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【春秋一話】03月 平野選手のセルフマネジメント
2022年3月21日第7136・7137合併号
2022年2月20日、北京で開催されていた冬季オリンピックが閉幕した。前年、東京五輪が新型コロナウイルスの緊急事態宣言の中で開催されたのと同様に、今回の北京冬季五輪も中国独自のゼロコロナ対策の中で開催され、選手や関係者は他との接触のできないバブル方式という厳戒態勢の中で参加することとなった。
様々な競技で選手の活躍が報道された一方で、今回は運営上での問題点も話題となった大会であった。
最も印象深いのはROCとして国名を名乗れずに参加したフィギュアスケートの選手のドーピング疑惑であろう。もともとロシアという国を代表して出場できないきっかけがドーピング問題であったにもかかわらず、今回の選手のドーピング問題を解決しないまま出場させたことについては各方面から非難の声があがった。
一方、日本の選手は競技の審判方法などの問題に巻き込まれた。冬季五輪初の競技であった男女混合ジャンプに出場した髙梨選手が滑走後の検査でスーツの規定違反として失格となったが、全日本スキー連盟は国際スキー連盟に対しスーツの検査の在り方などについて意見を添えた文書を提出するとの報道があった。
また、スノーボード男子ハーフパイプに出場した平野歩夢選手の2回目の滑走の得点に対し、多くのメディアから疑問が呈された。
平野選手は、昨年開催された東京五輪のスケートボードに日本代表として出場し、それから半年の準備で今回の冬季五輪に臨んでいる。東京五輪では予選敗退となったが、本来の得意種目であるスノーボードは3回目の冬季五輪挑戦。これまで2回の大会とも銀メダルだった彼にとって何としても金メダルを獲得したいという思いは強かっただろう。
スノーボードの競技の決勝は各選手が3回の滑走を行い、そのうちの最高得点で争われる。1回目で転倒して臨んだ2回目の滑走は彼の持ち得る最高難度の技を披露し、テレビ解説者からも「世界最高の滑走」と絶賛されたが、得点はその前に滑った選手に及ばなかった。このため平野選手は3回目の滑走を行うにあたり、それ以上の難度の技に挑むか、同じ技で滑るか悩んだという。結果的には2回目と同じ技により最高得点を記録して金メダルを獲得した。
平野選手は翌日の記者会見において、前日の2回目の滑走に対する予想外の低い判定の後に「おかしい。イライラした」と話している。
オリンピック決勝という最高の舞台でこのように動揺した後に土壇場で逆転することができたことは、彼自身のメンタリティのコントロールが素晴らしいことの証であろう。
怒りを自分自身でコントロールすることを「アンガーマネジメント」と呼ぶが、怒りの感情はポジティブにもネガティブにも作用する。期待した結果が得られなかったからと怒りに任せて行動すればますます状況は悪くなる。
一方、怒りをうまく生かすことができればいつも以上の力を発揮できる場合もある。そのためには「おかしい」「ひどい」というとっさの怒りの感情から距離をおき、自身の本来向かうべきものは何かと振り返る余裕を持つことが大切である。
新聞記事によれば、平野選手は「勝つ」ことよりも「本来の滑り」をすることにこだわったという。
冬季五輪という最高の舞台でて気持ちが動揺しながらも金メダルという結果を出した平野選手に、どのような場面でも常に何を目指しているかを忘れないというセルフマネジメントの大切さを教えられた。
(多摩の翡翠)