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【インタビュー】 遊びを通して ”自信” を育む ーー地域共生のまちを目指すさくらんぼ管理者・羽田和剛の挑戦

広島県・鞆の浦に、20年以上前から『ノーマライゼーション=地域共生のまちづくり』に挑戦する介護施設があります。その介護施設が運営する放課後等デイサービス・さくらんぼに、子ども達に対して一際熱い想いで向き合う一人の男性がいました。

真っ黒に焼けた肌が印象的なその方は、管理者である羽田和剛(はだ・かずよし)さん。”多種多様な人たちが町で普通に過ごせる環境、そんな当たり前の社会を自分たちが主体となり作っていく” という強い信念を持っています。目の前の子ども達に正面から向き合い続ける羽田さんの、強い眼差しの奥に秘められた想いに迫ります。

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まずは、管理者・羽田さんが介護の道へ進まれたきっかけや、さくらんぼ開所当時のお話を伺います。

■ 介護そして福祉の道へ

ーー羽田さんが介護の道へ進まれたきっかけを教えてください。

介護の領域で楽しそうに仕事をする母の影響が大きいかと思います。母が代表を務める鞆の浦・さくらホームは、私が学生の時に開所しました。さくらホームとは、放課後等デイサービスさくらんぼの経営母体となっている介護施設です。

18歳で一度関西へ出ましたが、いずれは実家である鞆の浦に帰ることは決めていました。しかし、母の病気がきっかけで予定よりも早く鞆の浦に戻ることになります。最初は近くの介護施設で2年間勤務し、その後、実家が経営するさくらホームに入りました。

さくらホームでは、地域密着型デイサービスや介護事業所の立ち上げなど、高齢者の介護事業を中心に関わってきました。

ーー これまで ”高齢者の介護” に関われてきた羽田さんが、子どもを相手とした福祉分野で働くこととなったきっかけは何だったのでしょうか?

放課後等デイサービス・さくらんぼの立ち上げの話が出た時に、代表である母から声をかけられたことがきっかけです。母は、さくらホームの立ち上げ時からずっと、”どんな人にも居場所のあるまち(地域共生のまち)にするためには、当然、支援が必要なお年寄りだけではなく子ども達へのアプローチも必要” と考えていました。

私もその思いには共感していたため、立ち上げの協力要請があった時は非常に嬉しく思いました。一方で、これまで障がい者福祉や子どもを相手にした経験がなかったため強い不安を感じます。

福山市で障がい者福祉を専門に活動していた方が立ち上げから協力してくれることになり、その方を管理者とし、一緒に準備を進めていくことになりました。

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ーー 実際にさくらんぼ開所に向け準備をすすめる中で、何か印象に残っていることはありますか。

さくらんぼの立ち上げの話をもらい実際に開所するまでは、約2〜3ヶ月と非常にスピーディなスケジュールで進んでいきました。準備を進める中で、当時の管理者がかけてくれた言葉で忘れられないものがあります。

僕たちの仕事は、お母さんやお父さんが我が子のことを認めるようになることだよ

新たなの分野でうまくやっていけるか悩んでいた私は、この言葉にとても支えられました。この言葉を信じて進んでいけば必ずうまくいく、と勇気をもらうことができたのです。

小児・障がい者福祉に関わる上で、当事者や周囲の方に ”自信” を持ってもらうことが一つポイントのになるのだと感じた瞬間でした。

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■ 管理者としての新たなスタート

ーー 実際にさくらんぼが開所してからの歩みを教えてください。

さくらんぼの営業が始まり3ヶ月ほどたったある日、管理者が病気のため急に現場を離れることが決まりました。そして、私が管理者に就任することになったのです。

正直かなり驚きましたが、その時はもうやるしかない!といった心境でした。ちょうど夏休みということもありかなり忙しい状況だったので、今後、さくらんぼをどうやって引っ張っていけば良いのか懸命に考えました。

そして、ある答えに行き着いたのです。それは、さくらんぼに関わる全ての人が、みんな一緒になって楽しむ ということです。私自身、子どもの頃からわんぱくで、放課後や夏休みというと遊んでばかりいました。しかし、当時全力で遊んだ経験は大人になった今にとても活きています。

一緒になって全力で楽しみ、遊びを大切にすることに舵を切りました。そこから、さくらんぼの活動も多岐に渡り展開していくこととなります。

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ーー 当時、大変な状況下で羽田さんの出した答えが、現在のさくらんぼの文化を作っているのですね。さくらんぼでは障がいの程度や有無、年齢に関係なく一緒になって遊んでいるそうですが、どんな遊びをされているのですか?

