「苦海浄土〜わが水俣病」
前にも古い単行本で読んだけど再度、文庫の新装版で。
言うまでもない著者の代表作。最初の出版は1969(昭和44)年。
水俣病となった患者とその家族の、生活と苦しみを“聞き書き”で記したものが核となるが、医者や各機関(チッソ含む)が発表した資料や水俣病闘争の模様も盛り込んでいる。
聞き書きとはいえ、著者が患者らと接して共感、代弁する形で生まれた部分も多く、完全なノンフィクションではない。ゆえに“私小説”と評される。
子供の患者を前にして、熊本弁で滔々と語られる両親の想いや慟哭、呪詛の叫びは、当然、壮絶で且つ清らかでもあり、人間であって人間ではなくなった患者の生命の尊厳を、読む者に強く訴えかけている。
水俣の海や自然に対する祝詞のようでもある。
高度経済成長期に、現・チッソの水俣工場が海に排出したメチル水銀によって、後の認定患者も含めて、約2000名が亡くなったわけだが、半世紀以上(65年)も経つ現在も、裁判等で完全な収束には至ってない。
自然の中で日常を送る人間と、日本の近代化の背景にある人工物を生み出す工場が、共存しようとする中で起こった人間への重大なる厄災…。
その原因はあくまでも稚拙な加害者側の振る舞いなのだが、人間と自然との今後、共存を考える上でも、ココに壮絶にも記された、人工物に侵された人間の様は、命をかけて、尊厳を持って訴えてるように思えてならない。このまま行くと、あとは破滅しかないと。滅亡しかないと。
それが贖えない運命であるなら、もはや受け入れるしかないだろう。
デストピアの先に、もしや浄土があるのかも。原発も一緒だ。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。