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娘への「信じてる」を示した10分

「お祭り行かない!」
16時45分。お昼寝したての所を起こされた3歳の娘は、怒りとイライラと眠たさと、あらゆる絶望の感情を爆発させて泣きじゃくっていた。

今日は幼稚園で開催される森の夏祭り。
みんなで手作りの灯籠を持ち寄って灯したり、夜店でゲームができたり、夏休み前に一生懸命練習していた盆踊りを踊れたりと、前から楽しみにしていた一大イベントだ。

それなのに、寝起きの機嫌がすこぶる悪かった娘は床に突っ伏したまま泣いたり、布団を叩いたりしている。

「17時30分には行かないといけないのに、まいったなぁ」
娘がこの不機嫌ループに入るとそこから脱するまではかなり長い。30分しても機嫌が治らないなんてことだってざらにある。

浴衣にも着替えさせたいし、準備し忘れていたロウソクも買いに寄らなくちゃいけないし。
とにかく1分でも早く機嫌を直してもらおうと、優しく声をかけてみる。

「いや! パパあっちいって!」

ま、そうだよな。機嫌超絶悪いもんな。
早く何とかしたいと言う思いもあり、次第に僕もイライラしてくる。
でも、泣いている娘を見ながらふと思った。

「この状況でいちばん大切なことってなんなんだろう?」

”お祭りに行く”が本当に大切なことなのだろうか?
”行く”と決めたことを守らせることが大切なのか?
”面倒くさくても守らなくちゃいけないことがある”って社会の規律を教えることなのか?
”本人の自由意志”を学ばせる機会なのか?

親としての僕の感情は決まっている。
せっかく準備したし、楽しみにしていたんだから、行かないと後で娘が後悔するだろうし、幼稚園の行事なんだから行かないとダメだしと。
そのうえ、行かないといけないのにいつまでも泣きじゃくっていることに腹も立ち始めてる。「めんどうくせーな」と。

僕としては行かせたいが、お祭りに行かない、って選択肢だって当然あるわけだ。後で後悔しても、それが娘の学びになればいい。
でも、僕は娘と一緒に夏祭りを楽しみたかった。一年に一度の夏の思い出を最高に素敵な思い出にしたかったのだ。

ゴールは決まった。
娘を最速で泣き止ませて、浴衣を着せて夏祭りに行く理由は「娘と一緒に最高に楽しい夏祭りの思い出をつくりたいから」だ。

と、なれば「時間になったら力尽くで連れ出す」は選択肢から外れる。だって、最高の思い出にパワープレーは不必要だから。

「夏祭り、楽しみにしてたじゃん。灯籠もかわいいの作ったんだからみんなに見せにいこうよ」と優しく提案。しかし「いや!!!」と一蹴…。
以降、いかに夏祭りが楽しいか、いかに楽しみにしていたか、など娘にとってメリットとなりそうなことを散々あげつらうが、全て撃沈。

娘がどうしても行きたいくないのなら、行きたくない理由を聞こうと理由を問いただすも撃沈。「いや! パパきらい!」程度しか返ってこない。

ちょっと強めに言ってみたり、「パパ先にいっちゃうよー」的にソフトに脅してみてもダメ。

仕方がない、と少し落ち着くまで様子を見て、最適なタイミングを見計らおうと徹底的に娘の行動を観察することにした。

すると、泣いたり「いや!」と言ってはいるが膝にすり寄って来たり、背中を擦られるのを嫌がったりはしていない。
僕が声をかけずに背中を擦っていると、泣き止んでジッと突っ伏している。

「あ、この子はいま必死に考えてるんだ」

多分、自分の感情と向き合いながらどうするべきかを必死に考えている。そんな時に「お祭り行く?」「お祭り楽しいよ?」「何が嫌なの?」と声をかけられるから混乱してしまうのだ。
彼女は「行く」にしても「行かない」にしてもちゃんと自分で答えを出すはず。いま、泣きながら「行かない」と言っているのはただ感情に流されているだけなのだ。

僕は彼女を観察することでゴールを少し変えることにした。
「一緒に最高の夏祭りを楽しみたい」は多分に僕の感情も入っている。それでもいいけど、いま、この場はもっと深い学びのチャンスかもしれない。

僕は「娘が自分でちゃんとした答えを出すこと」をゴールに据えた。
それは、夏祭りに行かない、と言う選択肢も含んでいる。

10分。
何も言わずに、ただ背中を擦り続けた。それは、僕なりに彼女のことを「信じているよ」と言うアピールだった。
彼女は無言で起き上がると、泣きはらした顔でこっちをジッと見た。
思わず「お祭り行く?」と声をかけそうになるがグッと堪える。まだだ。
行きたければ彼女は自分の言葉で「お祭りに行く」と言うはず。まだ言わないのは、まだ言葉にできないからだ。
でも、彼女は何かを言って欲しそうだった。なんだろう。こんな時、何を言ったらいいんだろう。

「がんばってるね」

素直に思ったことを伝えてみた。彼女はいま、必死にがんばっている。
自分の感情を言葉にするのは大人だって難しい。行きたくない理由も行きたい理由も自分の言葉に変換するのは大変なのだ。彼女はいま、必死にそれをやろうとしている。
がんばってるじゃないか。

「がんばってる?」と聞いてきた。寝起きからはじめてのコミュニケーション。

「がんばってるよ。一生懸命考えてるんでしょ」

彼女はうなずくと、突然ニヤニヤ笑いだした。

「お祭りいく!!!」


満を持して出かけたお祭りは最高だった。
おかげで最初のゴール「最高の思い出」も達成された。
でも、彼女が自分で、自分の感情を整理して決断を下したことは何よりも貴重な経験だった。

そして、僕は「『信じてる』は言葉だけじゃなく『態度』に変換できないと伝わらない」と知った。
彼女を信じて待ち続けた10分。
これが、僕が彼女を「信じている」ことを「態度」に変換した瞬間だった。


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三木智有|家事シェア研究家
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