さくらんぼでは、園内はもちろん鞆の海、山、まち全体を使って遊んでいます。

園内ではトランポリンや鬼ごっこ、チャンバラ、かくれんぼ、工作やプールなど、思いつく遊びはなんでもします。また、夏は近所の海に出かけて泳いだり、モーターボートから飛び込みの練習をしたりします。山では秘密基地を作ったりトロッコに乗って遊んだり、山を開拓したりして遊んでいます。

ハロウィンには子ども達が仮装をして鞆のまちに繰り出します。お店には前もってお菓子を置かせてもらい、子どもたちが来たらスタンプと共にお菓子を渡してもらうんです。また、町を使った鬼ごっこ(逃走中)を企画したこともあります。近くの古民家を子ども達と一緒に改修し、子ども達がくつろげる場所も一緒になって作り上げました。

このように、さくらんぼでは障がいの程度や年齢に関係なく、園内、鞆のまち・人・自然など、ありとあらゆる資源を使い遊びに変えています。これが、さくらんぼのコンセプトです。

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ここからは、羽田さんが働く中で感じるやりがいや今後挑戦したいことについて伺います。

■ 子どもが自信を持てる世界

ーー 羽田さんが、子どもたちと関わる中で大切にしていること(モットー)があれば教えてください。

子ども達に ”感謝すること” を常に意識しています。子ども達って、褒められたこととか人が喜んでくれたこと、嬉しかったことは本当によく覚えているんです。なので、そのような想いは意識的に伝えるようにしています。

また、さくらんぼでは子どもも大人もフラットな関係というのを目指しています。もちろん子どもたちに危険が及ぶ状況はきちんと判断し指揮をとりますが、普段は対等な人と人として関わることを大切にしています。当然、こちらが悪い時にはごめん!と全力で謝ります。


ーー ”みんなが一緒になって楽しむ” ことの、本当の意味や狙いといったものは何なのでしょうか。

さくらんぼの子どもたちの中には、心の奥底で生きづらさというのを抱えている子が多くいます。子どもも大人も、障がいの有無や程度に関係なく、みんなが一緒になって全力で遊び、楽しさや嬉しさを共感・共有することが大事です。楽しい遊びは、人間にとって最も大切な「感性」や「感情」を育むし、子どもの頃にたくさん楽しさ嬉しさを経験した子は、成長しても物事をポジティブに考えられる力がつきます。それは、自分を好きになることにも繋がるので自然と自信がついていきます。

なおかつ、僕・私はここにいていいんだ、という安心感のもと、こんなことが出来るんだ!と、遊びを通して出来ることが増えていくと、子どもの成長は加速します。さくらんぼでは、そうやっていつの間にか自分に自信が持てるような関わりをしています。

私自身は、さくらんぼの子どもたちに「さくらんぼ、めっちゃ楽しい!!」「さくらんぼ、やばっ!!」って言ってもらった瞬間がとても嬉しいです。子どもってすごく素直ですから、目をキラキラさせながら全身で表現してくれるんです。そんな時は、たまらなくやりがいを感じます。

子ども達が笑顔になるため、さくらんぼでは子ども達が楽しめそうなことを、子ども達がやりたいと言ったことを何でもトライします。一見難しそうなことも、どうやったら出来るか一緒に考えることから始めています。

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■ 子どもたちに未来を託して

ーー 最後に、今後のさくらんぼの展望についてお聞かせください。

今よりもっと地域の子ども達が遊びに来てくれる、地域の開けた場所にしていきたいと考えています。さくらんぼと地域の子をもっと繋げたいです。地域共生のまちにするためには、住民の意識を変えることが必要です。その意識を、子どもの頃から作ることがポイントになると私は考えます。

障がいを持っている子どもたちは、やはりどこか自信がなかったり、周囲との壁やズレを感じています。個性を隠すために暴力を振るったり、うまく表現出来ずもがいていたりします。地域の子ども達ともっと関わりをもち、様々な遊びを通して自信をつけていくことで、より良い未来にできると思うのです。

以前、さくらんぼの子と地域の子が楽しそうに遊んでいた時に「君にはどんな障がいがあるの?」と当たり前のように、明るく会話する場面がありました。地域の子どもが障がいを個性として捉え、フラットに接していたことがともて嬉しかったです。

子どもたちは、大人が思うよりも障がいに対する境界線は低く、一度遊ぶと馴染むのも早い印象です。今後の地域共生のまちを作っていくのは、次世代を担う子どもたちです。

その子どもたちの心を、私はさくらんぼを通して育んでいきたいと考えています。

さくらんぼから町を変える』、それが私のミッションです。

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残念ながら、障がいに対する偏見は0ではありません。しかし、誰かが変えていかないと変わることはありません。地域とさくらんぼがとともに歩んでいく未来を目指し、私は挑戦し続けます。

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■  羽田和剛(はだ・かずよし) / 放課後等デイサービス・さくらんぼ管理者
広島県・鞆の浦出身。関西の介護福祉士養成校を卒業後、福山市の特別養護老人ホームで勤務。その後、さくらホームに転職し、地域密着型デーサービスや兵庫県相生にある介護事業所の立ち上げに従事。2014年さくらんぼ開所の立ち上げスタッフとして従事した後、管理者に就任。


【取材・文・撮影=河村由実子、撮影=佐々木慎】


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