合作は、地域でなにをしているのか?【対談シリーズ③/事業共創チーム 高橋邦男】
合作のメンバーとの対談シリーズ・3回目は、事業共創チームの高橋邦男さんです。
2023年の10月に始動した事業共創チーム。合作といえば“大崎町”というイメージが大きいかもしれませんが、他の地域、全国各地を飛び回って、地域と企業の関係性をつくる仕事をしているのがこのチームです。邦男さんは以前、宮崎県新富町が設立した地域商社こゆ財団の創業に参画され、6年にわたり事務局長・理事を務めていらっしゃった方。ご縁あって今は合作のプロジェクトマネージャーとして参画していただいています。同じ界隈でのご経験が豊富なこと、そして同じ経営者目線でも語りたい話題が尽きません。
※この対談シリーズは、広報チームも加わって実施。少しでも雰囲気や言葉のニュアンスも伝わればと思い、対談部分は会話形式でお届けします。
「編集」と地域の仕事の共通点
高橋邦男(以下、高):
そうですね、先に僕自身の話をすると、「自分は編集者である」と思っています。
雑誌をつくる編集者のキャリアからスタートしていますが、生き方や自分のあり方、こうありたい姿を言葉にした時に、自分は「編集者」なんだなと再認識しています。仕事として出版業界を選んだのも、宮崎に戻って地域に関わることになったのも、全部編集で繋がっています。
齊:なるほど、「編集」で繋がっているんですね。
高:はい。僕は、生きている中で「いろんな線が引かれてること」にすごく自分の意識が向いているなと気づきました。
年齢、性別や価値観、偏見や先入観も含めて、人って色んなところで線を引いちゃうじゃないですか。あの人とは合わないからと勝手に自分で線を引いて距離を置いたり、逆に線を取っ払った時にぐっと仲良くなれたり。地域も、国境も、日本国内でも行政区分としての単位で線が引かれている。
その"境界線”というものが無数に存在していることに、自分自身の興味関心がすごくあって。それを、「再編集」するのが好きなんだなと思っています。
実はそれを社名にしたのが、昨年立ち上げた自分の会社「ワンダーコミュニケーションズ」だったりするんですよね。 (ワンダー:予期せぬ不思議な、偶発的な。)
ということで最初の問いに答えると、境界線を編集することに興味があったから、「地域づくり」みたいなことにも興味関心が繋がった。地域を捉えなおす、地域内外の人や物事との関係性はもっといろんな可能性があることに面白さを感じているのかなと思っています。
齊:なるほど。関係性を捉えなおす、と聞くと「編集」という言葉で繋がるイメージがありますが、出版関係の編集と、いわゆる地域づくりの仕事は全く別フィールドですよね。何か地域に関わることの面白さを感じるポイントがあったんですか?
高:編集者時代に大手電力会社や大きい自治体と仕事をしたことがあって。それぞれが1つの国なんじゃないかというぐらい巨大で、なかなかコミュニケーションが取りづらかった。
かたや宮崎に戻った時に、1番最初に仲良くなった社外の人(当時所属していた組織以外の人)は、意外にも行政職員さんでした。ガッチガチのヒエラルキーの中で生きている人たちもいれば、その中でも面白みを見出して、境界線を飛び越えている人たちもいる。
固いと言われる行政の人たちなのに、いい意味で自分たちで線を引き直している人たちがいるんだ!と思った時に、この人たちが働いている地域づくりの面白さみたいなものを実感しました。
齊:そうだったんですね。今事業共創チームで「編集していること」って、邦男さんの「編集」の定義に当てはめると、どういう感覚ですか?
