ゆっくり沈んでいく
「黒ずむ」という言葉が頭の中から離れない。白いものが黒ずんでいく。バナナが黒ずんでいく。そんな感覚にも満ちた、僕は、この暗闇に沈んでいく。吉本ばななの「キッチン」を読みながら、たばこをふかしながら、この文章を誰にも宛てずに書いている。
僕の心が真っ白だとは思っていない。でも、白い雪に黒い足跡がつくのが耐えられないような。冷たい真水に黒いインクをぽたりと落として、広がっていくような。
ただ、僕は、この苦しみに耐えて、今、遡るような時の流れに身を委ねている。
文章は無限だ。でも、ありあまる語彙の中で、僕の指はパソコンのキーを叩く。雑文。黒ずんでいくという強迫観念に満ちた言葉で僕は文章を書いている。僕の心の闇のすこしでも、自己治癒に向かうために。
自己治癒という言葉は、僕の中でずれているのかもしれない。文章は、自分を傷つける行為なのだ。心の中から、魂を取り出すように。フロイトのように一つ一つの心を心理学で捉えたくなくて。
部屋は雑然としていて、なんの気配もなく、音もない。煩わしく、動きたくもない無力な僕は、キーを叩く音だけを感じ、宛てもない文章を書いている。
繋がっているようで、繋がっていない文章は、白紙の原稿用紙に、黒い万年筆のインクで落書きを書いているようで。コロナが流行っているんだってさ。って、言ったら怒られるようで。それほど、僕は暗闇に同化している。カメレオンが背景に擬態していくような。
それほど、僕は病んでいるのかもしれない。自己治癒。リストカットのような赤い血が流れる。切ったら、赤い血は流れる。僕は生きている。その証だ。
遠くで、遥か遠くで、貨物船の汽笛が聞こえる。僕は、昔みた、水平線の彼方に行きたいという願望を今でも覚えている。コロンブスは中世に信じられていた、真っ平な世界ではなく、インドに向かって大西洋に向かったのさ。
暗い闇の向こうに球体の世界が広がっててさ。コペルニクス的思考転換。闇の向こう側の白い世界。
黒ずんでいた心は、それ程、深くはないみたいだ。僕は、夢を見る。君も少しは出てくる。無意識と現実の背反性。
雑文はいつの間にか終わっていた。僕は、ゆっくり寝よう。寝ている間に死んだらどうしようかななんて、少しは心配していたりして。
また会う日まで。