Greenbuild 2023 ──環境建築の未来を創り出すために 【後編】
↓↓こちらの記事の続編になります。(2024/10/14追記:定期的に内容をアップデートしていることもあって、前編・後編と2つの記事に分けてまとめ直しました。)
3. Greenbuild 2023・考察
※内容は随時更新・修正していきます
(2023年12月執筆、2024年10月更新・修正)
[1/6] Topics of Greenbuild 2023
今回のGreenbuildでは4日間を通して約170ものセッションが開催されていた。スケジュール上ほんの一部のセッションしか参加できなかったが、一部のセッションはアーカイブが残されていたので視聴することができた。
各セッションで扱われていた26個のトピックを以下に列挙する。
個人的に興味深いと感じる5個のトピックを太字で示した。ESGなどと関連したビジネスを扱うトピックが非常に多く、環境問題に関連したテーマである以上、ビジネスや経済の視点が必要不可欠であることが読み取れる。また行政の取り組みなどが多く紹介されていたことも踏まえて、本カンファレンスで扱われていたほぼ全てのトピックはトップダウン型の取り組みを扱っている印象を受けた。
ここで、1日目のセッションで紹介された以下の画像を紹介する。
環境建築の普及を阻むものは何なのか。コスト面の問題だけではない。地域全体の関心の無さ、需要の低さ、行政の支援不足など様々な障壁が存在し、それも地域によって大きく異なる。行政の支援不足という障壁は非常に大きく、言うまでもなく日本ではこの障壁が大きな課題である。ただそれだけでなく、市民が関心を持たない、ボトムアップの動きを起こせない、起こそうとしないという問題も見逃せない。
今回のカンファレンスでは世界各地のそれぞれ抱えている問題などを知ることができなかった(セッションに参加できなかった、アーカイブが残っていなかった、自分の英語力不足もあって深く聞き出せなかった etc.)のが大きな反省点である。これに関してはさらに自分で調査を進めていきたいところだ。
[2/6] Latest trends in 2023
Greenbuild 2023を通して明らかにされた世界の動き、最新の潮流を簡潔にまとめた。
◯ LEED v5 for Operations and Maintenance(草案)の発表
[3/6]参照
◯ 扱う空間スケールの変化
LEED認証やWELL認証が対象とするのは主に一つ一つの建物単位であったのが、近年ではSITES(Sustainable SITES Initiative)のような都市、グリーンインフラを評価するシステムが登場したことから読み取れるように、建物単位ではなく、街区や自治体単位にまでスケールを広げて取り組もうという動きが見られた。
◯ 評価スケールの変化
これまでは個別の建物をそれぞれ評価したり、CO2排出量などに関する情報開示を求めたりしていたのに対して、2024年以降は不動産ポートフォリオ全体を評価し、環境性能の改善や検証を行うようになるという。ほとんどの不動産ポートフォリオには当然全ての不動産が含まれることになる、すなわち環境性能の低い不動産も含まれることになる。このように評価スケールをポートフォリオ全体にまで広げることで、これまでは主要な建物だけが評価されていたのがポートフォリオ全体が評価されるようになり、そして改善が求められるようになる。個人的にこれは非常に大きな進展であると考えている。
◯「脱炭素」の強調
既存建築物のCO2排出量は、世界のエネルギー関連のCO2排出量の28%を占めている。本カンファレンスで開催された数あるセッションの中でも多くが既存建築物のCO2排出量削減を強調するものだった。LEED v5の草案が発表されたことも脱炭素への注目が集まっているからである。
また、ホワイトハウスはzero-emissions buildingsについての新たな国家的定義を定めた基準を作成する意向を示した。LEED v5はこの基準に沿う形で作成されようとしている。
◯ 生物多様性への着目
建物単体に限らず都市全体にまでスケールが拡大しつつあるという話題に関連して、生物多様性や自然に関するトピックへの注目度が高まっている。自然へのアクセスを重視したランドスケープデザイン、バイオフィリックデザインに関連したセッションも多かった。ここまで自然資源への注目が高まっているのは、2021年のTNFD*(自然関連財務情報開示タスクフォース)の設立が影響していることが理由として考えられる。
*TNFD について
・TCFD:気候変動について、CO2排出量という情報(非財務情報)の開示を求める
・TNFD:生物多様性について、地域特性を含めたあらゆる情報(非財務情報)の開示を求める
→→どちらも企業の社会的価値を可視化することが目標