高:そうですね。これは合作全体にも言えることだと思うんですけど。
チームには本当に多種多様な人が集まっているじゃないですか。バックグラウンドを含め、培ってきたスキル、普段関わっているコミュニティ、関心領域、働き方、いろんなバリエーションを持っているメンバーが集まっているので、だからこそ1つの目的に向かう手段は無限のアプローチができるなと思うんです。いかにその選択肢をたくさんつくれるか、そして選びやすい環境をつくるにはどうしたらいいか、そんなことを日々考えていますね。ちょっと漠然としていますが。
齊:いえいえ、イメージは共感する部分があります。
余白と計画的偶発性理論の話。
高:つい先日、チームメンバー同士がslackで褒め合っているシーンがあったんですよ。そのやりとりをちょうど一緒にいた役員(西塔大海)と見ていたのですが、いい雰囲気だなぁと身内ながら盛り上がっていました。
僕が大事にしたいのは、やっぱそういう空気感というか、普段顔を合わせていなくても最低限のマナーや心配りができるコミュニケーションが出来る関係性。その上で、様々な選択肢やアプローチが生まれてくる。そうすると、一人ひとりが「これはどうかな」「こういうことをやってみたらどうかな」を投げやすくなる、差し出しやすくなると思うんですよね。
これは「余白」という言葉が1番ぴったり、しっくり来るかもしれない。関係性の中に、余白をつくっておく。ともさんも「余白」の話をされていらっしゃいましたよね。
齊:はい、お互いが持ち寄って“合わせて作る”ことを大切にしているので、「関わりしろ」を残すことは一つのキーワードだと思っています。
例えば大崎町でのサーキュラビレッジのビジョンマップは、ちゃんと描いてあるようで、実は何も描いていない。見た人にイメージを想起させる部分が残っています。もしあのマップに具体的にスケジュールや着工がいつでどこが設計して…など書き込んであったら、関わる余地がない。関われそうという「余白」がいっぱいあるからいいんだと思っています。
高:そうなんですよね、先ほど線引きの話をしましたけど、余白と線引きって関係すると思うんです。
真っ白なキャンパスだけ渡されて好きに描いてもいいよと言われても、どこから何を描こうかな…ってなる人が多いはず。大崎町のビジョンマップは、とっかかりが描いてあって、ちょっと描き足したくなるような感覚があるんじゃないかなと思っています。
齊:そうですね。関わりしろができるから、そこに人が集まってくるんだよ、と去年はよく社内外で話してましたね。「関われそう」ってすごい楽しいことですよね。
高:本当にそう思います、楽しいです。
余白といえば、こゆ財団に携わる中でさまざまな方と出会い対話を重ねてきた中で、1番しっくりきたのが『計画的偶発性理論』なんです。
この理論は、1999年に心理学者のジョン・D・クランボルツが発表したキャリア形成理論で、予期せぬ出来事がキャリアを左右する、その予期せぬ出来事を活かすことで新しいキャリアが展開されるといった内容。この話を聞いたときに、キャリアだけではなく組織や地域に対してもまさにそうだなと思ったんです。
何が起こるのかはなかなか読めない未来に対して計画性を持ちすぎると、偶発的に現れたチャンスを見逃してしまう。一方でただ待っているだけではチャンスは来ない。意図的に偶発的なものが生まれやすい環境をつくっていく。ともさんが先ほどおっしゃっていた「関わりしろ」にも通じるのではないでしょうか。どうやったら意図して場をつくれるかを考えながら行動することで、偶発的なものを呼び込んでいると思います。
齊:まさに最近、その話を別の方としていたところです。
経営の心構えとしてその話になったのですが、偶発性や不可解なことが起こること(起こすこと)も含めて経営としてコントロール下に置いておくことが必要、といった話でした。それを想定して経営として図っていきましょうと話しています。
高:そうなんですね、同じようなことを考えていますね。
「余白」と「線引き」の話で今改めて自己認識したのですが、実線で綺麗に囲った中には偶然性が生まれにくいと思うんです。それに対して僕は実線を破線にしてみたり、線を引き直してみたり、囲み方を変えてみたり…意図的に変えた線に対して起こる偶発性があると実感しています。だからこそ、偶発性という余白をつくることで、組織や地域の中で多くの人がいろんな力を発揮できるような場をつくっていきたいと思っているんですよね。
齊:そうですね、そっちの方が楽しいなって思いますよね。
高:はい、自分は予期せぬ出来事を楽しみたい生き物なんだなって思いますね。
齊:僕もそう思います。計画的な偶発性を経営にも取り入れていく、舵を取っていけるといいですよね。偶発的だけだと経営にならないですし(笑)
高:それはただのカオスですからね(笑)
でも、イノベーションの理論でも言われている通り、カオス的な要素も呼び込んでいかないと新しいものは生まれなかったりもする。いかに意図してできるか、まずは自分自身が楽しめるかどうかですね。
ともさんがこのタイミングで「もっと、アートするよ」と話し始めたのも、なんとなくそこと通じるところがあるのかなと思っています。ともさんの「アート」がどういったものなのか、言葉だけではなく形をなしていくことに対してとても関心を寄せています。
