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問い合わせ対応AIを作ろうとしたら全社の業務フローまで変えることになった話

昨年から弊社では、AIを活用して問い合わせ対応の効率化を図ってきました。しかし運用中に新たな課題が浮上し、問い合わせ対応フローの再設計が必要になりました。

この記事では、直面した具体的な課題と解決策について詳しくご紹介します。AI導入を検討している方々の参考になれば幸いです!

※本記事は、会話型AI構築プラットフォームmiiboを開発する株式会社miiboの提供です


背景

昨年6月、弊社はリソース不足から満足な問い合わせ対応ができず、効率化のために問い合わせAIを導入しました。さらに運用を効率化するため、人×AIによる対応フローも確立しました。

それでも先日、「既存のユーザーからの問い合わせに効率的に対応したい」という要望があり、改善を検討することになりました。

▼以前の記事で紹介した人×AIによる対応フロー

現状の課題

最終的に目指すのは、「人による対応を最小限に、全ての問い合わせに漏れなく回答できる」状態です。
現状を確認したところ、大きく2つの課題が浮かび上がりました。

  1. AIを通らない、さまざまな問い合わせ窓口が存在する(フローの課題)

  2. AIを通る場合でも、回答できていないケースが増えている(AIの課題)

つまり、AI自体にも課題はあるものの、そもそもの問い合わせフローの問題も大きいことが見えてきたのです。

課題に対する改善方針とアクション

これらの課題に取り組むにあたり、関係者間で次のような改善方針を立てました。

  1. 全ての問い合わせが、まずAIを通るフローを整える

  2. AIが回答できない問い合わせにも、漏れなく対応するフローを作る

  3. AIが回答できるように、既存のAIを作り直す

  4. AIが常に最適な状態になるように、運用フローを作る

各方針に対する、具体的なアクションは以下の通りです。

1. AIを経由するフロー整備

まず、現在の問い合わせフローを洗い出しました。すると、同じサイト上でもAIを通るリンクと直接フォームに飛ぶリンクが存在したり、個別対応をSlackチャンネルで行っている現状などが見えてきました。
そこで、全てのリンクをAIに変更し、Slackチャンネル内での質問も減らしてAIを案内するなど、問い合わせチャネルごとに修正を進めました。

2. 漏れなく対応するフロー作成

AIで解決しなかった場合、問い合わせフォームを案内していましたが、対応者が不明確で対応漏れが発生していました。
そこで、内容に応じてSlackチャンネルに自動振り分け、各チャンネルに責任者と対応組織を指定しました。その組織で回答できない場合でも、関係者に展開して終わりではなく、その後回答されたかまでを責任として持つことで、漏れを防ぐ形にしました。

また、担当者の個別対応を完全になくすことは難しいので、メールでの直接問い合わせはメーリスに転送すれば自動でSlackに振り分けられるなど、AIを通らないケースの対応も効率化しつつフローに合流する仕組みを整えました。

3. AIの再作成

既存AIを使い回すのではなく、データの更新やプロンプトのノウハウが社内に溜まっていることもあり、今回はAIを作り直しました。

既存AIで回答できなかった部分に関しては、既存AIの会話ログやコミュニティでの対応履歴を基にAIを使って質問集を作成し、新たにデータとして追加しました。

4. AIの運用フロー作成

以下の観点ごとに対応を検討しました。

  • 最新機能や情報の更新
    社内で情報共有があった際に、各担当者に個別にデータ更新を依頼するのではなく、更新があった場合にスタンプを押してもらう運用に変更しました。これにより、担当者の負担を減らし、改善リストへ自動的に追加されるようになりました。
    またスタンプの押し漏れを防ぐために、全社共有用の投稿チャンネルを作成し、関係者が検知しやすくしました。

  • 回答できなかった情報の追加
    AIが回答できなかった場合、その会話内容が自動的にSlackに通知される
    設定をしています。通知された会話を基に担当者が不足データを確認し、改善リストへ追加します。
    また、問い合わせフォームに対する回答も改善リストに追加することで、ニーズを満たす回答と関連知識を同時に追加できるようにしました。

  • 追加更新しやすいデータ整備
    知識をバラバラと入れるのではなく、公式マニュアル>他ユーザー向け公式ページ>AI向けQA集という構造でデータを整備しました。
    マスタデータの管理は、データを理解している関係者に任せることで、綺麗な形の維持を目指しました。

  • 意図しないAI回答への改善
    ハルシネーション(AIによるもっともらしい嘘)を防ぐため、厳しめのプロンプトmiiboのβ版機能であるハルシネーション検知機能を使用し、怪しいログのみを確認する運用にしました。

ハルシネーション確認のイメージ
弊社プレスリリース(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000118546.html)より

出来上がったもの

全体フロー

最終的な全体フローは以下のようになりました。

今回設計したフロー

お問い合わせ対応AI

今回新たに作り直した問い合わせAIはこちらです。ぜひ一度会話してみてください!
※お試しの場合のフォーム送信は避けるようお願いいたします

実施後の感想

進めるうえで意識した点

次の2点を意識したことも、今回スムーズに進んだ要因でした。

・負担を減らした実用的なフロー
フローを整理しても使われなくなれば意味がありません。
そこで上述の取り組みに加えて、新たに仕事が増える人は、課題を持っている人や関係者に絞ることも意識しました。
例えば、各チャンネルの責任者には問い合わせ対応の負荷が高かったメンバーを割り振ったところ、対応範囲が明確になり、今後の対応も減るモチベーションから快く受け入れてくれました。

スピード優先
ユーザーの信頼低下や社内リソースの損失を防ぐため、急ぎの対応が必要でした。そのため、主な関係者は非エンジニアの3人に絞り、必要に応じて適宜巻き込む形で進めました。
また、機能案は1週間以内に確実に実装可能かで判断し、条件を満たさないものは満たす代替案を検討しました。
例えば、フォームへの入力負担を減らすためにAIとのやり取りで完結させることも検討しましたが、利便性と実現性が不明だったため、まずはURLのパラメータに会話のサマリを入れる方法を採用しました。

このプロジェクトを通じた学び

このプロジェクトを通じて、いくつかの重要な学びがありました。

まず、非エンジニアのメンバーだけで週に一度の定例会議で進められたこの取り組みが、わずか1ヶ月でリリースできたことは大きな成果でした。現場の知識を持つメンバーが運用に関与することで、実際の業務に適した解決策を迅速に導入できました

また、早い時期から問い合わせAIを導入していたことは、決して間違いではありませんでした。過去の会話ログがデータ作成時に非常に役立ち、社内での問い合わせAIに対する抵抗感が少なかったことも、今回の改善プロセスをスムーズに進める助けとなりました。

そして何より、AIを有効に活用するためには、作成だけでなく運用までを考えた総合的なアプローチが必要であることを痛感しました。
今回のこのフローもしばらくすると機能しなくなる可能性が大いにあります。今後も実際の運用状況やAIの進化も踏まえながら、継続的にAIだけでなく業務フローのアップデートや改善を行っていく予定です。

AI導入を検討する際には、運用までを視野に入れた総合的なアプローチを考えてみてはいかがでしょうか。問い合わせ対応の効率化だけでなく、全社的な業務効率の向上が図れるかもしれません。

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miiboは、非エンジニアでも実用的なLLMアプリケーションを開発し運用できる会話型AI構築プラットフォームです。
一方で、今回のようにAIの導入・活用には業務プロセスや業界知識の理解が欠かせません。

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