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担当者主体で進める問い合わせAIチャットボットの作り方|企画から運用までの流れとポイント
生成AIの用途として、「問い合わせの自動化」はイメージが付きやすく影響も大きいため、一部企業では活用が進んでいます。しかし、いざ「お問い合わせAIを作ろう!」と思い立っても、何から手を付けるべきか、どんな課題が待ち受けているのかが分からず、二の足を踏む方も多いのではないでしょうか。
本記事は、AIには詳しくなくても現場には最も詳しい担当者が主体となり、「お問い合わせAI」を企画から導入、さらには運用・改善まで実施できるよう、実践的な流れに沿ってポイントをまとめたものです。
「作る」と聞くと高いハードルに感じられるかもしれませんが、その理由や具体的なポイントについても説明していきますので安心してご覧ください。
※本記事は、会話型AI構築プラットフォームmiiboを開発する株式会社miiboの提供です(サイトの右下にいる「ミーボくん」が弊社のお問い合わせAIチャットボットです。ぜひ話しかけてみてください!)
1. 要件定義をまず立てる
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1-1. どんな問い合わせへの、誰のどの課題を解決するか
お問い合わせAIの導入を成功させるためには、まず現状の業務フローと課題を正確に把握することが重要です。以下の観点から、問い合わせAIの対象範囲を明確にしていきましょう。
現状の課題やボトルネックを洗い出す
既存フローの理解と課題の把握
効率化で得られるインパクトが大きい領域を優先的に検討
AI利用者と適用範囲の明確化
社内のみ/顧客全般 などの利用ユーザー層を特定
ユーザーのうち、XXの役割を担う人/既存顧客など範囲も把握
1-2. 理想像と現実許容範囲を整理する
プロジェクトの方向性を定めるには、目指すべきゴールと現実的な達成範囲を設定する必要があります。この段階では、時間をかけた詳細な数値目標よりも、関係者間で共有できる大まかな方向性を定めることを重視します。
どの領域において、AIにどこまで任せたいか
AIをどこに実装し、どんなフローにしたいか
AIによる解決率・カバー率をどの程度目指すか
※ここではあくまで感覚でOKです
1-3. プロジェクトの関係者と体制・リソースを把握する
プロジェクトを円滑に進めるためには、関与する体制の理解が不可欠です。この時点で確保できる関係者とリソース・役割分担を明確にしておきましょう。
どの程度リソースが必要になるかはまだ見えない段階のため、あくまで現状の関係者とリソース把握を行い、役割の想定を持っておく程度で問題ありません。
リリースに向けた体制・ステークホルダーの把握
将来の運用を見据えた体制・リソースの把握
2. まずは「60点のプロトタイプ」を作る
2-1. なぜいきなり作るのか
プロジェクトの関係者の多くは、AIの実際の動作や可能性について具体的なイメージを持てていないことがほとんどです。その中で、デモを通じた体験は、関係者間の認識合わせや合意形成を大きく促進します。
机上での議論だけでは見落としがちな課題や追加のニーズも、実際にAIを動かしてみることで明確になってきます。また、ユーザー層や問い合わせ内容によって要件や難易度が大きく変わるため、実現までの見通しも立てやすくなります。
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特に重要なのは、現場の要件を理解している人が作ることです。
手戻りが少ないことに加えて良いプロトタイプが作成できることにも繋がり、また作成する中でAIの仕組みを理解できることも大きなメリットです。
要件を理解している人が作ることが特に最初のプロトタイプにおいては肝になります。
2-2. プロトタイプのポイント
効率的なプロトタイプ作成のためには、対象範囲を適切に絞り、スピードを重視したアプローチが重要です。以下のポイントを意識して進めていきましょう。
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スコープを社内で完結する1つに絞る
まずは「社内の人事制度に関する問い合わせ」「社内での特定製品の情報検索」など、1つのテーマに特化
幅広く始める/社外への展開が含まれると要件が広がり進みが遅くなるため、社内で完結する範囲に一旦絞る
例えば、理想が社外への展開の場合、社外への問い合わせ対応をしている社内メンバーの効率化→その内容を社外向けに更新する、という流れに区切り、まずは社内効率化部分に絞る など。
完璧を目指さずスピード重視の開発
AIを体験して理解することと関係者間の認識を揃えることを優先
いきなり完璧を目指すのではなく、60点でも十分というイメージを持つ
一方でどの程度に達したら公開するのかの基準も最初に作っておく
(社内利用で正解率が何%以上に達したら社外公開を進めよう など)小さく始めて、徐々に改善していく姿勢が重要
2-3. プロトタイプに必要な要素
プロトタイプの作成にあたり、主に以下3つの要素が必要になります。
