1「チャックまに出会った日」 (10)
■出会い その1「挨拶」
そのお腹にチャックが付いたくまは、どうやらまだウトウトしていてコグマが起きたことにも気づいていないようです。
「これは…まちがいなくクマみたいだけど…こんなお腹、初めて見たぞ!」
コグマは近づいてその大きなチャックをマジマジと見ていて、そのくまが目覚めたのに気づきませんでした。
「おはよー」
頭の上から急に挨拶をされて、コグマはビックリしました。
チャックを上の方にたどっていったその先に、まだ少し眠そうな、でも優しそうな顔がにっこり笑っていました。どうやらこの顔から挨拶をされたようです。
「お、おはよごz○△✕…」
突然の挨拶に戸惑ったコグマは、いつもなら元気に言える挨拶すら口の中でモグモグとしか言えません。
「ボクね、チャックま って言うんだよ。君は?」
「こ、コグマ」
ここでコグマは気を取り直しました。そうだ、これから一人で生きていかなきゃいけないのに、挨拶もまともにできないようじゃ、お母さんもお父さんも悲しむぞ。
「ボクはコグマって言うの。はじめまして!」
今度は大きな声で言えました。大きな声で挨拶が出来たら、自然と背筋が伸びて、コグマの気持ちもお空と同じように気持よく晴れました。
「そうか、はじめまして!」チャックま も応えました。
よっこいしょっとチャックま は立ち上がりました。
「わぁ、チャックま さんは大きいねぇ」
コグマは感心したように言いました。お父さんも相当に大きいくまでしたが、立ち上がったチャックま はそれ以上に大きく見えました。
「そうかなぁ…朝ごはん、食べようか」
チャックま はそう言うと、チャックの取っ手に手をかけて少しの間目をつぶりました。そしてチャックを開くと中から鮎を2尾と、立派な鮭を1尾取り出しました。それを見ていたコグマはまたビックリです。
「なんでお腹からご飯が出てくるの?」
そう訊かれると、チャックま も困ったみたいでした。
「さぁ、実はボクもあんまり良くわかってないんだけどね…一所懸命に念じると出る時もあるの。でも出てこない時も結構あるんだけど…」
本人すらよくわかっていないような説明で、コグマにはもうちんぷんかんぷんです。でも出てきた食べ物はもちろんありがたく食べることにしました。二人は座り心地のいい斜面を選んで仲良く並んで座ると、朝ごはんを食べました。
そこでチャックま はこの世界のことをコグマにいろいろと聞きました。
「ここには山があって川があって森があって…くまが何頭かとたくさんのウサギさんやシカさんやイノシシさん、リスさんやネズミさん、それに鳥や魚が住んでいるんだよ」
コグマはお母さんに教わった知識と自分の体験を一生懸命に伝えます。
チャックま さんは大人なのに何も知らないんだねぇ」
そこでチャックま は、そのうち戻ってくる仲間たちのことやチャック族のこと、住んでいるチャック界の説明をしました。とは言え、見たこともない世界のことです。話を聞いてもコグマには何のことだか全然理解できませんでした。でもそうやって一生懸命説明してくれるチャックま の様子を見ていたら、コグマはチャックま のことを知らず知らずのうちに好きになっていました。もしかしたらいろいろ教えてくれたお母さんに似ている気がしたのかもしれませんね。
二人がそうやってお話をしながら朝ごはんを楽しく食べ終わった頃、何にもない空間にフワッと巨大なチャックが現れたかと思ったら、そこからジッパンダとファスニャンが現れました。
「おはよう」
ジッパンダがチャックま とコグマに声を掛けました。
(11につづく)
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