[3/6] How to find value in a certification system, LEED v5
LEED v5 for Operations and Maintenance(既存ビルの運用とメンテナンス)の草案が発表された。USGBCによって発表された新たなこの枠組みは、2024年完成予定である。
パリ協定の1.5℃目標達成を本当に目指すのであれば、もう我々に残されている時間は無い。その中で建築物の脱炭素化の動きを加速化させるためにも、LEED v5には大きな期待が寄せられている。現在世界で100,000件を超えるプロジェクトがLEED認証を取得しているほど、LEED認証に注目が集まっているが今回新たに発表されたLEED v5は脱炭素にさらに重点を置いている。また「human health(人の健康)」「resilience(レジリエンス*)」「equity(公正)」に関する課題にも取り組むためのきっかけになることを目標とした内容である。
*「レジリエンス」の定義(災害対策・復旧に関連した内容)
LEED v5の主な新機能としては以下が挙げられる。
・脱炭素目標の達成に向けた既存建築物への取り組み強化
・屋内の在室状況を踏まえた、人中心のアプローチの促進
・気候変動に関するレジリエンスについての評価の義務化
・感染リスク管理の指標を含む、室内空気質の継続的評価 など
正直なところ、このような表層的な変更内容しか理解しておらず、具体的な数値設定の変更箇所などは分からない。この辺りは、2024年内に取得を目指すLEED APの資格勉強を通して、さらに理解を深めていきたい。
このようにLEED v5にはgreen buildingの革新的な一歩を踏み出す期待が込められているが、そもそもなぜLEED認証なのか?果たしてこのような認証制度を普及させることが本質的に必要なのかという問いに今一度向き合う必要があるのではないか。少なくとも自分は認証制度が果たす役割を肯定する一方で、認証制度は不完全な側面も抱えていると考える。
LEED認証に限らず、サステナブル認証ラベルや食品安全マネジメント認証のような認証制度の果たす役割は、定量化しづらいものに対して共通の評価軸を設定することだと考えている。ある建物や製品が本当に信頼できるものなのかを証明する上で、認証制度は非常に重要な役割を果たす。環境配慮の文脈で言えばグリーンウォッシュを防ぐ役割も期待できる。
しかし、求められる性能、つまり認証制度が設定するべき基準の高さも社会の変化に応じてグレードアップが求められる。自分はこのグレードアップにこそ認証制度の真価を見出すべきではないかと考える。
例えば今回発表されたLEED v5を例にすると、2000年に初めて実装されたLEED認証はこれまでもグレードアップを重ねて、2013年にはLEED v4が発表された。そして今、LEED v5の草案が発表されたわけだが、このように時間を重ねるにつれて認証制度自体をさらにグレードアップさせることで、陳腐化させないということが認証制度の核となる部分ではないだろうか。
認証制度がグレードアップするということはすなわち、その認証制度を取得する難易度が上がるということである。そうなると一見、その認証制度の取得数は減少するように考えられるが、以下のサイクルを思い浮かべると認証制度が陳腐化しない工夫の仕組みが分かりやすくなる。
以上のような流れが起きることを狙ってLEED認証をはじめとした制度設計を行うUSGBCの力量・巧妙さには見習うべき部分があるだろう。
ただし、アメリカの組織であるUSGBCが設計している認証制度である以上、あらゆる国・地域に適用する際に不具合が生じやすいのも事実である。例えば日本でLEED認証を取得しようとする場合、Water Efficiencyの項目で評価を得るのが困難である場合が多い。(日本は水資源が潤沢であるため。)あらゆる地域に適用できるように改善が図られているようではあるが、このような部分に建築・都市を扱う認証制度から感じられる不完全さというべきか、根本的に改善するべきだと考える点が存在する。
つまり、USGBCがいくら綿密に制度設計を繰り返して作り上げた認証制度であっても、それはあくまで第三者による一つの評価指標でしかない。定量的なデータ分析も含めた共通の評価軸としての役割は非常に重要である一方で、やはりあらゆる地域の建物や都市空間、そこに住まう人々にとって適切な共通の指標を作るのは限界があるのではないだろうか。
これらを踏まえて、LEED認証のように高度に設計された第三者認証制度と共存するような形で、市民自らが設計して作り出した認証制度、もしくは評価ツールが存在しても良いのではないか、というのが自分の中での仮説である。第三者による評価手法特有の欠点を補完しつつ、市民の参画を呼び寄せるようなものが現時点での理想であると考えている。つまり、ボトムアップの動きがもっと必要だと考える。これに関しては何となくイメージしたものでしかないので解像度もゼロに等しい。しかし、何らかの形で社会実装したいと考えているアイデアの一つである。
