【インタビュー】 こんな楽しい施設は他にない ーー放課後等デイサービスさくらんぼで働く保育士・柏原展江さんと長女・優ちゃんの想い
「働く職員やその家族からここまで愛される施設って、そうそうないと思うんですよね」と明るく話すのは、広島県鞆の浦にある放課後等デイサービスさくらんぼの保育士・柏原展江さん。柏原さんは、さくらんぼの開所当時から立ち上げメンバーとして従事されています。今回は、10歳になる娘・優ちゃんとともにインタビューに応じてくれました。
鞆の浦で暮らす一住民として、また、さくらんぼの子ども達と我が子が一緒に成長する姿を見てきた母として、さらには、さくらんぼ職員としてノーマライゼーションに取り組んできたこれまでから歩みから『地域共生のまちづくり』のヒントを探ります。
さくらんぼ保育士・柏原展江さん
幼い頃からさくらんぼの子ども達とともに成長してきた娘・優ちゃん
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まずは、柏原さんが一住民として感じる鞆の浦の魅力や特徴、また、さくらんぼで働くこととなったきっかけについて伺います。
■ 鞆の魅力と子育て
ーー 柏原さんが鞆の浦へ移住して来られたきっかけや、鞆の浦のまちの魅力について教えてください。
柏原さん
私は2006年、結婚を機に夫の地元である鞆の浦に移住してきました。鞆の浦のことを地元では「鞆(とも)」と呼びます。特徴としては、隣近所との距離が非常に近く町ごとの繋がりが強いことが挙げられます。また、年間を通してとにかく祭りがたくさんあります。町ごとに神輿を持っているほど祭りに対して熱心です。
鞆は、陸の孤島のような町ですが、なぜか「帰りたくなる町」だと感じます。穏やかな漁港に古い町並み、祭り、温かい人たち。この雰囲気が私にはあっているので、鞆は町としてとても気に入っています。鞆出身の若者も「鞆に帰りたい!」っていう人が多い印象を受けます。女性でも旦那さんを連れて帰ってきたりもしていますね。
ーー 実際に13歳の息子さんと10歳の娘さん(優ちゃん)を育てる柏原さんですが、子育てや教育といった視点で、鞆はいかがですか?
柏原さん
子育てはとってもしやすいですね。昔ながらの、地域全体で育てるといった文化が残っているので、安心して子育てすることが出来ています。子どもたちが海や山、歴史ある町並みの中で伸び伸びと育つのがいいですね。息子や娘は、いつも海や山で遊んでいます。
鞆には通称『鞆学(ともがく)』と呼ばれる、福山市立鞆の浦学園(小中一貫校)という学校があります。この学校がまた素敵で、福山ブランド(福山市都市ブランド戦略)にも認定されています。鞆学という教科があり、地域の人、もの、ことを教科書として、課題発見や解決能力、情報活用能力、コミュニケーション能力、郷土愛などの、社会で必要な力を実践的に学んでいます。
ちなみに、息子はイカ釣りのエギ(擬似餌)について、娘は鞆と福山のいいところを描いた本を作って、オンラインでプレゼンしてました。子ども達が自分でやりたいことを後押しするという教育方針なので、最初は不思議な感じもしていましたが、子ども達がのびのび育つ姿を見ていると、良い取り組みをしている学校だなあと改めて感じます。
■ さくらんぼ(さくらホーム)との出会い
ーー 柏原さんが、さくらんぼで働くこととなったきっかけは何だったのでしょうか。
柏原さん
今から8年前、さくらホーム(さくらんぼの運営母体である介護施設)の代表・羽田冨美江さんから声をかけてもらったことがきっかけです。当時、長男が幼稚園、娘が3歳の頃でした。
ある日、2人を連れて鞆のまちを散歩しながら駄菓子屋に向かっている途中で、冨美江さんに出会いました。さくらんぼが開所する約半年くらい前だったと思います。私が仕事を探し始めていることや保育士免許を持っていることをお話しすると、「さくらホームで働いてくれたらいいのに〜」と声をかけてくださいました。
さくらホームの取り組みや想いに惹かれる一方で、私自身は保育士ということもあり、介護施設で高齢者と関わる仕事には向いてないだろうと感じました。しかし、後日、正式にお話を聞きにいった際に、放課後等デイサービスを立ち上げるということを聞きます。冨美江さんは、私の子ども達も一緒に、みんなでさくらんぼを通して成長したらいいと言ってくれました。私の子育てにも非常にご配慮いただき、働きやすい環境を整えてくださったんです。
私たち親子が架け橋となり、さくらんぼから地域共生のまちを目指すことができるかもしれないと感じ、さくらんぼで働くことを決心しました。
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ここからは、さくらんぼを通して考える『地域共生』について伺っていきたいと思います。
■ 地域共生のまちづくりと子ども達
ーー 実際にさくらんぼが開所し、大変だったことや嬉しかったことを教えてください。
柏原さん
さくらんぼが開所し、我が子2人は学校や幼稚園が終わるとさくらんぼに帰ってきて、さくらんぼの子ども達と過ごすようになりました。最初、さくらんぼの子どもと娘とで私の取り合いになった時は、職員と母という二つの顔を持つことの難しさを感じました。しかし、すぐに馴染んで一緒に遊んでくれるようになってからはその心配も無くなります。
さくらんぼの子どもたちは、地域の子と関われたらとても喜びます。一方で、我が子もさくらんぼの子どもたちと一緒に過ごすことでとても素直に成長してくれました。そんな姿を間近で見られて、職員としても母としてもとても嬉しかったです。
ーー 幼い頃からさくらんぼの子ども達と関わることで感じた、我が子の変化というのはどういったところでしょうか?
