハキハキとモノを言う末娘の春子…彼・彼女らが、抵当に入った家の問題で、残った母を誰が世話するかで一悶着という話だ。
早苗には再婚の話も持ち上がるが、春子の同僚の若い男(仲代達矢)に惹かれてしまう。
旧家の金持ちだった実家の話だけど、死別、再婚、独立、大金、資産分け、家がなくなる…という流れの中で、人生の機微といったものが、次から次へと起こって行く。ピークは兄弟姉妹全員が集まった母の還暦のお祝いだった。この無常感はまさに「東京物語」と等しい。
仲の良い旧家の大家族も、結婚して独立すると、自分の家庭を守るために、資産分けの問題が持ち上がり、徐々に離れていくのだ。結局は、お金の問題が大きいということか。
母親のために、若い男との逢瀬を止めて、母も一緒に引き取るという家の主人と再婚を決める早苗(原節子)と、また母は自分の家で引き取ると決意する和子(高峰秀子)と。また、老人ホーム行きを検討する母と。どちらも意見を主張するが結論は出ないままに幕を閉じる。ちょっとこの終わり方は不満だ。
ラスト、唐突に、公園でアルバイトで子供をあやす笠智衆が出てて、そこまで小津を意識してたのか、と思ったけどね。
原節子の“よろめき婦人”のようなお上品なキスシーンがあった。
ごちゃごちゃしてて、他の作品よりは見劣りすると思うけど、成瀬監督独自の手法には脱帽。