[4/6] Affordable housing from an environmental perspective
気候変動、脱炭素、経済、ウェルビーイングなど、いわゆる環境問題に関連したテーマで建築・都市を扱うGreenbuildという名のカンファレンスで頻繁に登場した言葉、それは「Affordable Housing」だった。日本語では「アフォーダブル住宅」と呼ばれるこの言葉は、世界に比べて日本ではあまり浸透していない。
さらにここで紹介したいのが、Greenbuild Scholarshipに応募する際の質問項目のうちの1つである。
あらゆる人々に住む場所を届けようとする取り組みが、環境に関するテーマを扱うカンファレンスで同列に扱われているということが意味するものは何なのか。これについてさらに掘り下げていく。
ちなみにaffordable housingはすでに以前のカンファレンスから取り上げられており、Greenbuild 2019(アトランタ開催)ではほとんどメインテーマとして大々的に取り上げられていたようだ。
アメリカは貧富の差が激しい上に、日本とは違って家賃が一気に跳ね上がることもあるので、自分の住まいを失ってしまうリスクが大きい。そのような背景もあって、アメリカではアフォーダブル住宅に関する施策が整備されていたり、行政からの補助金を取得しやすかったりする。
上の画像から分かるように、アメリカでは特に西海岸の地域やテキサス州でアフォーダブル住宅の不足が深刻化している。
アメリカでのアフォーダブル住宅の取り組みは、「アフォーダブル住宅開発」「就業支援」「持続可能性」の3つのレイヤーで事業展開されるが、今回は「持続可能性」のレイヤーに着目したい。
ここでは、1日目に参加したセッション「DC's BEPS Affordable Housing Retrofit Accelerator」の内容について紹介する。
https://www.dcseu.com/affordable-housing-retrofit-accelerator
D.C.市内における「2030年までに温室効果ガス50%削減」という目標を2012年に打ち出し(その後「60%削減」に変更)、そして2045年までにゼロカーボン実現を目標として定めた「SUSTAINABLE DC VISION」の一環として取り組まれるAffordable Housing Retrofit Accelerator(AHRA)は、
・D.C.における既存建築物のエネルギー性能の最低基準値・BEPSを満たす
・手頃な住宅価格を維持する
・住宅のエネルギー効率を向上させ、温室効果ガス排出量を削減する
・居住者の生活の質を高める
以上を達成するための支援をD.C.の共同住宅または集合住宅を対象に行う取り組みである。
D.C.はエネルギー性能の基準としてBEPS(Building Energy Performance Standards)を開発し、まず初めに2021年1月に定められたエネルギー性能の最低基準値を満たしていない既存建築物は改修が求められ、その最低基準値は6年ごとに更新される仕組みを作り出した。
AHRAは基本的に行政や非営利団体による補助金を利用しながら上手く金銭サイクルを回す取り組みである。
また、BEPSを開発した段階から、D.C.は既にアフォーダブル住宅に取り組もうとしていたという。アフォーダブル住宅の切迫した金銭サイクルとBEPSの6年サイクルは明らかに相性が良くないが、アフォーダブル住宅においても居住環境や市場価格を悪化させたくないため、BEPSのような環境基準を免除したくないという先を見据えた視座をD.C.は持っていた。
AHRAに関して特筆すべきことは、アフォーダブル住宅の環境性能を向上させる取り組みを以下の組織が共同で取り組んでいるという点である。
・DC Department of Energy and Environment:D.C.の政府機関
・DC Sustainability Energy Utility:非営利団体
・DC Green Bank:金融機関
(・各ビルオーナー)
非営利団体のDCSEUと金融機関のDC Green Bankが政府と協働しようと繋がったのは2021年12月だった。とある基金が支援するプロジェクトを探していたところ、AHRAが全面的に押し出され、それが協働するきっかけになったそうだ。
AHRAはビルオーナー、不動産管理者に向けた取り組みであるが、建物のオーナーにとっては建物の利便性やコストはもちろん、それだけでなく建物の性能も非常に重要である。例えば設備に関係する問い合わせが何件も来るとオーナーは大変であるし、他にも機器の寿命を長持ちさせてコストを極力抑えたいという思いもある。AHRAは居住者だけでなく所有者・管理者のニーズも満たす取り組みであると言える。
