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君を見かける時はやはりプリンス絡み その3とその4

その3

 ドキュメンタリー映画『プリンス ビューティフル・ストレンジ』はネタバレなしで深堀りをした。

https://note.com/tomohasegawa/n/nb34048832ef6

 大変光栄なことに、映画のパンフレットに僕の拙文を寄稿させて頂いている。そして今でもこのことを書くだけでガタブルしてしまう程なのだが、ワーナー・ブラザーズでプリンスの制作宣伝担当をなさっていた佐藤淳さん、そしてCrossbeatの編集長であり、拙著を2冊も出してくださった荒野政寿さん、お二人のトークイベントに参加してお喋りさせてもらえるという私人生超絶頂の機会も得ることが出来た。

https://note.com/tomohasegawa/n/na43259b86417

 映画では、プリンスの少年期にあったミネアポリスの黒人コミュニティー・センター、ザ・ウェイの話がとても興味深かったので、プリンスの出生からデビューまでを、カンペ、というか話す言葉を全て原稿にして、それをそのまま読んだ。押し寄せる経年劣化、それに反比例するように増える酒量、面白トークはもちろん、固有名詞が相当出て来なくなっており、そのくせ子供の頃からの度胸なしと緊張しいは全く改善されてはいないので、絶対失敗の許されない場での、正に窮余の一策であった。

 原稿を完成させるため幾つか文献を読んだ。先のトーク番組『ザ・プロファイラー』が参考にしたであろうアレックス・ハーンが著した17年の『The Rise Of Prince 1958 - 1988』。この本はプリンスのルーツにやたら詳しくて、19世紀、プリンスの高祖父ジョン・ネルソンは奴隷所有者で、ルイジアナのラフォーシュ教区に大規模なプランテーションを持っていた、なんてことが書かれている。黒人が奴隷を持つ?全く腑に落ちない情報だし、聴いてくれる方もドン引きするだろうから触れなかったけど、バイブル『The Vault』以上に出生からデビューまでの流れが時系列で理解出来、原稿の軸となった。そしてアレックスが03年に書いた『Possessed』も比較参考した。
 『プリンス ビューティフル・ストレンジ』ブルーレイの特典映像DVDでの未公開インタビューのある、アンドレア・スウェンソンが21年に著した『Got To Be Something Here』もイベント一か月前ギリギリに入手、もし読んでいなかったらとんちんかんな原稿となっていたと冷や汗が出た。ミネアポリスの歴史、ザ・ウェイ、プリンスの師匠ソニー・トンプソンが在籍してたザ・ファミリー、プリンスとアンドレ・シモーンの出会いとグランド・セントラル等々。アンドレアがスパイク・モスに取材しているし、映画とパラレルに進行し互いに影響し合っていることがわかった。
 プリンスが著した回顧録『The Beautiful Ones』も3度目の読み直しをした。アレックスとアンドレア本の読後だと、わずかながらだが齟齬があることにどうしても気が付いてしまう。プリンスらしいデフォルメというか、この辺りは原稿に少なからず反映させた。
 僕のトーク、というかリードは3,40分位だったと思う。でも元原稿は一時間は少なくともかかる量だった。トークはプレッシャーで無理かもだが、この原稿は何らかの形でいつか発表したいと思っている。

その4

 佐藤さん、荒野さんとのトークイベント、僕は原稿を読むだけの朗読会にならないように、どこまで出来たかわからないけど、時折目線を上にあげ、来てくださったお客さんの一人一人を見るように心掛けた。そして映画『プリンス ビューティフル・ストレンジ』の意義、それだけは原稿を見ずに自分の口で素直に言えた。
 「僕はこのビューティフル・ストレンジを壮大なイントロダクションだと思っておりまして。つまり指針である映画を観て、ここよりプリンスの音楽の魅力を知る、僕には更なるプリンス研究を進める力を頂きました」原文ママ。

 『プリンス ビューティフル・ストレンジ』がブルーレイとなって帰ってきた。しかもプリンス関係者のみが鍵を持つ、彼らに権利のあるザ・ヴォルトからの蔵出し映像よろしく、未発表インタビューが2時間も収録されたDVDと共に(Unrevealed Box 初回限定生産のみ)。

 特典映像を観て思ったのが、内容の濃さ、情報量の豊富さ、そしてテンポの良さ、だ。
 
 まず映画の総括者であろう人、アンドレア・スゥエンソンのインタビュー。彼女が書いた『Got To Be Something Here』が10月に出る、と言っているから、恐らく校了して直ぐのものなのだろう、プリンスがインタビューで語っていたことも織り交ぜて、その本より反映した情報がノンストップで提示される。この映像での彼女の印象的な言葉を抽出して、ここに記すのは避けたい。その行為の結晶こそ、監督ダニエル・ドールの映画作りでの所作そのものだからだ。プリンスが編集した楽曲、そのオリジナルのロング・ヴァージョンを映像で観ている、そんな錯覚に陥った。ネタバレだがどうしても気になるので書いてしまおう、グランド・セントラルの音源がどうやら残っているらしい。
 
