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展示用のウインドウにおでこをぶつけるほど、夢中で見てしまう

あべのハルカス美術館の「広重 摺の極」展に行きました。
後期展示が始まって、少ししたくらいのタイミング。

鑑賞時間、3.5時間!!ひゃ~!!充実~!!!

なぜかというと……

☆前後期あわせて300点以上
☆ハルカス美術館の、開館10周年展示
☆広重単独の展覧会は(北斎なんかと比べると)レア

ちなみに、充実とはつまり、人 が 多 い。繁華街を歩くより、少しまし、くらいのレベル。人混みが苦手な方や、ゆっくり鑑賞したい方は、公式のアナウンスを守ったほうが快適かと思います。


とはいえ、館内には混雑緩和のための工夫もあって、ありがたかった^^

※以下、感想ですが、1点だけご案内を。
ところどころ、「173『~~~』」のような表現が出てきます。
こちらは、出品リストの番号+作品名です。




まさかの、「順路を無視して!」


フロアが、第1章~8章までのテーマ別で区切られていました。

1章は、絵師デビューした1818年~1830年の作品が展示されていました。
そして2章は、東海道五十三次や近江八景といった、広重の代名詞でもある「風景画」がメイン。そのため、なっっっっっっっかなか前に進まない!笑 テーマパークの、ちょっと並ぶアトラクションくらいは待ちましたね。

有名な作品であることはもちろん、色遣いや、人の表情のこまやかさ、ありふれた日常を切り取った小さなドラマの数々。魅了する要素が多すぎるんですよね。1枚の絵に5分くらいクギヅケ!な人もいた。

例えば、この絵を

拡大しますと……

なんとまあ細やか。
それが数百枚ですからね。そりゃあみんなじーっと見るよね。


あまりの盛況ぶりに、スタッフさん一人ひとりが「順路に関わらず、お好きな順番でご覧いただけます」というようなプラカードを頭上に掲げる事態。最初はガマンして並んでいましたが、意を決してプラカードに従ったあとは、ずいぶん快適に過ごせました。ありがたい。


広重のホスピタリティ


お好きな順路を選んだ結果、わたしは「第3章  名所絵の円熟 天保中後期(1830-44)の名所絵」からゆっくり見ることに。

作品名に、金沢、木曽、芝浦、上野、両国といった、なじみの地名が出てきます。出品リストによれば、前期展では播州や天橋立など、関西の地名もちらほら。

心に余裕がでたのでしょうか。鑑賞しつつ、あることに気づきます。
「タイトルに、背景画がついている?」

写真撮影OKコーナーにはそういった絵がなかったので、
リーフレットからの抜粋ですが、例えばこちら

『名所江戸百景 亀戸天神境内』という作品です。
右上にタイトルが書かれており、「名所江戸百景」には赤い背景、「亀戸天神境内」には赤と緑のグラデーションのような背景がついています。「亀戸~」の背景の色は、作品全体の背景の色とリンクしていました。他の作品も同様。

どこから背景がつき始めたんだろう?と順路を戻ると、2章の、近江八景シリーズからでした。広重から受け手への、ホスピタリティを感じた瞬間です。それか、浮世絵師って、みんなやるものなのかな?
先ほど拡大した作品のように、ついていないものもありますが、たいていは背景があった印象です。

ところで、作品1つ1つを眺めていると、江戸も令和も同じなんだな~と感じる場面がいくつも見つかりました。誰かとのおしゃべり、楽しい十日えびす、ごはん、花火、タバコ休憩、お花見の高揚感、空の美しさ。自分もその時間に居合わせた気持ちになりました。

かたや、珍しさを感じるものも。例えば、船漕ぎの方が荷物を届けたあと、船上で昼食をとっている姿、船や橋の上から花火を鑑賞すること。「日常を描く」という意味では、新鮮さを覚えました。これは時間というより、住んでいる場所が関係するかもしれませんね。


プロ絵師、マンネリ化に悩む


「第4章  竪型名所絵の時代 弘化から没年(1844-58)の名所絵」に展示されているのは、自分のマンネリ化に悩む広重が、試行錯誤した時代の作品たち。

1章〜3章までは、よくも悪くも「きれいな」絵が展示されていました。でも、4章になると、本人が試行錯誤しているのがありありと伝わってきたんですね。だからこそ、見る側の私も強く惹きつけられました。オリンピックもそうだけど、挑戦している人には、魅入ってしまう

好きな作品が一番多いコーナーでもあったので、感想を以下に。

🎨185『六十余州名所図会 対馬 海岸夕晴』
虹が美しかった!タイトル文字の背景にも、空の色の一部にも、うっすらと虹色が塗られていましたね。昔から、虹ってあったんだなぁ。

🎨177『不二三十六景 駿河田子の浦』
駿河湾かな。奥に富士山、手前に、やたら大きな、わらでできた山のようなものが2つ。富士山に勝―つ!という意志を感じるような遠近。ちなみに、わらの正体は、「網干」。漁に使用する投網(とあみ)を、三角円錐の形に干している様子なんですって。

🎨175『不二三十六景 相模七里ヶ浜風波』
よくあるのはA4くらいのサイズですが、こちらは、B5か、それより小さいくらい。こんな挑戦もしていたんだな。

🎨196『名所江戸百景 亀戸天神境内』
背景について説明した時に、紹介した作品ですね。
これね、下のほうにツバメが描かれていたんです。スズメやほかの鳥は、けっこう見かけましたが、ツバメはおそらく……他には、描かれていなかったのでは。それほど珍しく感じました。愛らしくもありましたね。