AHRAが最終的に目指すのは自立・持続可能なファンドサイクルの実現であり、AHRAなしのBEPSプログラムは成り立つが、それでは賃貸料の増加は避けられなくなる。手頃な住宅価格を維持しつつ、BEPSの基準を達成するのは困難ではあるが、AHRAは非常に長いスパンで展開されているからこそ色々な組織が協働で取り組んでいる。政府と他組織が協働で取り組む一つのモデルとして、参考になる部分は沢山あるはずだ。
この記事ではAHRAの概要について触れたが、レクチャーを見返したりさらに調査したりしてAHRAに対する理解をさらに深めることができた。このトピックに関して今後さらに議論したいと考えている。
ちなみに、日本ではアフォーダブル住宅がほとんど普及していないという問
題がある。ここでは豊田啓介さんのツイートを引用している。
日本でもアフォーダブル住宅の必要性が唱えられ、さらにはエネルギー高騰といった問題もあるからこそ、環境性能の観点は必要不可欠ではないだろうか。実際に、昭和後期に建設された公営住宅の断熱性能の低さが問題視されているという事実も存在する。
後述するが、環境建築を普及させる、より多く広めていくのであれば、あらゆる人々に届けるべきである。一部の人間だけが利用できる今の状況は必ず改善しなければならない。今回自分がアフォーダブル住宅に大きな関心、そして危機感を抱いたのには理由があった。Greenbuild 2023に参加する前にボストンを観光していたとき、Back Bay Stationという大きな駅の前にあるコンビニエンスストアで、14歳の女の子が働いている光景を目の当たりにしたのだ。彼女は平日に学校に通って、土日はいつも働いているという。「アメリカの貧富の差」を自分の目で見た瞬間だった。このような経済格差に対して、AHRAのような取り組みは重要な手段になり得るし、他にもそのコンビニの環境改善を図るとか建築だからこそできることはあるはずだ。建築はビジネスと相関させなければならないし、取り組むべき問題は沢山ある。
まず自分にできることはこのような事例を徹底的にリサーチしてわかりやすく伝えていくことだ。
[5/6] The Legacy Project: Roots to Success
まだ編集中。
[6/6] How to realize green building
これから環境建築はどうあるべきか。
Greenbuild2023で扱われていたトピックを全体的に眺めてみると分かるように、green buildingはビジネスや経済の色が強く、そして動作的なものである。地球に激甚な被害をもたらす気候変動への対処、誰もが快適に暮らせる社会の実現、……果たして、green buildingは本当に世界を変えるものになるのか。少なくとも今の状態ではまだ不完全だと考えている。
ここで、社会におけるgreen buildingの立ち位置を明確にした上で、自分が考える欠点・改善点を2つ示す。
1つ目は、green buildingという取り組みは、環境建築ではない建築物に現状ほとんど対処できていないというジレンマである。
LEED認証やWELL認証を取得する需要が高まっているのはなぜなのか。建物の所有者が環境に配慮したいという思いがあるからという理由の他にも、環境に配慮していることを証明することで企業のイメージをより良くしたいという狙いもあれば、そもそも日本のオフィスビルに海外の企業が入居する場合、そのオフィスビルがLEED認証を取得していることが前提であるというケースもあるためである。このように見てみると、green buildingの市場を確立することで環境建築を広めようとする狙いは非常に優れている。カラーテレビやスマートフォンが登場した当時、それらは革新的な出来事だったが、今となっては当たり前のものになっているのと同じように、環境建築を当たり前のものにしようと目指しているのが今の社会の動きである。
しかし、このような市場の動きはある一定のレイヤーに収まっているのが現状である。「一定のレイヤー」というのが曖昧な表現ではあるが、少なくともこのレイヤーには断熱性能やエネルギー効率が低く利用環境が劣悪な住宅・業務用建築のような本当に今すぐ改善するべき建築物は含まれていないのである。特に市場の動きはなかなか住宅にまで及ばず、2023年時点で日本国内でのLEED認証件数約230件のうち、住宅の認証件数(LEED for Homes)は僅か4件である。市場は順調に拡大しているからこそ、一つのレイヤーに収まってしまっている現状から脱却するための最大限の努力が必要である。これに関しては順序の議論も必要であると考えている。例えば、[4/6]で紹介したアフォーダブル住宅の取り組みはあらゆるレイヤーにまで適用しようとする観点から見ても重要な取り組みであるが、まだまだ課題も多い。この課題に対して自分は必ず答えを導き出したい。
