認知症ケアが楽しい理由
私は高齢者が入る有料老人ホームで勤務していて、これまで病院や訪問看護ステーションでの勤務歴を合わせると約25年看護師を続けてきた。
有料老人ホームで勤務を始めたのは、認知症のケアが好きだからだ。認知症の方と話すのは興味深く、適切な対応が出来れば相手の表情や行動が穏やかになるし、自分の力量を測りやすい。
よく問題視されるのが「帰宅願望」が強い人だ。入居した日からやたら大きなバッグや紙袋をいくつも持って歩き、エレベーターの前で扉が開くのを待っている。
認知症の人が生活するフロアのエレベーターはロックされているので、テンキーを押さないとエレベーターのボタンは反応しないのだが、他の階からエレベーターが到着する事はある。
当たり前だが、目の前でエレベーターが開いて人が出てきたら、無理やりにでも乗り込もうとする。それをスタッフが止めに入り、乗せろ乗せないと押し問答になる。
乗れずに扉が閉まった後の不穏状態たるや、気性の激しい男性だとエレベーターの扉を蹴って殴って大騒ぎだ。
そこまで怒りがピークになったら、しばらくの間は遠くから見守るしかない。その状態になる前に、状況をコントロールするのがキモである。
エレベーター前に向かったら声をかける。
「○○さん、ちょっと一息入れませんか?コーヒーいれるので。」
「今それどころじゃないんだよ。帰りたいのにドアは開かないしどうすればいいんだ。」
「○○さんは帰りたいんですね。」
「そうだよ。なんで帰してくれないんだ。」
「分かりました。じゃあ車を手配するのでお待ち頂けます?待ってる間に、私とお話しましょうよ。」
この提案に乗ってくれたら、あとはエレベーターが目に入らない場所でコーヒーを出し、この人の武勇伝などを聞き出していけばいい。
ママさんバレーのコーチの経験があった男性には、ママさん達に人気があって大変だったんじゃないですか?と聞けば、「いやー、そんな事ないけどさあ。」と機嫌を良くしていくらでも話をしてくれる。多くの高齢者は自分の話を聞いてくれる相手を探しているのだ。
持ち上げながら話を聴き、満足した表情になれば、しばらくの間は気持ちが落ち着いて過ごす事が出来る。
帰りたいという思いは不安の表れなのだ。
上手くいく時ばかりではないが、相手の表情が穏やかに変化するのを感じた時は、認知症ケアの面白味を感じる。暴言暴力のある場合には、収めてみせるぞーとやる気が出るし、色んな方法を試してみる事にわくわく感がある。
最近はユマニチュードの研修を受けている事もあり、目を合わせて、触れて、話しながら(実況)、処置をする事に自分自身が慣れようと努めているところだ。
ユマニチュードとは「優しさを伝える技術」と言われていて、尊厳を守るための哲学。
まだ研修の途中だが、ユマニチュードを学ばせてくれる会社には感謝している。(研修費用はかなり高額!)
これは効く!と思う瞬間がたくさんあり、即効性にも驚いている。
自分の中に落とし込めたら、ここで紹介したい。
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