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ショートストーリー『煙の向こう』

今回は遠い過去に綴った文章を。

あ、ちょっとその前に…。


昔はけっこうなスモーカーで、タバコをこうした文章の材料にしていたこのオレも、今ではすっかりアンチスモーカー。

あの頃のタバコは、オレにとってはひとつのファッション・アイテムだった。いつでもどこでもプカプカスパスパ。ホントにいい気なもんだった。

そういう時代だったとは言え、あの頃だってタバコがキライな人もいっぱいいただろう。ケムリを吸ってはいけない人もたくさんいただろうに、オレはなんて大きな罪を犯していたんだろうと猛反省。今じゃそいつは大きな後悔のタネ。

若さと愚かさは紙一重。あの頃はタバコがカッコイイと思ってた。

時は移り変わり、タバコをやめてからはそれは真逆になった。今の時代、タバコはめちゃくちゃカッコ悪い。

タバコのケムリは風に流れ空気に混じり、多くの人に襲いかかる。ケムイ・クサイの迷惑はきっと今も昔も同じだろう。

そこに気づいていなかったバカなオレ。今はそんな昔のオレみたいな人々にタバコのケムリとニオイで苦しめられている。

気づいて欲しい。わかって欲しい。今の世のあの頃のオレみたいな人々に。ソレはもう、過去の時代の物語を書く時だけの素材でしかないということを。


  ショートストーリー《煙の向こう》


ただくわえただけの細身のタバコ。
その先っぽから、
ユラユラとくゆるの煙のその向こうに、
君の後ろ姿が見える。

僕は雑誌など読んではいない。
ただひろげただけの雑誌を越えて、
視線は、
懐かしい君のロングヘアへと飛んでいる。

あの頃の君は、
もっと近くでこちら向きだった。

そして、
僕の話すどんなつまらないジョークにも、
楽しそうに、
あどけない笑い声をたてていた。

その頃から比べると、
流れるように美しい髪がかかる君の肩、
心なしか大人びて見える。

あれから二つ目の冬になろうとしている。
今年の冬は例年になく寒くなるらしい。

ふと気づくと、目の前の、
カップ三分の一ほど残った
ホットチョコレートも、
すっかり冷めてしまっていた。

冷めたホットチョコレートは甘過ぎる。
僕は一気に飲み干した。
何だか、
君との思い出を飲み干したような、
そんな味がした。


           End



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晃介
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