2つ目は、green buildingはトップダウン型の動きである、つまりボトムアップ型の動きも必要ではないかということである。
今ある社会問題はトップダウン型では解決できず、ボトムアップ型の解決方法へと変容していくべきではないだろうか。[1/6]、[3/6]でも触れたが、ボトムアップの動きがより加速化すると、自分も社会も変わることができるのではないだろうか。
2024年1-3月に開催された展覧会「能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ) ――複数種の網目としての建築」を開催されていた能作文徳さんの以下のツイートが非常に考えさせられるものだ。
日本とは異なり、欧米では行政主導でトップダウン型の環境建築の普及が進められていて、日本は欧米を見習うべきだということは間違いない。しかし、能作さんの展覧会でも見られるような多角的な視点から挑戦する環境建築は新たな価値を生み出し、それが実際に欧米で評価されているということにも注目する必要がある。
展覧会の「断熱のジレンマ」という章では、断熱工事は予算の中で大きな比重を占める上に、断熱材の工事費と冷暖房のランニングコストの回収に時間がかかるため、お金に余裕がない人は断熱工事ができないという問題について触れられていた。(参照:アーバン・ワイルド・エコロジー / 能作文徳+常山未央)
それに対する一つの解決策として、自分たちで少しずつ断熱改修する手法が挙げられていたが、それは正にボトムアップ型の動き、そしてその動きを生み出す環境の必要性が唱えられているように感じた。
下の写真は、自分が千葉県匝瑳市を訪問した際に見学させていただいた古民家の窓を撮影したものである。
窓のガラス面に貼られている*のは、緩衝材や梱包用に用いられている気泡緩衝材(プチプチシート)で、実はこれを貼るだけでもそれなりの断熱効果が期待できるのだ。
*厳密には、訪問した古民家では、気泡緩衝材を貼った型枠を窓のガラス面に重ねるような造りにすることで、気泡緩衝材をガラス面から剥がす手間を省略している。
今ここで重要なのは、気泡緩衝材による定量的な断熱効果ではない。現代の人々がいかに自分たちの手で暮らしに工夫を加えようとするアクションを失ってしまったのかということである。寒さの厳しい冬場、寒さを凌ごうとするためにまずやるべきことは果たして暖房をつけることなのか。それよりもまずは自分たちの手で何ができるのかを考えることではないだろうか。暖房をつける前に、窓をはじめとした開口部に何か工夫ができないかとアクションを試みることが必要ではないだろうか。自分を含めた現代人はこのようなアクションを取り戻していかなければならない。異常気象、エネルギー問題、環境問題と謳われるこれらの問題以前に、考え取り組むべき問題がそこにはあると考えている。
以上、Greenbuild 2023を通して自分の中で明確化された課題感である。
Greenbuild 2023ではトップダウン型の取り組みを扱うテーマがほとんどだった。しかし、環境建築にはボトムアップ型の動きも必要であり、その動きを促進させるための一種のトップダウン型の動きがまた必要となる。気候や文化も異なる世界各地で環境建築を普及させるためには、両者のバランスを上手く保ち、欠けている部分を補っていく必要があるかもしれない。少なくとも日本ではトップダウン型の動きがあまりにも小さいのではないか。
Greenbuild 2023では明確な答えを示すことはできなかったが、これから必要となる視座を得ることができたように思う。トップダウンの政策や事業も実現させたいし、この分野におけるボトムアップの具体的な方法論を確立するために検証・実験にも取り組んでいきたいと思う。
実際にGreenbuild 2023に参加して気づいたことは、日本の取り組みがあまりにも遅れていることはもちろんだが、案外他の国も課題が山積みであり、例えば既存建築物の環境性能が低いといった日本と同じような課題をアメリカも抱えている。今回はボランティアとしての活動をメインに参加したこともあり、より多くのセッションに参加することはできなかった。自分自身の勉強不足も痛感した。ただ、Greenbuild 2023に唯一の日本人学生として参加してこのようなカンファレンスで沢山の人と交流する中で自分自身の存在を示したことをきっかけに、この分野でこれから挑戦し続けていきたい。
読んでいただきありがとうございました。
記事の内容に関して、気軽にコメントいただけると嬉しいです!何か分かりにくい箇所とかも是非教えてください!
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