今こそ卵黄の話をするときだ
卵黄。
なぁ卵黄。
別に好きにやっていいけどさ、
残された卵白のことは忘れるなよ。
卵黄、今日はきみに話がある。
インスタやTikTokにいるよくわからないグルメインフルエンサーが話題のお店とか言って紹介する飯の卵黄乗ってる率は異常である。
昔からわりと卵黄が乗ってたユッケや卵料理のカルボナーラならまだしも、最近はローストビーフ丼や海鮮丼にすら卵黄は乗っている。
その料理、本当に卵黄いりますか?
卵黄が乗っていることで見た目は鮮やかになるのは認める。確かに卵黄が中央に乗っていると綺麗に見える。綺麗な見た目の料理は美味しそうだし時に高級感も演出できる。
そして卵黄を割るときのなんとも言えない罪悪感も嫌いじゃない。綺麗に盛り付けられた料理を自分の手で壊して今から食べるというあの感覚だ。
だが、卵黄の仕事は基本的にここで終わりだ。
なぜなら卵黄の有無で味が大きく変わらないからだ。いや、正確には少し変わる。卵のとろっとした感じとか甘い感じが出る。でも一度割った後の卵黄の存在感はとても薄い。食べ終わったときに卵黄の印象がない場合の方が多いように思う。
例えば台湾まぜそば。
私の大好きな食べ物だ。中央に乗っているのは卵黄。全体を混ぜて食べるのが王道の食べ方だ。
だがこの卵黄、食べるときに一度全体を混ぜればほぼ無になる。ニンニクやニラ、肉のミンチ、魚粉などのパンチが強い食材や食感が特徴的な食材に負けに負けて、卵黄はどこかにいなくなる。
食べる前は主役級の存在感があったのに、いざ開演すれば脇役に徹しすぎである。
卵黄というのは箸で食べるためには絶対に崩さなければいけない。つまり固体でなく液体の枠なのだ。でも味付けはタレやソースがする。卵黄は味に直接大きな影響を及ぼさない。散々お膳立てされているのに、シュートを打つのは卵黄ではなく調味料だ。
つまり卵黄はちょっと味のする金箔みたいな存在でしかない。
卵かけご飯ですら、食べるなら醤油か麺つゆか塩はかける。調味料なしの卵黄単体ではほぼ何もできないのだ。
卵とかいう助演男優賞
卵は確かに美味しい。
それは認めるのだが、卵黄に関しては過大評価をされているというのが私の主張だ。
卵黄の有無でうまいかまずいかが分かれる料理はほとんどない。
ただ、そこがいいところでもある。
料理を綺麗に見せる役割を演じて、美味しそうにする役割を演じる。それでいて主役の邪魔をしない。
金箔より安価だし美味しそう。
トリュフのように風味が強い訳でもない。
まさに最強の助演男優賞だ。
プロデューサー側がこのような評価をするなら気持ちは分かる。
だが、安易な卵黄乗せに頼った料理に溢れていることと、それを卵黄が乗っているからと馬鹿の一つ覚えみたいに美味しそうとか思っちゃうことは危機感を持った方がいい。
卵黄は見た目以上に仕事をしていないんだ。
サボりまくりなんだよ。
醤油が、ネギが、ニンニクが、生姜が、トッピングのみんなが一生懸命に自分の風味を出そうとしているのに、卵黄は何もせず溶け込んでサボっているんだよ。
トッピングとして、必要性は特にないんだよ。
今の世の中、本当は卵黄を必要としていないのに卵黄が使われている食べ物がいっぱいある。
トッピングで言えば同じ黄色担当のマヨネーズは、一気に根底から味を変えるゲームチェンジャーだ。あの唐揚げや生姜焼きすらマヨネーズによって流れが変わる。台湾まぜそばとも対等以上に渡り合う。サボることを許されている卵黄とは大違いだ。卵黄は白米でようやくトントン、台湾まぜそばなら完全に負けるような貧弱な存在なのだ。
卵白を忘れるな
そして忘れてはならないのは、卵黄を使うことで卵白のロスが生まれていることだ。
もちろん、再利用している店もあるだろうが大半はロスになってしまっているだろう。
卵白はスイーツならメレンゲになるし、生で食べると卵黄より主張してくる。なのに目玉焼きになると脇役に徹するという卵黄以上に尖った性能を持っている。
それでも、残念ながら卵黄が評価されるこの世の中では卵白の仕事はないことが多い。
特に役に立たないけど見た目をちょっとよくするだけの卵黄のために今日もおそらく多くの卵白が犠牲になっている。元々は黄身と白身でひとつだったのに。マテンロウのアントニーと大トニーくらいの格差はある。
フードロスの観点からもこの卵黄至上主義を見直すべきではないだろうか。
例えばローストビーフ丼や海鮮丼に、本当に味の面で卵黄は必要なのだろうか。
味以外にも、海鮮丼の場合は海鮮という統一感すら壊している。海にいないのに堂々と真ん中に鎮座してるのはどうなんだ。端っこで遠慮しているわさびを少しは見習った方がいい。
卵黄を入れて、その料理は本当に美味しくなっているのか?
最後にもうひとこと
他にも言いたいのは、卵は本当はもっと使われるべき場所があるということだ。卵白を犠牲にして食べ物の見た目をちょっとよくするだけの使われ方は実にもったいない。
この世の中にはたくさんの美味しい卵料理があるのだから。
オムライス、厚焼き卵、スクランブルエッグはまさに卵が主役だし、お好み焼きやトンカツの衣みたいな脇役にしても最重要な役割を担える食べ物がある。
今後も卵黄を中央に乗せて写真映えさせる料理は増えると思う。ルッキズムはもう人間だけのものじゃない。
この問題は食べ物が見た目が重視されている傾向、食べ物そのものより「食べ物の情報」が評価されていること、食べ物やそれを食べる自分の記号性によって自己表現してしまう現代人の根深い問題にも関わってきそうだ。
ということで皆さんは黄身と白身はどちらが好きですか?
私は最後まで読んでくれた君が好きです。
それでは。