🎨174『東海道 三十五次 はま松』
嵐を予知しているのか、俳人が険しい顔をしていて、緊迫感が伝わってくる。

🎨189『名所江戸百景 墨田河橋場のわたりかわら竈』
都鳥が、いる。先ほどのツバメと一緒で、千鳥やスズメ以外はどの絵にもあまり描かれていなかった。
ちなみに、読めなかったから調べたんだけど……「竈」これ、かまどって読むらしい。確かにモクモクと煙があがっていた。

🎨193『大はしあたけの夕立』
好きというか、教科書で見たやつー!!!と興奮。なじみがあるぶん、嬉しくなりましたね。

🎨198『名所江戸百景 京橋竹がし』
月を眺めている人々が、なんだか印象的。

🎨200『名所江戸百景 両国花火』
両国の花火大会って、1733年ごろからあるんですね!ひょえ~!船から花火を見てみたいな。
絵のほか、巨大なタペストリー化したものを天井から吊っていまして。ハルカス美術館~~!好き~!

🎨211 『山海見立相撲 備前偸賀山』、🎨222『武陽金沢八勝夜景』
前者は岡山、後者は金沢。どちらも、グレーがかった空の絵で、上品で心が落ち着きました。 金沢のほうは、月とのバランスがまた、たまらないんだよな~。


実物にふれると、「感情」が発掘できる


続いては、ザ・生き物コーナー。「第5章  花鳥画」、「第6章 美人画と劇画」ですね。

ちなみに、このジャンルでいうと、竹内栖鳳、上村松篁、葛飾北斎あたりが好きです。私の中で、広重=風景画なので、あんまり期待してなかったというか……(失礼)。

でも、こうして振り返ってみると、けっこう、感情ゆさぶられる作品に出会えたな。実物を見に行く良さって、そういうところにもありますよね!

ここでもいくつか、これは!!という作品が見つかりました。

🎨229『菊に雉』
キジ!きれい!羽のグラデーションが見事。

🎨253『日の出に、波に群鶴』
一方、こちらは怖かった。27羽の鶴がそれぞれ違うポーズで舞っているんですが……生死不明な空気が伝わってきまして。

魚の絵でも思ったことで、なんというか、広重が解像度高く描いている生き物って、そういう空気が感じられるんです。さらっと描いたり、小さく描いたりするときは、むしろ可愛さを感じるんですけどね。

🎨261『江の島弁天開帳詣』
島の形が、今と全く同じで、作品名を見なくとも「あっ!」と。
また、遠近の使い方が、西洋を意識したんじゃなかろうかと思うくらい極端。しかし、1851年というと開国までもう少し間があるから、広重の試行錯誤のなかで自然発生したのかな?

🎨263『江戸名所式の眺 隅田川雪中の図』
背景がとっても豪華!!
な美人画。美人画って、女性が描かれていてなんぼなんですが、美人さん描いたらはい終~わり!みたいな絵が多くないでしょうか?(たぶん)そのほうが、当時の人々に受けが良かったのかな。私は、「流行りの美人画×得意な風景画」なこの作品が好き。一般的な美人画よりも、大変豊かだと感じました!

🎨272『浄るり町繁花の図 焼酎売ほか』
江戸の当時、大流行していた「浄瑠璃」の物語に出てくるキャラクターたちを、1枚に描いた作品。
現代でいうと、プロのイラストレーターさんが、高橋留美子先生の歴代キャラクターを1枚の絵に描く、みたいなことですよね??す、すごい。


歌川広重=風景画ひとすじ、と思った人はいますか?


はーーーーい!!!私、思ってました!

いやねー、違ったらしくて。結果的に売れたのが風景画だった、という。
やっぱり、色々やってみることで、自分の専門分野って見えてくるんですね。5~6章を見たあたりから、うすうす思っていたけど、そうかあ。

というわけで、7章では、広重がいかに多種多様な活動をしていたかが、作品を通して語られていました。

さきほど、広重が、大人気作家のキャラクターを描きまくったとお伝えしました。彼はさらに、古典作品にも手を出していたんです。

例えば、忠臣蔵や源氏物語。🎨293『源氏物語五十四帖 帚木』では、いかに古風に見せるか?の工夫が凝らされていて、感動しました!足し算する場所・引き算する場所を、江戸を描く時とは変えていましたね。オリジナル作品へのリスペクトがありました。

他にも、すごろく、絵本、封筒の柄、うちわ、大掛かりな幕など……めっちゃ仕事してる。仕事してる!!

なかでも印象的だったのが、「幕」。肉筆画かつ大がかりなため、見ごたえ抜群!……なのは良いのですが、なぜか3章の場所に展示されていました。出品リストでは8章のはず。

わたし「これ、なんでここに展示されてるんですか?」
スタッフさん「実は、場所の関係で……」

それもそのはずで、なんと、1.8m×11~16m ありまして……!

どうやって!?どれくらいの期間で!?描いたの!!??

ほかの絵師が描いている、屏風絵や襖絵もたいがいですが、こんな大作を一人で描いたのかと思うと……畏敬の意味でぞっとする。

前期の大幕作品と、こちらと、現存する幕は2つのみ。🎨338『甲府道祖神祭幕絵 東都名所 洲さき汐干狩』ぜひご覧ください。
まわりに他の絵も大量にあるため、オブジェと思ってうっかり見逃す人が多そうです!(例:わたし)

貸し出してくださった山梨県立美術館に、感謝……!!!!

**

NHK協賛ということで、展示のあとには、広重の番組を見られるコーナーが。「まじめ」と「お茶目」が混じり合う性格だったそうです。ちょっと自分と共通しているかもな~なんて思いつつ、お土産屋さんに行きました。

「広重 摺の極」会期は9月1日(日)まで。夏の後半に、ぜひ!


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