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まず1つ目は、AIエンジン(LLM)の選定です。大規模言語モデルと呼ばれるAIの中から、用途に適したものを選ぶ必要があります。
種類も多く進化が早いためどれを使うか悩んでしまい、ハードルに繋がってしまいますが、お問い合わせAIの場合は必ずしも最高性能のモデルは必要なく、むしろスピードが速く比較的低コストの、低~中レベルモデルがコストパフォーマンスの面でおすすめです。例えば2024年12月現在では、GPT-4o(mini)、Claude 3.5 Sonnet、Gemini 2.0 Flashなどが選択肢となります。
ただし、選定の際は速度やコストだけでなく、会話の学習有無や活用用途の制限など規約内容も考慮に入れる必要があることは注意してください。
2つ目は、RAG(Retrieval Augmented Generation)の導入です。
これは、AIが独自のドキュメントを検索・参照しながら回答を生成する仕組みで、お問い合わせAIには必須の機能として実装が必要になります。AI用のカンペとして例えられることも多く、RAGにより、企業固有の情報や最新の内容を含めた正確な回答が可能になります。
いきなり導入と言われてもイメージ湧かないと思いますが、上記イメージだけ理解しておけば大丈夫です。
3つ目は、適切なデータの準備です。
FAQやナレッジベースなど、AIが参照すべき情報を整備する必要があります。準備する中で、情報の集約とその内容・形式など、現状を把握することが重要です。当然ですが、機密情報や個人情報の取り扱いには十分注意が必要です。社内の規約を遵守しながら、必要な情報を適切に準備することを意識してください。
この3点目の「適切なデータの準備」こそが最もやるべき内容であり、問い合わせAIにおいて最重要な点になります。
2-4. プロトタイプの作成方法
ではここで実際にプロトタイプを作成してみましょう!
・・と言われても戸惑いしかないと思います。何から手を付けたら良いか分からないのは当然です。
繰り返しになりますが、ここでは効率性とスピードを重視したアプローチを取る必要があります。いまから関連技術を全て学び一から開発しないとといった考えや、エンジニアへの依頼・外注といった考えではなく、既にある簡単に作れる仕組みを活用することをお勧めします。
そのための1つの方法として、既存のノーコードツール活用があります。
各種LLMやRAG環境などAI開発に必要機能を取り揃えており、ノーコードで非エンジニアの方でも作成できるように設計されているため、技術的なハードルを大きく下げることができます。
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たとえば弊社サービスのmiiboでは、データ準備を除けば慣れれば5~10分程度、どんなに長くても1時間もあれば誰でもプロトタイプが作成出来ます。(こちらのデモ操作でどの程度簡単かご体験いただけます)
LLMを選択し、RAGに準備したデータを入れればプロトタイプは完成です。また、AIへの指示文(プロンプト)も自動で作成してくれます。
この「作る」ステップがハードルが最も高い部分ではありますが、ここを乗り越えることが順調に進む近道になるため、ぜひ既存ツールを活用してプロトタイプを作成してみてください。
3. テスト~要件の再定義~精度改善の繰り返し
プロトタイプができたら、実際の利用シーンを想定したテストを行い、その結果を基に要件を見直していきます。このプロセスを繰り返すことで、より実用的なシステムへと改善していきます。
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3-1. 関係者間・利用者間テスト
実際の利用環境に近い形でのテストを通じて、AIの有効性と課題を把握します。多角的な評価を行うことで、改善点を効率的に特定することができます。
テストの設計(よくある質問/イレギュラー質問を散りばめる)
関係者・想定利用者での短期検証
定量(ログ分析)+定性(アンケート・ヒアリング)両面での評価
上述した通り、テスト~精度改善は繰り返すものになります。そのため、テスト設計に時間をかけすぎるのは避け、なるべく短期で回す意識を持ち、まずはテスト~改善のサイクルを回してみることがお勧めです。
3-2. 要件の再定義
3-2-1. スコープと要件の見直し
テスト結果を基に、当初の要件を現実的な形に調整していきます。優先順位を付け直し、開発イメージを関係者間で合意することで、効率的な開発を進めることができます。
プロトタイプで見えた改善点や利用者観点からの要件洗い出し
本当に必要な機能と後回しでも支障が少ない機能の整理
活用イメージや実装場所のすり合わせ
3-2-2. 評価指標の設定
お問い合わせAIの評価指標を設定する際は、現実的な目標設定が重要です。特に回答精度については、AIの性質上、100%の正確性を達成することは基本不可能であることを理解しておく必要があります。そのため、許容できる精度水準を関係者間で合意することが重要です。
また、プロジェクトの成否を判断するためには、業務改善の効果を測定できる具体的な指標を設定する必要があります。例えば、応答件数の削減率、オペレーターの作業負荷の削減度、ユーザーの満足度など測定可能な指標を選定し、目標値を設定していきます。
