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帰 郷 (1)
帰 郷 (1)
開け放された
玄関の戸を背に義母が肘枕で眠っている
ダイとリュウは裸足のまま庭で
水鉄砲のかけ合いをしている
夫が六畳二間つづきを雑巾がけしている
わたしはかまどに木をくべて
鉄瓶の沸騰を待っている
かまどの火は切り立って燃える
鶏の牡とチャボの牝がビクッと座敷に飛びあがる
猫が義母の足もとで丸くなって眠っている
天井は黒ぐろとひかり
かまどの煙を飲みつくしている
夫はシャツを脱いで畳を拭きつづけている
リュウの声が空を突き抜けてくる
飛んで行くと庭は水びたしでリュウの
眼以外は泥んこで埋まっている
体をふるわせて泣きじゃくっている
ダイは両手いっぱい泥をにぎり
豹のようにすきをうかがっている
夫の怒声 グサッ グサッ と
鶏たちが縁がわから落ちてきた
逃げる鶏のあとを泥んこの二人が追って行く
家の前は勤めに出ている義姉の田である
れんげが丈高く咲いている
チャボが田んぼに飛びこみ
ダイとリュウも走りこむ
田んぼの横のちっちゃな畦で蛙がはねたか
あっ かえる かえる どこ どこ という声が響く
わたしは下駄をシポシポいわせ土間をまたぐ
鉄瓶は沸騰して蓋がはげしく息づいている
薪は切り立っている
猫が足早にわたしの横を通りすぎ
義母が像のように
起きあがった
詩集「生える」より (12)’