齊:ありがとうございます。改めて早く形にしていきたいですね。
“合わせて作る”はマジックワード。
高:それでいうと、『合作』という言葉は僕にとってはマジックワードです。
それこそ計画的偶発性理論の話や、僕が編集者として感じてきたことを見事に漢字2文字であらわしている。「そうそう、こういうことなんだよ!」と思わせていただいたのは大きかったですね。
齊:計画的偶発性理論も、合作的なワードですね、計画的と偶発性という全く逆のことを合わせている、みたいな。
高:そうそう、合わせて作るって、余白がもなければ合わせることができないですし。何らかの意図がないと、合わせて作ろうともならない。絶妙なバランスで成立してる言葉なんだなと日々噛みしめてます。
人とお金をなんとかする
齊:是非もう少し経営の話もできればと思います。
最近、合作の成長モデルみたいなものを考えています。合作の価値を社会に広げていこうとすると、ある程度スケールメリットを作っていくことも必要だなと思っていて。
日本全国にあるいわゆる地域づくりの会社は、地域に特化して、その地域で5名~15名ぐらいで活動しているチームが多いじゃないですか。そこで一定の頭打ちになりやすく、乗り越えられない壁があるんじゃないかと見ています。小さい会社って 海に浮かぶ小舟のようで、荒波に翻弄されるじゃないですか。計画的に翻弄されながら波に乗ってるんだという言い方もありますけど…(苦笑)
高:これは波にのまれてるんじゃない、意図して波に乗ろうとしているんだ、みたいな(笑)
齊:はい(笑)
でもやはり大きい船の安心感と安定を持って大海を渡るという手段もあるわけで。小舟では超えられない荒波の中を渡ることができると思うと、スケールメリットをつくることも大切なのではと考えているんです。
高:なるほど、それもあってここ1年で合作の規模も倍になっているんですね。
齊:そうですね。今後もますます仲間を増やしていくことが必要だなと思っています。幸いにして、地域づくり界隈、ソーシャル界隈に興味を持ってくれている人が増えていると思うんですよ…ひょっとして、界隈に長く居るからこその錯覚ですかね?(笑)
高:いやいや、僕もそう思っていますよ。2014年の地方創生元年から、最初は国の政策としてスタートしましたが、自分たちがいる・関わりたいと思った地域に対しての自覚的な行動はかなり増えてきていると、肌感覚として持っています。規模の大小やうまくいっている・いっていないは様々ですが、無数の活動が出てきていますし、これまであったものに対してもスポットライトが当たりやすくなったのは事実だと思います。
齊:そんな中で、合作は集まってくれた人たちにとって、どんな道具を提供できる会社なんだろうと考えているんです。さまざまな経験とスキルを持った人たちが集まっていて、できることが確実に増えている。合作にジョインすると、こんなことを学べてできるようになる、こういうことを一緒に創れるといったことを表現していきたいなと思っているんです。
高:なるほど、いいですね。
事業共創チームだけ取り上げても、経験やコミュニティの多様性はものすごくあって、冒頭でも話したようにさまざまな可能性があると思っています。
その上で、これこそ肝だよなと思っていることがあります。
それは、僕が合作にジョインした頃に行った合宿で、もとみさんが話されていた「自分は、人とお金をなんとかしたいんだ」という話で、今でもずっと自分の中に残っています。
齊:はい、よく話している言葉ですね。
高:政策や制度も含めて世の中に今あるものを「再編集」する。活用方法やプランの作り方、使い方をアレンジできるのが僕らのチームなんじゃないかと思います。
今取り組んでいる分かりやすいところだと、人=地域おこし協力隊、お金=企業版ふるさと納税ですが、他にも知られていない制度、うまく活用されていない仕組みがおそらくあるし、出てくる。使えなくて困っていることに対して、僕たちは新しい活路を見いだせる、"人とお金”を集める、自ら編み出していけることが合作の強みではないでしょうか。
齊:そうですね。今のこのお話は表現していくべき大切なポイントだなと思いました。合作としては、「人とお金を"なんとかできる”」かな。そんな風に言えますよね。
高:そうですね、いろんな制度や仕組みを、実際に使える道具にできる。
齊:合作にも今年は新しいメンバーが入って来てくれました。その中で、「いつか自分の地域でも何かやりたい」という想いを持っている人が多いんです。そのメンバーに、ちゃんと合作として渡せるものがある会社でありたいなと思うんですよね。
僕の場合はよく、契約の手法や、企画、プロトタイピング、多くのステークホルダーとの関係性の中で仕事をするやり方をちゃんと学んでおくこと、チームを作れるようになることとか、色々ありますが、それが一通りできるようになると、一人で地域に入っていって新しいプロジェクトを起こせるようになるのではないか=キャリアプランを描けるようになるのではないかと考えています。
高:うん、いいですね。
齊:「人とお金をなんとかできる会社」として、そのあたりを丁寧に言葉にしておけるといいのかなと邦男さんと話していて見えてきました。
幸せになりたくない人はいない。地域ってなんだろう?