 一方スパイク・モス。同じことを何回か言及している部分があり、無骨なのだけど、それが寧ろ説得力となっててハートウォームさが漂う。しかし語られていることはどれも重要で、ザ・ウエイの音楽教師、ボビー・ライル、ソニー・トンプソンについては特に切々と説いている。ネタバレなしなので名を控えるが、ある重要人物とソニー・トンプソンは13歳の頃、モスの仲介で共演している。ソニーへのモスの敬愛はとにかく絶大で、プリンスの映画なので最小限の扱いにするしかなかったのだろうが、プリンスの師匠ソニーを知る大変重要な情報、それを特典として公開してくれたことには感謝でしかない。

 パブリック・エナミーのチャック・D。彼のプリンスとは、の答えが的確。「Undisputed」制作でのエピソードは面白かった。プリンスとメイビス・ステイプルスのコラボとは「God Is Alive」のことだろうか。
 
 ZZトップのビリー・ギボンズ。彼のギター話はテンポの良さというのとは異なり、独特のタイム感があってビリー節と称したい所。プリンスとは離れた内容を話しているんじゃと懐疑させつつも、その実プリンスのことなのだと収斂させる絶妙な言葉のハンドル捌きに、ぐわーんと引き寄せられてしまった。

 俳優デニス・クエイド。パレス・シアターでのプリンスのアフター・パーティで一番心に残っていること、それが奇を衒っているが、恐らく誰もがそう思っていることだと思うので笑えた。

 実は僕が何よりも先に観たのがミホ・タカヤマのインタビューだ。彼女のプロフィールはこの記事で紹介されているが、より詳細に、そして日本語の字幕で特典DVDで観ることが出来る。

https://www.billboard.com/music/pop/prince-minneapolis-public-funeral-finding-the-man-in-the-stories-7348296/?fbclid=PAZXh0bgNhZW0CMTEAAaZrSTpE6YLs5gWyZdlTO6yfTyI9HYdEpNZSeEC873TgnVtPw77LMj4TYBk_aem_kfsDDfSCFRDlR_opm6UJIw

 ミホはベーシストだ。Maydaメイダというマルチ・ミュージシャンのバンドに在籍している。

 彼女達の最新アルバム『Infected』(SpotifyやApple Musicでストリーミング可能)、そのタイトル曲のPVを貼っておく。メイダならではのポップ・センスのブレンド具合、是非震えて欲しい。

 メイダのプロフィールをアンドレア・スゥエンソンが紹介している。

 「彼女のR&Bを注ぎ入れたポップ性は斬新だ。削ぎ落したアコースティックでの堂々さ、フルバンドでのファンカデリックな爆発を行き来させ、電子ドラムのビート、シンセの華麗な演奏は、かのPurple Oneも誇りに思うことだろう。結果洗練された、広がりのある、進化するポップ・サウンドが生まれている。プロデューサー兼メンターのマイケル・ブランド (90年代初頭にプリンスとドラムを叩き、現在はニック・ジョナスとプレイ) の助けもあって実現した。彼のレーベルである Sonic Matrimony Collectiveから、昨年(09年)メイダの最初のフルアルバム『The Interrogation』がリリースされている。多作な若手ソウル・シンガーは、旅を始めたばかりだが、小柄ながらも存在感のあるこのポップ・シンガーから、大きな成果を期待せずにはいられない」。アンドレア スウェンソン、The Current

https://www.discogs.com/ja/artist/5150255-Mayda-3?srsltid=AfmBOopKNsq3_63Lp69AW8jazj7wHuk8Z1_0wD0cMrWGW1zl08bTykiw

 そしてマイケル・Bのメイダへの言及を抜粋。

 「あなたが選んだもう1曲は、メイダの「Stereotype」です(07年EPにてリリース)。これはあなたが参加した新しいレコードからですね。そして、あなたは演奏に加えてプロデュースもしましたよね?」

 「その通り。メイダと俺は出会ってすぐに音楽的な相性を感じた。彼女は俺が好きなものを好きで、俺も彼女が好きなものを好きなんだ。彼女はミネアポリスの音楽にかなり浸かっていて、もちろんプリンスの大ファンで、俺はそれに親しみを感じていたので、「ああ、そういうことをしたいの? ええ、できるよ。一日中できるよ」と思ったんだ。実際、最初の出会いは面白かった。彼女はギターで4曲か5曲弾いて歌ったんだけど、俺には「うーん、わからない」という感じだった。気に入らなかった。俺たちはまだ同じ境遇にいなかったから。彼女は「この曲に取り掛かったばかりだけど、まだ全部がまとまってない」と言って、ベースラインを弾きながら「Stereotype」を歌い始めた。その時わかったんだ。彼女が何を考えているのかがね」。
 「彼女は、8フィートくらいの背丈の小柄な人だ。彼女をチワワと呼ぶつもりはないけど、小​​さいけどアグレッシブで、どんな状況でも必要なものを手に入れようとするような人だ。だから、彼女の頑張りが本当に好きだった。今でも彼女はギターを背負ってアジアやカンボジアなどを一人でツアーしている。彼女は自分のやりたいことをやる。それを尊重しなければならない。なぜなら、彼女には何の優遇も与えられていないからだ。彼女はただ自分が望んだことを、俺たちは一緒にそれを実現させた。だからそのことを誇りに思う」。

https://www.thecurrent.org/feature/2017/06/07/michael-bland-shares-his-incredible-stories-of-working-with-prince-soul-asylum-westerberg-and

 ミホもメイダのアルバムでベースを弾く際にマイケル・Bと共演している。18年のアルバム『Mrdr Pxp』で彼のクレジットがある。メイダは実は18年に来日を果たしている。

その1はこちら

その2はこちら


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