Ⅱ 忘れられた感覚
1 全体から断片へ
2 フラジリティの記憶
3 はかない消息
フラグメント(fragment):破片、断片、断章
フラジリティ(fragility):壊れやすさ、虚弱 《病理》脆弱症
ここでは、“断片”や“部分”に見え隠れするフラジャイルをあぶりだそうとしている。
珠光の部分の侘び茶。
不完全なピノキオ。
自分の“全体”を隠そうと努める自然界の生きものたち。
「以上の三つの話はそれぞれ相互につながっている。
これらにはフラジャイルであることをあえて肯定しょうとする意志が見えているからだ。」
昨年、よく耳にした『SPY×FAMILY』の主題歌、Official髭男dismが手がけた『ミックスナッツ』を耳にするたびにフラグメントとフラジリティを見事に表現していると感心した。
「そうやね、そもそもピーナッツってナッツやなくて、ビーンズか…ナッツのふりして紛れ込んでいる…と言うより紛れ込まされてる…あっ!だからSPY×FAMILYか…」
“断片”とは“部分”ということである。
では、“部分”は全体を失った不幸な負傷者かといえば、そんなことはない。
“部分”はその“断片性”においてしばしば威張った全体を陵駕する。
“部分”は全体よりも偉大なことがある。
かたちの整った茶碗より、沓形でひしゃげた織部が魅力的に見えるし、金継ぎ茶碗は“破損”と“断片”、“フラジリティの記憶”“はかない消息”をまとい、痺れるほど魅力的だ。
織部の茶碗は『へうげもの』(ひょうげもの)といわれている。織部の茶会で出された茶碗を後日、神谷宗湛が漏らしたことばらしいが「ひょうきんな茶碗」と言う意味だ。