3-2-3. 開発アプローチの決定
要件が固まってくると、本番の開発を誰がどのように行うかも考えやすくなります。
例えば、
・プロトタイプを活かせる場合はそのまま自走
・新たな要件が出てきて社内開発が必要な場合はエンジニア依頼
・リソース不足や専門知識を借りたい場合は外注
といった形です。ここについてはどれが良いということはなく、要件と予算・工数等のリソースとの兼ね合いで検討しましょう。
ただし、自走ではなく依頼する際は、この記事に出てくる内容は必要機能として先にお伝えすることをおすすめします。この時点では見えていなくても、後々必要になるポイントをなるべく盛り込んでいます。
3-3. 精度改善
システムの回答精度を向上させるためには、実際の利用データを分析し、体系的な改善を行う必要があります。具体的には以下の手順で継続的な改善を進めていきます。
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回答できなかった内容の分析
どんな質問に対して不十分な回答が多いか
AIがどんなデータを基に回答したか
AIがどんな検索をしてデータを持ってきたか
改善施策の実施
一般的に行われる改善施策とその具体例が以下になります。
RAGの最適化
データの追加・更新・整備(FAQ/マニュアルの更新、不要情報の削除)
データの粒度調整(ドキュメントの小分け化による検索精度向上)
検索チューニング(質問文の検索クエリ化、検索クエリ生成部分の調整)
プロンプトの調整(回答範囲の制限・強化)
AIが参照するデータ範囲の制限(データへのメタ情報付与)
ハルシネーション(AIの虚偽回答)対策
適切なプロンプト設定(データにない内容は答えないことの明記)
例外対応方針と回答不可時のガイドライン整備
実際に弊社内でも精度改善の重要性を強く感じており、AIによる分析機能を提供するなど取り組みを強化しています。
4. 本番作成~リリース~継続運用
3.で要件が固まったら本番の作成~リリースを行います。これは要件によって大きく変わるため省略します。
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ここでお伝えしたいことは、お問い合わせAIはリリースがゴールではないということです。
せっかく作った問い合わせAIを、使われ続ける実用的なものにするには、継続的な改善と運用体制の整備が重要です。参考までに、弊社内の問い合わせAIはリリースから2か月間で132件のデータ更新・改善が行われました。
必要となるポイントは以下の通りです。
実利用ログのモニタリング
問い合わせ内容の把握
AIによる回答とその根拠データの把握
定期的な精度改善とデータ更新
FAQ追加や定期的なデータチューニング
改善すべきAI回答の検知・改善案のレコメンド
新サービス・新制度導入時のデータ更新
運用体制の強化
専門部署または管理者の設置
AIに適した業務フローの設計
ユーザー教育の継続
効果的な問い合わせ方法の提案
フィードバックルートの確立
問い合わせAIを作ろう!となった最初のタイミングで、本番リリース後も継続運用が必要になることを意識できるかは思った以上に重要なポイントです。
例えば、運用を考えた時に既存フローがAIに適していない場合、「AIに適した業務フローの設計」を進めておくことになるかもしれません。弊社で問い合わせAIを作った際は、全社的に業務フローの見直しを行いました。
5. 使われ続ける実用的なAIに必要な他観点
長期的な運用を見据えると、他にもさまざまな観点からの配慮が必要になります。例えば以下のポイントについても、計画段階から意識しておくことをお勧めします。
LLM停止時のバックアッププラン(別LLMへの切り替えや人力対応など)
選択肢による会話支援機能の実装
履歴保存による精度向上・パーソナライズ
口調やキャラ設定の一貫性(※キャラクターに対応させる場合)
まとめ
本記事では、お問い合わせAIの導入プロジェクトを成功させるための全体像を網羅的に整理しました。非エンジニアの方でも、段階的なアプローチと適切な準備により、着実に価値のあるものを作成することができます。
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既存フローや課題を理解し、要件をまず定義する
現場の要件を理解している人がプロトタイプを作る
初めから理想を追わず、スモールスタートで始める
継続的な改善の重要性を理解する
こうしたポイントを押さえることで、スムーズなAI作成と効果的な導入が可能になります。
AIを正しく導入して活用することで、組織の生産性向上やイノベーションに大きく貢献できるはずです。
最後に宣伝にはなりますが、miiboはプロトタイプ作成はもちろん、本番運用も見据え、一連の流れに必要な機能を全て備えたプロダクトです。
無料からお試しいただけます。
技術を気にせず、皆様が行うべきナレッジや情報整理といった価値出しに時間を使っていただくことを目指しており、利用ユーザー数は25,000人超、上場企業・行政・地方自治体など多くの企業様でご利用いただいております。
また初心者の方でも今すぐに取り組めるよう、マニュアルやトライアルガイドも公開していますのでぜひお試しください!