外発的動機づけは悪者なのか? 【速水敏彦著 『教育心理学の神話を問い直す 内発的動機づけと自律的動機づけ』】
以前ご紹介した「自律」と「内発」について研究したデシ教授の本。
二回シリーズで「人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー」の紹介をしました。今回は、最近出版された下記の本、速水敏彦著『教育心理学の神話を問い直す 内発的動機づけと自律的動機づけ』の中で紹介されていた、「外発的動機づけのグラデーション」のお話を紹介します。
内発的動機づけと外発的動機づけ
人の動機づけ理論として最も有名な著書は、波多野誼余夫先生の『知的好奇心』でしょう。
「人は怠け者じゃない」というそれまでの管理・統制を中心とした「怠け者の人間観」とはまったく反対の概念を高らかに取り上げ、教育に関わるものは必ず触れる「内発的動機づけ」の理論を展開した名著です。
内発的動機づけとは、デシ教授の定義を引用すると、
内発的動機づけとは、活動それ自体に完全に没頭している心理的な状態であって、(金を稼ぐとか絵を完成させるというような)何かの目的に到達することとは無関係なのである。
ということで、活動に没頭しているという「プロセス」を現しています。
そして、反対に外発的動機づけとは、
報酬をもらうことを目的として、もしくは罰を避けることを目的として行動を喚起する動機づけのことである。
Johnmarshall Reeve, Edward L Deci, Richard M Ryanの自己決定理論
しかし、Reeveらは、外発的動機づけがあるときにでも「自律的に動くことはできる」ということで、「外発的動機づけのグラデーション」を提案した。
Handbook of Self Determinationの1章では、彼らの提案される外発的動機づけのグラデーションが紹介されている。
Reeve, Johnmarshall & Deci, Edward & Ryan, Richard. (2004). Self-determination theory: A dialectical framework for understanding sociocultural influences on student motivation. Big Theories Revised. 31-60.
それぞれの動機づけを分類している。特に外発的動機づけの中でも「自己決定が比較的可能なもの」として、
「意識して自分の動機付けを調整する Identified Regulation」
と
「完全に自分の動機づけを調整する Integrated Regulation」
の2つは、比較的自己決定の度合いも高く、学習の効果が上がっていることが取り上げられています。
外発的動機づけは悪者なのか?
理想を言えば、「外発的動機づけは完全に悪者だ」というふうに教育者なら皆語るでしょう。
しかし、実際問題を考えると「自己決定が可能な外発的動機づけ」が楽しいと感じる場合もありますよね。
特に「新しくチャレンジして、自分で色々と決めることもできる。」という体験はなかなかすることができないけれど、人を否応なく成長させてくれます。
確かに、私たちも「高い給料」や「賞」がもらえるならば、それを目指して頑張ることもあるし、さらにその行為自体をいつの間にか内発的なものとして自己解釈してしまうことだって多くあります。
「外発的動機づけは悪魔のような悪者」とまではいえないのかもしれませんね。