高:1番最初に質問していただいた地域の話に戻るのですが、“地域”や“町”という言葉は、解像度が低いなと思っています。
僕は最初に“まちづくり”と聞いた時、はてなマークが浮かびました。「いやいや、町は今目の前にあって、暮らしをしている。それをつくるってどういうこと?」と。
活動してきた中でその答えとして思うのは、<町は人の集合体である>です。その町でどういう人がどんな活動しているのかによって、町の印象は変わるんですよね。
齊:おっしゃる通りですね。
高:僕が長く活動してきた宮崎の新富町は、 町の施策としてこの5-6年の間に、全くそれまでは下地のなかったサッカーの町にガラッと変わったんですよ。
人口約1万6000人の町ですが、毎試合1,500人ぐらい町の人たちが試合会場に応援に来ています。すごくダイナミックな変化じゃないですか。普段一緒に近所で活動、生活している人がサッカーをやっていて、町のおじいちゃんおばあちゃんたちは孫を応援するかのように毎試合足を運んでいる。この5-6年の変化を間近で体感して見てきて、まちづくりとは、どういう人がそこでなにをしているのかの現れであり、町のブランドになっていくんだなと思っています。
人口減少の時代ではありますが、さまざまな制度や仕組みを使って新しい町のイメージをつくっていくことはできるんだろうなと考えています。それをするにはもう一つ、お金も必要になってくるので、どう作っていくのかの選択肢も、実はまだまだある。 「地域づくり」を分解していくと、人とお金という要素に辿り着きますね。
齊:そうですね、それってまさに経営ですね。
高:はい、まさしくそうだと思います。人とお金を主体的に動かしていくのが経営体であり、経営者であるということなので。 でも、人とお金って本当に変動要素が大きすぎて、経営の大変さたるやっていう話になっていくんですけどね…
齊:だからこそ、ある程度体系化していけるような、安定できるようなものを作りたいと思いますね。
高:そうですね。
ここ数年、ご縁あって慶應義塾大学大学院の前野隆司教授の「幸福学」を学んでいます。“ウェルビーイング”というと流行り言葉のように聞こえる面もありますが、僕はこれこそ本質的で原理原則だと思うんです。
幸せになりたくない人なんていないじゃないですか。
どうやったら幸せに暮らせるか、と考えた時に<人とお金>ってその条件だと思っていて。 まちづくりも、人が幸せに暮らす・生きていくための1つの手段だな、なんてことを考えています。
齊:なるほど、そうですね。
高:日本全国さまざまな地域で、近しい価値観や考え方で活動している仲間、ゆるく繋がっている仲間が結構増えてきていますよね。
齊:はい。
高:先ほどのスケールメリットや仲間を増やしていきたいという話で、船に例えていたと思うんですが、みんなで1つの大きな船に乗るというより、やっぱりそれぞれは小さな船で、なんかこうお互い応援しながら進んでいく、というイメージがありませんか?むしろ小さい船の方が多少のうねりも乗り越えやすい部分もあったり。
ウィークタイズ理論という、“弱い繋がり”を大事にする考え方もとても好きで、そういうことをそのまま船に例えた時に、1つの大きい船ではなくて、船団方式、いくつもの船が同じ方向を目指している、そんなイメージが浮かびます。それこそが合作している現れなのかなと思います。
齊:確かに、僕もそのイメージの方がしっくり来ますね。それぞれが、ネットされていて、その中でいろんな船を行き来できるみたいな。
高:そうですよね、うん、まさにネットされてる。
どういうプロセスでそうなっていくのかは、これからの話だと思いますが、僕自身は一編集者としてとてもとても興味があって、自分もその一員でありたいなと思います。
齊:合作の次の3年はそこに繋げていきたいと、個人的には思っております。
高:そのプロセス、とても楽しみです。
対談を終えて
今回は、地域組織の運営をしてきた邦男さんと、「地域」「経営」をテーマにお話をしてみました。
合作も7月で設立から丸4年が経過します。事業もある程度のパターンが見えてきて、次のフェーズを見据えるようになってきています。そこで必要なのは強みを更に強化して、弱みは克服していくことだと思っています。(当たり前ですが…)
合作の強みはメンバーの多様性・経験をベースに、企画から仕組み化・運営まで一気通貫に出来ることだと思います。計画だけ書いて実際にはやらないというのではなく、ちゃんと実現するところまでコミットしよう!!という想いが強みになっているのだと思います。
逆にこの4年での弱みは、仕組み化出来る・運営できるといいつつ、合作という会社組織としての脆弱性がまだまだあったなということです。
設立から4年目なのでそんなのは当然といえば当然なのですが、実は合作としての組織を強化していく、弱みを克服していくということ(本編にもあったスケールメリットを作っていくこと)が、ローカルをフィールドに事業をやっている他の事業者、プレイヤーの課題を解決していくことにつながっていくのではと仮説を持っています。
色んなメンバーが増えているからこそ、そこを更に機能させられる仕組みを作っていければと思います。