見出し画像

第八話 Rhythm Nation-Janet Jackson

失われた30年。この物語を2025年を生きる若者と1995年を生きた若者に贈ります。これは僕の遺作です。

尊敬する森永卓郎さんが亡くなられた。末期ガンの中、「どうせ死ぬなら好きなことは全部書いてやろう」と、

命をかけて財務省の闇を『ザイム心理教』など多くの著作で書かれてきた。
森永さんを引き合いに出すのは憚れるが、僕もこの『9525』を命をかけて書いている。

1995年の9月、僕は渋谷の街で1500人が参加するパレードの先頭に立っていた。

イベントタイトルは、

あやまってよ95' 厚生省を更生しよう

日本語的には文法が間違っているが、そんなことより、作詞家でもある僕は語呂にこだわり、このタイトルにした。
薬害エイズ問題を訴えるために賛同した若者たちを引き連れ、街を行進する抗議活動だ。
僕たちの声をさらに多くの人々に届けるため、このパレードはただの抗議行進ではなく、強烈なメッセージを発信するものにしたかった。

その日のために、僕は特別なコスチュームを用意した。
インスピレーションは、僕が敬愛するボノが「ZOO TVツアー」で演じたキャラクター「マクフィスト」だった。

それまでの「反戦」「平和」「人権」を歌詞に盛り込み、ライブでは白い旗を振る。

オノ・ヨーコから「あなたはジョンの息子よ」とまで言われたボノは

「ロックの殉教者」から180度イメチェンし、U2はZOO TVツアーでロック史上最高のテクノロジーコンサートを実現した。

「決して進化を止めず常にファンの予想を上回ることをやってくる」
彼らの真骨頂だ。

僕はツアーの最終公演となった東京ドーム2デイズに足を運んで、その革新性に人生をひっくり返されるほどの衝撃を受けた。

ドームのステージに巨大なスクリーンが無数に置かれている。
そこにクイーンの「We Will Rock You」が流れ、画面ではそれをブッシュ大統領が歌っているように映像が編集されていた。

そもそもこのツアーのコンセプト自体がブッシュが、イラクをどうしても倒したくて起こした湾岸戦争における、テレビ中継だった。
まるでゲームの画面のように戦闘機が爆撃する様子が全世界に中継されていた。
これにインスパイアされたU2はその時代性を皮肉ったのだ。

スクリーンには、様々な映像が映し出されていく。
そしてベートベンの第九が流れ、コーラス隊の音楽が絶頂に達した時に、ボノを乗せたステージが競り上がって、欧州連合、EUの星が一つ落ちて、タバコを片手にした彼のシルエットが浮かび上がる。

そこに雷のようなドラムのスネアを叩く音がこだまする。曲は「Zoo Station」。
ベルリンにある実際の駅の名前だ。
ベルリンの壁崩壊、冷戦終結、EU発足を動物園に比喩した曲だった。
後年、僕は実際にその駅に降り立ち、このツアーの元となったアルバム『Achtung Baby』をレコーディングしたベルリンのハンザ・スタジオにも足を入れたのだった。

2曲目『The Fly』では、文字の嵐が画面に映し出される意味不明で、かつ意味深な演出。
最後は、「EVERYTHING YOU KNOW IS WRONG」という文字だけ残った。
「君たちが知っているものは全部悪い」
意味深なメッセージ。
その後、MCに入る。
「ようこそ‼️動物園テレビへ‼️やっとZOO TVの首都、東京にたどり着いたぜ」

ボノはスイッチを手にしモニターの画面を切り替える。
すると、何やらどこかの国の人たちが映っている。
このZOO TVはライブ会場から衛星で各地を中継しながら、ワールドツアーを行っていたのだ。

そして、アンコール後に登場するキャラクターが、偽善と欺瞞の化身、マクフィストだ。
白塗りの顔に赤い角、ゴールドのスーツとブーツ。
どこからどう見ても「ロックスターのパロディ」だ。
彼らは自分たちが作ってきたロックスターの成功者を皮肉っているのだ。

このツアーで恒例となっていた「笑っていいとも」さながらの、テレフォンタイムが始める。
ボノがゴールドの電話機の受話器を片手に番号をプッシュする。かけた相手は、

初日は当時の横綱の曙、二日目は時報

だった。
「私の名前はマクフィスト。
マドンナと話したいんだが」
と彼が言うと、電話音は「ツーツー」と切れ、ドームに笑いが溢れた。
音楽とアートと政治的メッセージとテクノロジーが詰まった、こんな凄まじいコンサートは初めてだった。
この体験がそれまでのカルチャー一辺倒から、

テックへの目覚め

となった。
僕の人生はこれを機に に完全に違うモードに入っていく。
この歴史的なツアーから約30年後、ラスベガスで再びZOO TVツアーが再現されたが、今度は球体型のアリーナでスクリーンは360°という凄まじいものだった。

マクフィストは、皮肉と風刺を象徴する悪魔のキャラクターで、社会や権力に対する挑戦の象徴だった。
僕はそのイメージをそのままパレードに持ち込むことを決意し、僕ら学生の活動を応援してくれるニッポン放送の人に頼み、フジテレビの衣装室から上下の金ピカのスーツを借りた。
おそらくエルヴィスの仮装の衣装だったんだろうと思う。
さらに、徹底するため、自分の靴と靴下までスプレーで金色に染め上げた。

最後に、天使の羽を背中に装着し、僕のコスチュームは完成した。

恍惚と期待の二つ

が心の中にあった。

ここから先は

6,335字 / 8画像
この記事のみ ¥ 150
期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?