柏原さん
最初、我が子にはさくらんぼにどんな子ども達がいるかは説明しませんでした。子ども達は自然と友達になっていくので、そのうちに気づくことがあれば話をする時間を作ろうという考えだったのです。
そんな中、子どもの成長を感じる嬉しい話を耳にしました。長男が学校で、健常者のお友達にさくらんぼの子どもがいじめられている所を発見した時に「〇〇さんは、自分の意見言えるし僕らと同じ人間なのに、なんでそんなこと言われにゃいけんのんか!」と、怒り返していたそうなのです。この話を聞いた時は、ものすごく嬉しかったです。長男にとっては、友達が悪く言われて怒っただけだと思うのですが、そんな当たり前の姿が非常に頼もしく感じました。
多種多様、地域共生のまちを実現すべく歩んできたさくらんぼで、長男は確かに、その魂を引き継いでいたのです。
■ さくらんぼ・さくらホームへの想い
ーーお二人が、さくらんぼもしくはさくらホームに抱いている想いについて教えてください。
優ちゃん
さくらんぼは、すっごく楽しいです!何でもさせてもらえるし、先生も先生なんだけど、、どちらかというと大人の友達って感じです。優の将来の夢は、さくらんぼで働くことです!
さくらんぼの子どもの食事介助をする優ちゃん
柏原さん
私は、将来さくらホームに入りたいなと思っています。さくらんぼの若手介護職員に、見てもらいたいな〜(笑)親子共々、これからも関わり続けたいって思える施設は、なかなかないと思います。
さくらホームやさくらんぼは、代表の冨美江さんをはじめ、強い想いをもった職員みんなによって地域につながっていると思います。羽田さん一家が職員みんなに「いつもありがとう」と言ってくれることはとても嬉しいですし、愛されてるなって思います。
私自身も変化しました。さくらんぼには、夕方になると若年性認知症の方が仕事(掃除)に来られるのですが、最初は高齢者や認知症の方への関わり方が分からず、さくらホームの介護職員に関わり方を聞いていました。しかし今では、そんなことを気にしていたのも違ったかといった感覚で、当たり前のように自然と関われています。私自身が多種多様、地域共生の心をしっかりと実践できるようになったのだと感じました。私自身を変えてくれたさくらんぼ・さくらホームには、本当に感謝しています。
ここには、同じような思い持った人達が働いているので、働きづらいと感じたことはありません。お世辞抜きで、毎日がとても楽しく、良い環境で働けているなと感じます。
当たり前のように ”ある” 居場所
■ 子ども達の成長と未来
ーー 最後に、柏原さんが子ども達と関わる際に大切にしていることや、今後の未来に描くことがあれば教えてください。
柏原さん
私たち大人が楽しいと思えないと、子ども達も楽しいと思えません。だから、子どもも大人も一緒になって楽しいと思えることをするのを大切にしています。大人が一緒になって楽しめて初めて、子ども達も充実した1日で終わると思うんです。
さくらんぼ開所当初から8年間関わってきていますが、さくらんぼの子ども達の成長がすごく分かるようになりました。発語が難しかった子が伝えられるようになったり、山で上の方まで歩けるようになったり。それぞれ自分のペースではあるんだけれど、それぞれの大きな成長・変化を感じられるのが、さくらんぼで働く魅力の一つだと感じています。
鞆の海、山、まち、自然をいっぱい使って遊んでいる今のこのいい状態を、これからも大切にしていきたい。そして、もっともっと地域と繋がって地域全体で見守っていけるような形にしていきたいと思っています。
いろんな人が関わり、遊び、笑い、多くの一喜一憂をともに感じ、過ごすことで、さくらんぼから地域共生のまちを作っていきたいです。大好きな鞆の浦で、大好きな人達や笑顔に囲まれ、これからも目の前の子ども達に向き合い続けます。
■ 柏原展江 / 放課後等デイサービス・さくらんぼ保育士
広島県福山市出身。2児の母。保育士免許取得後、福山市で保育士として勤務。結婚を機に夫の故郷である鞆の浦へ移住。2014年、さくらんぼ立ち上げ時より保育士として従事。娘・優ちゃんはさくらんぼの子どもたちとともに成長している。
【取材・文・撮影=河村由実子】